血と聖水フレイムU「アルテイジアの微笑み」







「新教皇庁の視察にうつる。文句はないな、カシナート王」
「は」
「帝国騎士たちは一度お前に預ける。遅れて進軍するようにする」
「でも、それでは御身に万が一のことが」
「あるはずがない。俺を誰だと思っている。ネイだぞ。夜の皇帝ネイ。俺を殺せるものなど、神しかいない」
「はっ」
カシナート王は跪いた。
その視線は、いつもティエリアに注がれていた。
ティエリアは、カシナート王の頬を叩いた。
「無礼であろう、カシナート王!正妃である私に、そのようにじろじろと。身をわきまえよ!」
「はは、ご無礼を」
カシナート王は、地面に這いつくばって、正妃であるティエリアに許しをこう。
「お前・・・・」
「何か、ロックオン?」
「いや・・・・」
ティエリアは、気づいているのだろうか。
自分の振る舞いが、かつてのジブリエルそっくりであることを。
ジブリエル・ラ・フレイムロード。ロックオンが愛した妻は、このフレイムロードの国出身の女王であった。ジブリエルの名は、フレイムロードの国に今も残されている。

「懐かしい。本当に懐かしい・・・・フレイムロードの国。千年ぶりですね」
ティエリアは、乾いた空を見上げて涙を零す。
「行こうか」
「はい」
ロックオンはナイトメアを呼び出して、新教皇庁に、いくという使いも出さぬまま出発する。
ナイトメアの速度ははやい。
カシナート王の無礼な視線、まるでなめまわすような視線に耐えながら、ロックオンと二人で国中を視察してもう2週間が過ぎようとしていた。
視察できたのだから、ちゃんと視察をして裏をかかれないように。
帝国騎士を残してきたのは、足手まといになるからだ。
護衛をするにはうってつけだが、命にかえてもネイとティエリアを守ろうとするので、逆に自由がきかない。
帝国騎士には、遅れて出発するように命じた。だから今は一人も連れず、ロックオンをティエリアが新教皇庁の門を叩いた。
「誰であるか」
「ネイ。その血族、正妃ティエリア」
「は、なんと?」
「新教皇庁、反逆の罪により、これより一掃する」
「何ゆえに、そのような無体を!」
「俺が許した教皇庁は帝都に存在する。2重の存在など無意味。新しい教皇は、帝都にいる。お前たちが守る教皇を差し出せ。そうすれば、お前たちは、処刑ではなく反逆罪として流刑だけで許そう」

新教皇庁はすぐに混乱の渦となった。
逃げ回る教皇庁のエターナルたちを、遅れて進軍してきた帝国騎士の部隊が次々と捕らえ、縄をかけていく。歯向かう者は容赦なく切り捨てる。
それが、ネイの命令であった。
「あああ・・・・・アルテイジア様、お逃げ下さい!」
「いよいよネイが・・・・きたのですね」
「アルテイジア様!!」
傍仕えの女官たちも、帝国騎士によって捕まえられていく。
もう、身を守る者など、誰もいない。

もともと、いなくてよかったのだ。
私は、この世界に存在してはいけないのだから。
死者である。仮初に命を復活しても死者は死者。この世界に必要はない。

「どうか・・・・穏便に。ネイ様・・・女官や家臣たちは、何もしりません。反逆罪は、教皇一族と、そして元教皇庁の者たち・・・・それにカシナート王と、そしてアルテイジアであるこの私です」
ネイの前に、ジブリエルの使い魔が現れ、女官や家臣たちを解放するように懇願した。
ネイは、言葉通りにした。
「夕日が沈む時、お待ちしております。あなたと過ごした、このフレイムロードの宮殿にて」
「夕日・・・・もうすぐだ」
ティエリアは、刹那が聖女マリナを救出したことを確認し、聖女マリナには帝国騎士をつけて帝都へ先に帰還させた。
「僕が・・・・ごめんなさい」
「何故なく、ティエリア」
「ジブリエルの心がよく分かる。ただ、哀しい」
「今から、その悲しみを断ち切りにいく」
「あなたは強いのですね」
「お前がいるからな」
「そうですか。いつか、僕よりも愛しい存在が現れたら、僕も?」
ロックオンは、乱暴にティエリアに唇を重ねる。
「そんなこと、あるものか。お前より愛しい存在など。ジブリエルも愛しいが、それはお前でもあるからだ」


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