|
「ティエリア、どうした眠れないのか」
「うーん。ちょっと目が冴えちゃって。お昼にフェンリルの昼寝につきあったのがまずかったです」
「子守唄でも歌ってやろうか」
「いりません。あなたの子守唄は子守唄ではなくてただの音程の外れたわけの分からない歌ですので」
寝室にベッドは一つ。客室は2つ、ベッドが二つずつ揃っている。
ロックオンとティエリアの寝室は同じ部屋。ベッドはダブルベッドで、枕も二つ。いつもそのベッドでティエリアとロックオンは眠り、時にSEXをする。フェンリルの寝床は、客室にあるのだが、よく一緒にフェンリルもベッドの上で丸くなって眠る。
でも、流石にSEXの時はフェンリルを入れるわけにはいかないので、その時はフェンリルもロックオンに追い出されて大人しく客室の自分の寝床、バスケットの中に羽毛クッションのしかれたお気に入りのその場所で眠る。
今日はフェンリルも一緒に眠ることになっている。
フェンリルの寝床のバスケットを持ってくると、フェンリルはにゃあと甘えた声を出して、主であるティエリアの肩によじ登って、顔をティエリアの頬にこすりつけた。
「くすぐったいよ、フェンリル」
「主大好きにゃー。今日も一緒に寝るのにゃ。これでロックオンの腐れ男がいなければ最高なのににゃあ」
「誰が腐れ男だー!」
「お前なんて粗大ゴミだにゃ!あにゃ、間違えた生ゴミだにゃ〜」
「確かに、ロックオンをゴミに出すとすれば生ゴミですね」
「ティエリアまで二人していじめるな!」
「フェンリル、おいで」
ベッドの中のティエリアが、フェンリルを呼ぶ。
フェンリルは、バスケットで寝ようとしていたのだが、大好きな大好きな主の声に我慢できなくて、寝床を飛び出してティエリアの腕の中に飛び込んだ。
「ごろにゃーーん」
「そうしてれば、お前さんもかわいいんだがなぁ」
「きもいにゃ!ロックオンにかわいいっていわれたにゃ!きもいにゃ!!」
「お前な・・・・」
フェンリルは、そのうちうとうとと目を閉じて、ティエリアはフェンリルを布団の上に置いた。
「ごろにゃー。明日こそロックオンを退治するにゃー」
「だ、そうですよ」
「眠ってまで俺を退治したいのか」
ティエリアはクスクスと笑った。
「さて、俺も寝るかな」
「眠くありません」
ロックオンを揺さぶり起こすティエリア。
「何?エロいことされたいって?」
すぐに、ティエリアはロックオンの顔にビンタしてやった。
「どうして、あなたは思考がそこにいきつくのですか!昨日したでしょう!もう今日は嫌です」
このエロヴァンパイアはタフだ。体を週に3〜4回は繋げている。しかも回数が多い。いつもぐったりとなって、ティエリアは気絶するか、身動きもとれないほど疲れ果てるのだ。
それでも、求められるとティエリアもロックオンの要求に応じる。
愛があるからこそ、こんな生活も続くのだ。支配し、支配される愛。それがヴァンパイアたちの愛し方。尽くし、尽くされる愛もある。人間との愛と変わらないが、ただ違うところはマスター、支配者をもつこと。永遠の愛の血族であっても、マスターはマスター。対等な存在であっても、マスターという存在は変わらない。縛られ、服従させられないだけで、自由を与えられるのが永遠の愛の血族の特徴だ。普通の血族は、支配し縛り、絶対服従を相手に要求する。だから、永遠の愛の血族になりたがる者は人間の中にも多い。ヴァンパイアの上位であるロードやヴァンパイアマスターの永遠の愛の血族になれば、数百年から千年ほどの生きることができるから。でも、ヴァンパイアたちは自分の意思で血族を選ぶ。本当に愛した者しか、永遠の愛の血族にしない。その愛にも様々なものがある。恋人同士の愛もあれば友情でもあれば家族愛でもある。
「子守唄がいやなら・・・・そうだな、俺の過去を話してやろうか」
「恋人が10人いたとかそんな話ですか。聞き飽きました」
「いやいや。恋人は恋人でも・・・・流石にあのハニーは、普通の恋人の枠にするにはちょっと無理があるな」
ロックオンは、ティエリアに昔のことを、ティエリアが知らない千年間生きてきた頃のことをたまに話す。あの精霊と恋人だったと話されても、ティエリアはそうですか。もちろん今は違いますよね?と聞き返す。ティエリアはロックオンを信じているのに、ちょっとした焼餅焼きだ。そうさせたのはロックオンの甲斐性がない過去の、女性遍歴のせいであろうか。
ロックオンは、ヴァンパイアの中でも名を馳せた無類の女性好きで、千年間の間に関係をもった女性の数は100を余裕で上回る。同じヴァンパイアから人間、精霊、他の亜種族、エルフとか・・・・。とにかく多い。中には魔の存在の両性具有であったインキュバスやサキュバスまで混じっているのだ、本当に節操がない。
ただ、誰と関係を持っても完全に避妊していたし、特に相手が人間である場合は、もしも人間にヴァンパイアと人間のハーフの子が生まれれば、その子は禁忌の子であり、成長するに従って狂って、人間を殺しまくる怪物となるため、自分の手で我が子を殺さなければならなくなる。だから、人間と関係を持つ時は特に気をつけていた。ロックオンは容姿がかっこよく男性的に美しい。その虜になった女性たちは多い。中には他の男の子を身篭って、ロックオンの子だといいはって、血族になりたがる女もいた。
だがすぐにばれる。お腹の子を探れば、そこに自分の血を宿していないのは確実だった。
恋人といっても、一緒に住んだりするわけでもない。そこに愛などなかった。相手も愛を求めようとしなかった場合がほとんどだ。ただのセックスフレンド。
ロックオンと関係を持ったことで有名になりたがる女も多かった。
ロックオンは、千年間誰にもたとえ関係を持っても愛を囁かなかった。ある一人を除いては。愛しているという言葉を言わなかったのだ。「愛している」という言葉は魔法になる。相手を夢中にさせる。嘘はいいたくなかった。愛してもいない、ただ好みのタイプというだけで、好きとさえ言わなかった。
そんな相手と長続きするわけがない。
住んでいた古城は、身の周りは血でつくりだしたオートマティックバトルドールのメイドですませていたし、女を古城に数週間泊めることはあったが、一緒に住み続ける気はさらさらなかった。
相手が出ていかないのであれば、ロックオンが自分から出て行った。
そんな虚しい日々を送っていた。ネイとしての深層意識が、ティエリア以外に愛を囁くなとロックオンを動かしていた。ロックオンとて男。女好きという人格が形成されてしまっていたし、ネイはロックオンに女のセックスフレンドを持たせることはさせても、決して愛を囁かせなかった。
ネイとロックオンは、人格は混合したり、別であったり・・・。別人格というのとは少し違う。ロックオンの奥にネイが眠っている。ネイはロックオンでもあり、ロックオンはネイでもある。でも、当時はネイという人格は眠ったままだ。そもそも、ネイという人格は自分のことを我と呼ぶ神、夜の皇帝として形成された人格だ。その人格は一度狂った時に破壊され、ロックオンという人格が上から上書きするかのように形成された。でも、ネイの片鱗も含んでいる。
ロックオンは、少し不思議な存在だった。
ネイとして覚醒すると、はじめは完全にネイの人格になるのに、ロックオンが混ざっているので、いつの間にかロックオンに戻っている。
NEXT
|