血と聖水ロックオン外伝「魔女と吸血鬼」7







ヴァンパイア騒ぎは、神父のヴァンパイアハンターの言葉通り、神父の言葉を信じた町の人たちは、ロックオンのことをヴァンパイアだと知っても、町におりても親切にしてくれるようになった。
「リラばあちゃんはどうだい?元気か?」
「ああ、マイハニーのリラはいつでも元気だよ。昨日、マムシ酒つくるとかいって、マムシ絞め殺してた」
「ははは。リラばあちゃんはいつまでたってもお茶目だな」

ホームで暮らし始めて、もう4年になろうとしていた。
ある日、リラが水晶玉で得意の占いをしていた。
「ダーリン・・・・この水晶玉を見てごらん」
「なんだい、ハニー」
「この水晶玉の中に、ダーリンが未来で出会い、愛し、永遠の愛の血族になるであろう子がみえている」
「え・・・・」
ロックオンが覗きこむと、そこにはティエリアの姿が浮かんでいた。隣にはロックオン、自分がいた。二人は楽しそうに笑いあって、手を繋いでいた。
とても美しい少女だった。美しすぎて、人形かと思うほどに。
「ハニー・・・悪戯はやめてくれ。俺が永遠の愛の血族にしたいのはハニー・・・・リラ、お前だけだよ」
「ダーリン。だめだよ。私は永遠の愛の血族になる気はないよ」
「リラ・・・・どうして。こんなにも愛しているのに」
「私もロックオン、あなたを愛してるよ」
二人は手を繋ぎあう。
ロックオンには分かっていた。この愛しい人の命の灯火が、もうすぐ消えようとしていることを。95歳でも十分に長生きだ。平均寿命は85歳。99歳の今は長寿もいいとこだろう。
「リラ・・・・お前を失いたくない。お前は、だって」
「いわないでおくれ、ロックオン」
ロックオンはずっと使っていなかった愛しているという言葉を、リラに使うようになっていた。
孫として生きているが、リラを女性として愛していた。外見なんてこのままでいい。中身が大切なのだ。いつまでも純心な心を失わないリラ。
失いたくない。
血族にするしか、方法はない。
リラは、100歳になる、そして同棲を始めて5年目になる今年の冬で死んでしまうのだから。

「リラ・・・・ハニー・・・」
「ダーリン。少し疲れたよ。眠っていいかい?」
「ああ。洗濯物も薬の調合も畑の世話も何もかも俺がしておく。食事もつくっておくから」
「世話をかけてすまないねぇ」
最近、寝たきりになることが多くなってきた。
人間とはなんと儚い生き物であるのか。100年も生きれば終わりだなんて。
千年生きてきたロックオンは、リラが眠ったのを確認して、その血を啜った。
999人目の処女として。
血族に迎える、準備である。
「リラ・・・・」
真っ白な髪を手ですいてやる。

最後の夏、海水浴に出かけた。
「ひゃっほう」
はしゃぐロックオン。
「うひょー、ハニー、ナイスバティ!」
リラは奮発してビキニを着ていた。ロックオンが買ったビキニを、リラは恥ずかしがることも嫌がることもなく堂々と着て現れた。
胸は垂れまくりで腹もだるだるして、皮膚の全体が垂れている老人体系だったが、ロックオンはリラのビキニ姿を見て頬を染めた。
「リラ、あんまり他の男に肌見せるじゃねーぞ」
「はっはっは、あんたくらいだよ、私なんかのおばあさんのビキニ姿見て頬染める男は!」
「リラはリラだぜ!最高に美人だ!」
周りの男たちも、リラばあさんは最高に美人だとはしゃぎ立てる。
「あんたら、いい夫婦だぜ!」
「おや、夫婦と見てくれるのかい。嬉しいねぇ。99歳、まだまだがんばるよお!夜もね!」
その言葉に、皆おおーっと感嘆した。
「流石リラばあさん!99歳になっても夜も激しいのか!付き合うロックオンが搾られて大変そうだな!」
げらげらと、ロックオンもリラも一緒になって、町の仲間たちと笑いあう。
夜は、実際はリラの寝相の悪さでロックオンが大変なのだ。蹴られたりいつものことだ。ベッドは一つしかない。いつも一緒のベッドで眠っていた。
リラは体が一時的に若返る薬を少し飲んでいたお陰で、軽やかに走り回る。
「リラばあさんすげぇ!なんて足の速さだ!」
みんなでビーチバレーをする。リラは何度もサーブを決めた。
「あははは、ロックオン、私を捕まえてごらん」
波しぶきがたつ砂浜を、シルフの魔法を足にかけたリラが凄まじい速度で走っていく。
「ちょ、リラ、早すぎ!!」
ロックオンはぜぇぜぇいいながら、リラを追いかける。
みんなそれを見ては腹を抱えて笑っていた。
「捕まえたぜ、マイハニー」
「ダーリン!」
二人はひしっと抱き合った。
ヒュウヒュウと、周囲からはやしたてる声が聞こえる。ああ、本当に幸せだ。
そのままリラと一緒に泳いで、リラはまるで人魚のようにすいすいと海中の中を潜る。リラが服用した若返りの薬の効果が最高点に達した。
リラは、10代の少女の姿に戻っていた。
誰もが声を失った。
お茶目なリラばあさんは、金色と銀色の髪がまじりあった、神話の金色のアリアと銀色のリラが合体したような美少女だった。女神のように、美しかった。瞳の色は銀色。
「リラ・・・美人だよ。いつもの姿でも、十分に美人だよ。若返りの薬なんていらないぜ。あんたは、自然の姿のままが一番綺麗だ」
ロックオンは、リラの唇に優しく唇を重ねた。
ロックオンの言葉に、リラは涙を滲ませる。
「ほんとにダーリン・・・ロックオン、あんたは女心掴むのがうまいね。私をここまで虜にした男は、あんたが最初で最後だよ」
今年の夏はいい思い出になった。リラは海水浴に出るのは99になってはじめてだった。誘ってよかったとロックオンは思った。町のみんなと一緒にバカみたいに騒いで、最後は花火大会でしめくくった。
「あの花火みたいに・・・・儚いな、リラは」
「よしとくれ。わたしゃ爆竹みたいに激しくてしつこんだよ」
「それもそうか」
元の老体に戻ったリラに接するロックオンの態度はいつもと変わらない。もっと、若い美しいままの姿でいてくれなんて、決して言わない。
ロックオンは、ありのままのリラが大好きなのだ。
ロックオンの感情は、リラと出会ったことでとても豊かになり、同時に人間臭くなった。本当に、リラといると時がたつのも忘れてしまうくらいに楽しい。毎日が、宝の山のようで。
かわいいリラ。おばあさんで魔女で乳たれてるけど、そこがまたかわいい。愛しいリラ。
誰よりも人間らしく美しい。


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