血と聖水フレイムU「皇帝たちの裁き」







「アルテイジア・・・・そうまでしても、俺の血族になりたいのか」
アルテイジアの魔石の結晶が、消えていったジブリエルの後に残されたのだ。
魔石はアルテイジアそのもの。粉々に砕かれたそれは、魔力によって血となり、肉体はないがかわりに血で体を形成する。
「当たり前だ!私は血の神となるのだ!!」
血の塊は叫ぶ。
「お前を、お前を支配して私は神となる」
アルテイジアは血の渦となって、ロックオンに襲いかかると、そのまま肉体に浸入する。
「ふははは・・・・これで、これで私はネイ、血の神・・・・」
ティエリアは叫ぶこともない。
信じているから。
「血の・・・・神は、何故、何故私を否定する!!」
「そりゃ、お前は俺じゃねーからだよ。お前はしょせんアルテイジアであって、それ以上でもそれ以下でもない。ネイは、それ以上でもあればそれ以下でもある。それが血の神。万能でもなければ、時に神としての力を見せ、だがただのヴァンパイアの時もある。俺のように気まぐれ。だが、お前がネイになることはない。そして、ネイの血族になることも永遠にない」
ロックオンは、体からアルテイジアを追い出した。
「ネイ、ネイ!!」
渇望するように、血の渦となって再びネイを求めるアルテイジアに、ロックオンは哀れな眼差しを向ける。
「ただの教皇でいればいいものを・・・お前を、支配するのは俺だ。お前だけでなく全ての民の管理者である、ネイは」
「ネイーー!!」
「せめて、ネイの力で葬ってやろう。エーテルイーターリミット解除、始動・・・・65%限定解除、ファイア!」

真っ白な6枚の翼が現れたかと思うと、それはエーテルイーターの本体そのものである。同胞を食らう神の力。エーテル(神の力、生命力、魔力)を食らう、異形の意識を持たぬ生命体。それがエーテルイーター。ネイに支配され、ネイの意思によってのみ封印を解除され、起動し、始動する。
「エーテル・・・・イーター・・・・私が、夢見た・・・・・神の、証」
エーテルイーターとなった白い翼は巨大に伸びて、一つの口となってアルテイジアの血を啜る。
アルテイジアから、エーテル力、生命力と魔力を奪っていく。
真っ赤に染まるエーテルイーターは、咆哮した。
「まずいか・・・・我慢して食え、エーテルイーター。歯向かうことは許さない」
「私のエーテルが・・・・」
エーテルイーターは、完全にアルテイジアの血を一滴残らず飲み干した。
アルテイジアの意識は、エーテルイーターの中に取り込まれ、四散した。
「さようなら、アルテイジア。永遠に」
ティエリアが、エーテルイーターを封印するロックオンの背の翼を見ながら、夜空を見上げた。
何時間も、夜が明けるまでティエリアは大人しくなったロックオンを抱きしめていた。傷ついているロックオンの心を癒すように。愛したジブリエルを弄ばれた彼の心は、憎悪と殺意をこえて悲哀に満ちていた。愛と紙一重の感情たち。

やがて遅れて進軍してきた帝国騎士たちの手によって、今回の騒ぎに加担した物は全て捕らえられた。
こうして、新教皇庁はあっけなく、一夜で滅びた。
ネイの裁きにより、新教皇庁に加担した者は処刑が決められた。またいつ反逆するか分からない連中ばかりだったからだ。
ジブリエルの願い通り、女官や家臣たちは解放された。

「怨む。ネイ、お前を〜〜!!」
「皇帝メザーリア、いつか殺してやる!!」
「正妃、お前もしねー!」
たくさんの恨み言を残しながら、ティエリアとネイ、皇帝メザーリアの前で、そして一般の民の前で処刑は行われた。
反逆罪は死。ギロチンによる死刑だ。
次々と転がっていく首が、ネイのところに転がってきた。
「ネイ・・・・死を、いつか死を・・・」
その首は、ロックオンに呪詛を吐いて息絶え、灰となった。
ヴァンパイアはタフだ。首と胴を切り離してもしばらくは生きている。だが、コアを破壊しなとくとも、胴と首を切り離せば大抵死に至る。ヴァンアパイアのコアは心臓か脳にあるものだ。ネイのように、コアを自由に意識によって場所を変えれるのは上位存在・・・そう、支配する者。今回の処刑の中には皇族も混じっていたが、ギロチンで首を刎ねても死なないので、コアを破壊された。
「ロックオン・・・」
「ティエリア。気分悪いだろう?こんなのに、付き合う必要はないんだぜ?」
「いいえ。僕も、歴史の一部を担っているのですから。処刑されるなら、それに立ち会う義務があるのです」
「そうか」
目まぐるしい帝国での一日が終わる。
処刑された者の身辺調査を皇帝の家臣に任せ、ロックオンはティエリアとそして皇帝を伴って再びフレイムロードの国へ向かった。視察といって全国を見回ったが、これといって変わった様子もなく、ネイを支配者として受け入れるところばかり。
閉鎖的な北の鷹の国ですら、ネイを受け入れ歓迎した。
ネイは、帝国の開祖であるのだから。
畏怖されるだけであるが、敬いを忘れてはいけないと、民は恐怖心に振るえながらロックオンと接する。最も、隣にティエリアがいるし、ネイとしての存在は薄い。ロックオンのままで帝国全土を視察した。
帝国は一つの国であるが、自治区なども一つの国となっており、そんな国と国が合併したものが帝国という巨大な国家となっていた。
フレイムロードの王宮で、カシナート王はロックオンとティリエリアを出迎える。
そのカシナート王に、ロックオンは血でできた剣を首につきつけた。側仕えの女官や家臣から、悲鳴があがった。
「アルテイジアの口から、カシナート王、お前の名前ができてた」
「観念しろ、カシナート王!」
少女皇帝は、多数の帝国騎士を従えながら、ロックオンの後ろでカシナート王が逃げることができぬように入り口を全て帝国騎士によって塞がせた。
「ネイ様、どうか穏便に!カシナート王は、何も悪くございませぬ!我らを守るためにアルテイジアを冊立したのであって」
カシナート王は、長い床まで届きそうな金髪を綺麗に結っていた。褐色の肌に、蒼い瞳がよく映える。見た目だけなら、皇族よりも美しい王だ。男性としての、そして王として気高き美しさと威圧感がある。
それよりも威圧感を持った、カシナート王など膝元にも届きもしない気高い美しさと男性的なロックオンが、エメラルドの瞳で騒ぐ家臣や女官らを一瞥する。
カシナート王は、不遜に笑う。
ねばつく視線がティエリアに注がれ、そしてロックオンに戻る。
「さて、なんのことでございましょう。狂った教皇の言葉をそのまま信じられると?」
カシナート王は、素手でロックオンの血の剣を握りつぶした。
この王は、魔力が高い。寄生した民の魔力をかき集めていると、ロックオンは推測していた。
「・・・・・・証拠がない。それ以外に。お前を反逆罪で処刑すれば、他の自治国家が騒ぐ。だが、今回のアルテイジアの件を黙認し、皇帝に救いを求めず放置した貴様の罪は大きい。カシナート・ル・フレイムロード王。お前を、フレイムロード国に10年の謹慎処分とする」
「は。確かに、新教皇庁をとめられなかったのはわたくしですので。謹慎処分、謹んでお受けいたします」
「ネイ様、甘い!!」
皇帝メザーリアは、カシナート王を反逆罪で投獄するのだとばかり思っていた。
「私なら、私なら処刑する。だが・・・・くそ、カシナート王。民と命の共有など・・・・私の許可もなく・・・領土も勝手に広げて。カシナート王、皇帝の名において命ずる。今度許可なく勝手な真似をすれば、お前から王位を完全に剥奪し、王太子に王位を譲る。よいな!私は皇帝。ネイ様よりは下だが、お前はただの家臣。家臣は大人しく従え」
メザーリアの言葉にその場に跪いて服従を誓うカシナート。
謁見広場から、カシナートは不遜な笑みを浮かべて去っていく。
去り際に、ティエリアの耳に耳打ちする。
「あなた様は本当に美しい。ジブリエル様よりも美しいのは中性であるが故か?ネイ様の正妃から、いずれ奪ってみせましょう」
その言葉だけでも不敬罪。ティエリアは、我慢した。
ねばつく視線にも、そして手にキスをされる、王の挨拶も我慢して受けた。
皇帝メザーリアは反論したが、それ以上の罰を与えるわけにもいかない。
自治国フレイムロードは、帝国の中にあっても皇帝よりも王を敬う民ばかり。
あんな王でも王は王。
王族としての寿命を与えてくれるありがたい王なのだ。カシナート王が、この寿命制度を発案した。本当に食えない王だ。


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