血と聖水ロックオン外伝「魔女と吸血鬼」4







「ぬおおお!?」
ロックオンは、次の日には驚異的な回復力を見せて、体の傷は塞がっていた。まだコアは傷ついたままなので、ベッドから起き上がることはできないが、目覚めて吃驚した。
だって、ベッドの隣に死んだトナカイが寝ていたから。
「何故にトナカイが!?」
「おや、起きたかねぇ。そのトナカイは夕べ私と契約した狼たちが仕留めてくれたものだよ。しばらくの間の食料さ。野菜類は裏の畑で栽培しとるけど、肉は町にまで出ないと手に入らないからねぇ。町は遠いし雪が降っている。だから、冬の間は契約した狼が仕留めてくれたトナカイや雪兎を食べるのさ」
「な、なんで俺のとなりに寝かせてるんだ!?」
「置く場所がないから」
「そ、そうか・・・・・」
置く場所は十分にあるように見えたが。魔女のホームは案外広かった。深い森の奥に建てられていて、2Fにいくには巨木にそって作られた木の螺旋状の階段を登らなければならない。
1Fは普通の家で、2Fは離れのようになっていて、木の上にあった。
「ほれスープじゃ。雪うさぎの肉が入っててうまいぞ。食べなされ」
もう数日も何も食べていなかったロックオンは、暖かいそのスープを受け取って、全て食べてしまった。
「おいしい」
「そうじゃろ、そうじゃろ、何せ私は世界名コック劇場の主役を魔法で倒したからの」
「それって、魔法で倒したんじゃ意味ないんじゃ・・・」
「けかかかかか。細かいことは気にするなダーリン」
「ええと・・・・ハニー。聞いていいか?」
「なんじゃ」
「ハニーの名前、なんていうの?俺はロックオン・ストラトス。ハニーの名前が知りたい。当分世話になりそうだし」
「私の名前か」
そこで、ロックオンのハニーな魔女はぽっと頬を赤らめた。
「なんで紅くなるの」
「いやん、ダーリンたら。こんな朝からプロボーズだなんて」
「なんでそうなるの!?」
「まぁ冗談じゃ。私の名前は、ムキムキ水虫マンじゃ」
「えっと・・・・可愛い名前だな」
ロックオンは無理に作り笑いを浮かべた。
「とあー!」
魔女は、扇を取り出すとロックオンの頭をはたいた。
「あいて!」
「そこはボケるのが常識じゃ!そんな名前あるかいって!」
「う、そうだな」
「私の名前はなぁ・・・・アリア=リラじゃ」
「リラ。綺麗な名前だな。金色のアリア、銀色のリラ?」
「おや、知っておるのか。そうじゃ、伝説の金色の乙女アリアと銀色の乙女リラの名を、親からつけられたのじゃ」
金色のアリア、銀色のリラとはこの世界にはじめて生まれた双子の姉妹の名前だった。
金色の髪が美しかったアリア、銀色の髪が美しかったリラ。二人は人間でありながら、女神として崇められ、アリアは水を、リラは緑を約束してくれるという。特に砂漠地方で崇められることが多い双子の女神。
とても美しくて有名だったという。アリアとリラは、砂漠地方でアリアは雨を降らせ、リラは緑を、森を増やしてくれたと神話にはある。
創造の3柱神ほど有名ではないが、太陽神でもあるライフエル並みに有名な女神。
「へぇ。ハニーにぴったりな名前だな」
ロックオンの笑顔に、リラは包丁を持ち出した。
「うわ、何!?俺怒らせた?」
「ちゃうわい。隣のトナカイさばくんじゃ。肉は燻製にせんとな。毛皮はいい値段でうれる。角は薬の材料じゃ」
おばあさんなのに、てきぱきとトナカイを捌いていく。内臓はバケツにいれた。
血にまみれたベッドと床を、リラは清めの精霊を呼び出して浄化する。
綺麗になったベッドに、ロックオンは安心してまた横になる。
「うんこらしょ!」
リラは、さばいた肉を担いで、2Fにいってしまった。
2Fから怪しげな呪文が聞こえてきた。
「きええええええ!きえええええ!!バイジャヤバイジャヤコラプップオナラプッププードカーン!きええええ!!」
呪文なのかも怪しい。
「きえええ!はい燻製にしておくんなまし。煙の精霊よ、ほれさっさと燻製にせんか」
モクモクと、2Fの窓から煙がたっている。煙の精霊ががんばっているのだろう。
「よーし。これでよし。あとは・・・トナカイのキンタマ・・・・これも薬の材料じゃ。元気になるそうじゃな。ダーリンに飲ませよう」
ロックオンはせきこんだ。
「冗談だろ」
耳がよいというか、リラの声はよく澄んでいて通るので、風に乗って聞こえてくる。

「ほれ。ダーリン。トナカイのキンタマじゃ。ちゃんと焼いてある。元気になる秘訣じゃ。食え」
どーんと、原形そのままを出されて、ロックオンは泣きかけた。
でも、世話になっている以上断るわけにもいかない。
さくっと、トナカイのキンタマ丸焼きにフォークをつきさして、目をつぶってかんで飲み込んだ。
「あれ?桃の味がする・・・・」
「そりゃそうじゃ。味かえたものな。キンタマなんてそのままの味苦くてくえんわい」
細かいとこまで気配りのきくリラ。
ロックオンの着ている服が一着しかないので、リラはわざわざ遠い町までいって男性用の服を何着も買ってきてくれた。下着も。
「ダーリンはブリーフ派?トランクス派?それともフルチン派?」
「いや・・・・おれボクサーパンツ派・・・・」
フルチン派って何と聞きたかったが、怖いので聞かないことにした。
「清めの精霊で体を清めてもスッキリしないじゃろ。ほれ、ハニーがふいたる」
「ちょ、簡便!!」
リラの手でぽいぽいと裸にされて、ロックオンは全身を蒸したタオルでふかれた。
「おー。ダーリンの立派じゃな。キンタマ、薬にすると・・・」
「それ以上いわないでええええ」
ロックオンは真っ赤になってシーツで体を隠した。
「ほっほっほ。まるで生娘のようじゃな」
新しい下着と衣服に着替えて、ロックオンはまた横になる。コアの再生が始まっている。今は、大人しくするに限る。



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