コアの傷もすっかり塞がったが、ロックオンはリラのホームを出て行く気はなかった。 リラに、すっかり惚れてしまったのだ。 外見は95歳のしわしわのおばあさんだが、とにかく元気ありまくりでパワフルで、そこがとてもかわいいと思った。 「血族に・・・したいなぁ」 でも、心のどこかで永遠の愛の血族にしてはいけない気がした。 「ダーリン。今日はトナカイの肉を入れたカレーじゃて。ちなみに毒にもなるマンドラゴラが入っておる」 ロックオンは、リラの作ったカレーを食べている最中で、吹き出した。 「毒!?ハニー、俺を殺したいのか!?」 「そんなわけないじゃろダーリン。マンドラゴラでも、種類が違うてな。少量なら精力をつける薬になるんじゃ」 ポッと、リラは顔を染めた。 「ダーリン、夜は激しいんだもの」 また、ブッとロックオンはカレーを吹き出しそうになって逆に喉につまらせた。 「!!!」 「ダーリン、ほれ水じゃ」 「あ、ありがと」 水を一気飲みする。 「ダーリンは、ほんとに夜は寝相が激しいのお」 いくらなんでも、95歳のハニーに手を出すほど落ちぶれてはいない。いや、95歳でもいける気がしてきた。ハニーと一度・・・・でもロックオンは女から激しいと言われるほうなので、ハニーの体に何かあったらいけない。 若返りの魔法がないわけではないが、後で副作用を起こすので、使うのも躊躇われた。 95歳だと体も弱っているだろうし。 「ハニーはダーリンと一緒のベッドに寝るのが楽しゅうてしゃあない。ダーリンの寝顔を見ていると、孫を思いますで」 「ハニー、結婚してたのか?」 「いいや。男に捨てられてなぁ。女手一つで娘を育てて、その娘は町に出稼ぎに出て、そこの町で出会った領主の息子と結婚しちまった。孫が一人生まれて・・・一度だけ、このホームを訪れてきてくれたなぁ。私は偏屈者だから、町なんかで暮らす気はないし、領主の息子がこれまた気に入らん。金で全部解決させようとする。娘は私に楽させたいと思って結婚したんじゃろな。他に愛していた男がいたのに、領主の息子のプロポース受けて結婚してもうた。まぁ・・・幸せならいいんじゃ。娘はその男に愛され、娘も愛しているようじゃし。寂しくはないからのう。私にはいろんな友達がおる。狼もトナカイもウサギも・・・・森の木々も私の友達じゃて」 「ハニーを捨てた男、女を見る目がないな。ハニーはこんなにいい女なのに。こんないい女、そうそういないぞ」 「ダーリン、照れるじゃないかー。ホホホホホホホ」 高笑いをして、リラは自分もカレーを食べる。 「そうじゃ。ダーリン、ずっとここで暮らさないかえ?」 「ここで?」 「そう。何か不便があれば、ヴァンパイアなら町まですぐじゃろ。どうじゃ?」 「いいよ、ハニー。俺、ハニーのこと好きだ」 「そういってくれるよ嬉しいよ、ダーリン。ダーリンのこと好きじゃて」 ロックオンは、そのしわしわのリラの唇に接吻した。 「あらやだハニー。照れちゃうわ!」 リラは朗らかに笑う。 「孫にキスされてる気分じゃて」 ロックオンはガックリとなった。狙って打ち落とした女はいなかったが、流石に95歳のおばあさんなハニーには狙っても的は外れるか。 「明日は雪も溶けるじゃろ。一緒に畑仕事しようじゃないかい」 「ああ、いいぜ」 「男手があると楽だわな」 次の日は、雪がそれまで降っていたのも嘘のような快晴。雪は溶けていた。 裏の畑は広く、リラが全部一人で手入れしていたと聞いて驚いた。 いろんな、ロックオンでさえ聞いたことしかない珍種の珍しい薬草や貴重な薬草が育てられている。 キャベツとかジャガイモとか、野菜も育てられていた。 自給自足の生活もいいものだ。肉は契約した狼が仕留めたものを燻製にして長持ちさせる。魚や育てていない野菜、新鮮なフルーツなどが食べたくなったら、リラはナイトメアという、魔の一種の馬に乗って、買い物にいく。ナイトメアは主のリラに忠実だ。リラはナイトメアを信用しており、自由にさせていた。 「おやナイトメア。今日ははやいの」 「主、言われた通り雪かきを済ませてきた。ついでに、2件の煙突掃除も。煙かった」 「ほほほ。ナイトメア、人の姿をとれるのに、お前はなんでいつも馬の格好をしているのじゃい?煙突掃除の時なんて、人型をとったんだろうに」 「無駄に、人型をとるのは好まぬ、我の姿はこれが本当の姿」 空を走る魔の馬は、巷の町では魔女のおばあさんの使い魔として有名で、助力を請えばナイトメアをよこして問題を解決してくれたり、ナイトメアは種族魔法を操って、町の雪かきをしたりと、魔の生物であるのに町の人気者だった。魔女のリラはよい人と評判である。少し捻くれているが、悪い人ではない。 リラは自分が作った魔石や育てた薬草、それからつくった薬品を売って、金にして衣服や足りない食物、たまに菓子などを購入した。 「ダーリン、お茶にしようかね」 「ああ、ハニー」 「今日はチョコレートホットケーキじゃて」 「おいしそうだな」 「町の一番の菓子パン屋から特注で作ってもらったのじゃ。うまいぞ」 「うん、おいしい」 季節はいつか冬をすぎて春になっていた。 NEXT |