血と聖水ロックオン外伝「魔女と吸血鬼」6







季節はさらに移り変わっていく。
かの水銀のニールが行方をくらませたと、ヴァンパイアの中では噂になっていた。
とうの水銀のニールこと、ロックオンは魔女のホームで一緒にラブラブな日々を送っていた。
「リラ、起きろよ。もう昼だぞ」
「あやや。寝すぎてもうたがな」
「今日は俺が町にいくよ」
「おや、そうかい?」「
「俺もたまには、町に下りたいしな」
「気をつけていってらっしゃい、ダーリン」
リラはロックオンの頬にキスをする。ロックオンもリラの頬にキスをする。毎日の習慣であった。
町に下りると、町は何かに怯えるような気配が色濃く感じられた。
「どうしたんだ、これは?」
リラのいきつけだというパン屋に入って話を聞く。
「それがねぇ。ヴァンパイアが出たんだよ!ああ、平和な町だったのに。ついにヴァンパイアは、この町まで」
「ヴァンパイア?犠牲者は?」
「建築家のトニアの娘さんと、その隣の靴屋の娘さんが二人。血を完全に抜かれた死体となって発見されたんだよ。しかも犯されていたそうだ。ヴァンピールになるのを防ぐために、心臓に杭を打って・・・なくなく火葬さ。そうそう、お気をつけ。森のはずれに住む魔女が、ヴァンパイアを飼っているって噂だよ」
「それは・・・・・」
「なんでも美しいヴァンパイアだそうだ」
ロックオンは沈黙した。
いつまでも、リラの側にいるわけにはいかないのだろうか。ただ、平和に暮らしたいだけなのに。
「その、娘さんらは何処で襲われた?」
「町の外れの港だよ」

ロックオンは夜を待った。
町の外れの港で、物陰に隠れていた。
氷の精霊アイシクル、神話のヴァルキリーの姿をした戦乙女は常に人型をとる精霊種族で、囮役にすることにした。ヴァンパイアは精霊も見境なく襲う。若い女を襲うということは、男のヴァンパイア。
アイシクルに協力を仰ぎ、リラに使い魔を送ってヴァンパイア退治をしてから戻ると伝えた。
リラはナイトメアをよこしてくれた。何かあった時、役に立つだろうと。自分では足手まといになるだろうから、と。
「美しいお嬢さん・・・・水銀のニールが、血を啜ってあげましょう」
現れたヴァンパイアは、ヴァンパイアロード。
アイシクルは、氷のランスを振り回した。
「主の命に従い、あなたを抹殺します!」
「これはこれは元気な方だ」
ロードクラスだと、アイシクルだけでは危険だ。
「きゃあああ!!」
アイシクルは、相手を凍りつかせたが、相手は氷を割って、アイシクルの氷のランスをもぎ取って、アイシクルの羽が飾られた特徴的な頭飾りを無理やりとる。鎧を、血の刃で破壊していく。
「血を啜る前に、いつものように。くくく」
ロックオンは、その瞬間、ロードヴァンパイアの背後に回っていた。
「アイシクルを解放しろ。その子は俺の契約者だ」
「ヴァンパイア・・・・これはこれは失礼。あまりに美しく若くおいしそうなものだったもので。では、今宵も町の娘で済ますとしましょう」
「それも許さない」
「なんだと。貴様、ヴァンパイアでありながら、ヴァンパイアと敵対するのか!?」
「俺の名を語る愚か者め!」
ロックオンのエメラルドの瞳が真紅に変わった。怒りの色。
「な・・・・お前が、水銀のニールだとでもいうのか!」
「そうだ、俺は水銀のニール。その名を語った罪、自分の命で購え!」
ロックオンは血でできた剣でロードヴァンパイアの体をわざとかすり傷程度だけの傷を負わせた。
「こんな傷・・・・ぐああああああああああ」
ヴァンパイアにとって猛毒である銀。水銀が、ロックオンの血液には含まれている。
「水銀のニール・・・血が、血が沸騰するうーー!!」
「お前のせいで、町が乱れた。リラにあらぬ疑いがかけられた。死をもって購え!!」
背に白い6枚の翼をみたヴァンパイアロードは、恐怖に顔をひきつらせた。
「ネイ!?」
「滅びよ!」
コアを破壊され、ヴァンパイアは灰となった。

「見ていないででてきたらどうだ。ヴァンパイアハンター」
「これはどうも。でも、僕はあなたの敵ではないよ」
「どういうことだ?」
「そのうち分かるよ。あなたは、僕のマスター」
「俺は血族を持った覚えはない」
神父の姿をしたそのヴァンパイアハンターは、金と銀のオッドアイの瞳をしていた。オッドアイは世界を統べる者に与えられる。もしくは、運命を担う者。
「オッドアイ・・・・神ではないな。血の匂いがする。ヴァンパイアか」
「はい。僕はヴァンパイア、帝国生まれのエターナルの上位種として存在する、ほとんど知られない種エタナリア」
「エタ・・・ナリア」
どこかで聞いたことの在る言葉だった。
「僕はあなたの武器。そしてあなたの力。僕の名はアレルヤ・ハプティズム」
「アレルヤ・・・どっかで、お前とあったことあったか?」
「ありますね。でも、今はまだ思い出さないでしょう。町の人には、ヴァンパイアは僕が駆除したと報告しておきましょう。そして、町の外れに住むヴァンパイアは共存地区出身だと。そうすれば、誰も怖がりません」
共存地区出身のヴァンパイアは決して人を襲わない。だから、人々は安心する。ヴァンパイアの敵であるヴァンパイアハンターがそういえば、皆納得するだろう。
「頼む・・・アイシクル、戻っていいぞ。すまなかった」
「いいえ。力不足で申し訳ございませんでした。それでは」
アイシクルは精霊界に戻った。
「この魔の馬に感謝するといいよ。僕を、呼んできてくれたのはこの子」
リラの使い魔ナイトメアは、神父として教会で祈りを捧げていたアレルヤの存在を感知して、呼び出してきたのだ。
「我は主の命を遂行するのみ。主は汝に力を貸せと言われた。ヴァンパイアハンターを連れてくれば、問題も解決するだろう。では、我は先に帰る。主が待っている」
「じゃあ、僕も」
「アレルヤ!!」
「ネイ。早く、目覚めてね」
アレルヤと名乗った青年は、神父の黒いコートをはためかせ、十字架をロックオンに渡すとそのまま飛び去ってしまった。

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