「ダーリン・・・ごめんねぇ。もうすぐ私は」 そんなリラを、ロックオンは首を振って抱きしめる。 若返りの薬は副作用があるので、服用はもうできないだろう。リラが生きていてくれれば、それでいい。他に何も望まない。 リラが愛しいのだ。それに、リラが与えてくれた愛で、どんなに人間の愛が尊いものであるのか、儚くも美しいものであるのかが分かった。リラはロックオンをロックオンとして愛してくれた。 だが、自分の死期が迫っていることを、リラは分かっていた。 二人の愛は、密やかに静かに燃え上がり、そして終わろうとしていた。 やがて季節は夏を過ぎ、秋になり、冬になった。 窓の外を、雪が降り始めた。 「リラ、リラ、見てごらん雪だよ」 「ああ・・・今年も降り始めたか」 車椅子で生活をはじめたリラ。 ロックオンは、リラに手編みのセーターとマフラーを着させると、外に出た。 「リラ、散歩にいこうか。狼たちがリラに会いたがっているよ」 「いこうかい。すまないねぇ。こんな足腰になってしまって」 「いいんだよ、リラ。さぁ、散歩にいこう」 雪が降る中、二人は森を散歩する。 「おお、長の子か、大きくなったねぇ」 リーダーの子供たちは、5年前は乳飲み子だったのに、今では立派な新しいリーダーとなって、古い長を支えていた。 「リラ・・・・リラ・・・・」 狼たちは、クーンクーンと鳴いて、人語を理解する狼はリラの名を口にして、尻尾を振ってリラに顔をこすりつける。 「止めとくれ、狼くさくなっちゃうじゃないか」 「あははは、リラ、リラはいつも太陽の匂いがするよ」 「ロックオン・・・・私はあんたに出会えて最高に幸せな女だよ」 「俺もだよ、リラ」 本格的に雪が降り出そうとしていた。 「帰ろうか、このまま」 「ナイトメアを、ダーリンに託すよ。狼たちは、シルフの魔法をかけたまま、このまま解放するよ。ヴァンパイアマスター、水銀のニール・・・・・」 「どうしてその名を・・・」 「魔女をなめちゃいけないよ」 「ハニー」 「水銀のニールを惚れさせるなんて、わたしゃなんて女だろうね。魔女として最高の名誉だよ」 ゆっくりと、リラは全身から力を抜いていく。 「眠いよ」 「リラ!リラ、眠っちゃだめだ!リラ!ハニー!!」 「いいかい、ダーリン。ロックオン。人は、必ず死ぬものなんだよ」 「死なせない!お前を、俺の永遠の愛の血族にする!」 ロックオンは、リラに自分の血を与えた。 「何故だ!何故、血族にならない!!」 「魔女はねぇ・・・・いろんな、ことを知っているんだよ。ヴァンパイアの血族にならない方法も。それは」 「金色のアリアと銀色のリラの女神の祝福を受ける・・・・こと。祝福を、いつ!リラ!!」 「なんかねぇ。あんたと違うタイプのいい男の神父さんが尋ねてきて・・・・アレルヤといったかねぇ。祝福を、与えてくれたのさ。未来に、永遠の愛の血族となる者がいるからと。私も水晶玉を見て分かっていたから、喜んで祝福を受けたさ・・・」 「アレルヤ!よくも、許さない!リラ、だめだ、死ぬなリラ!!こんなにも、こんなにも愛してるんだ!!」 ロックオンは、雪降る中、リラの萎れた花のような萎びれたしわくちゃのおばあさんの体をぎゅっと抱きしめて、エメラルドの瞳から流したことのない涙をはじめて流した。 「リラ、嫌だ、俺をおいていくな、俺を一人にする気か!リラ、リラ!!」 「ティエリアと・・・・・未来で会う子は、そういう名前だよ」 「そんなことどうでもいい、リラ!!」 リラは微笑んだ。 神に召されようとしているリラ。 ロックオンの涙を、リラは震える手で拭おうとする。 「泣くんじゃないよ・・・・いい男がだいなしじゃないか。ああ、鼻水まで垂れて。かっこいいのに、いい男が台無しだよ。ロックオン、あんたには笑顔が一番似合うよ。太陽のような」 「リラ!リラがいてくれるから、おれは笑顔を浮かべれるんだ!俺の太陽はリラ、お前だ!神々よ、リラの命を奪うな!俺をかわりに奪っていけ!リラは俺のものだ!!俺だけのハニー。愛しいリラ・・・・」 リラは、雪降る空を見上げる。リラの瞳と同じ銀色の雪が降ってくる。 「冬の吐息の季節だねぇ」 「ああ、そうだな。乗り越えて、来年の春も一緒に見るんだ。なぁ、リラそうだろう」 「そうだねぇ。満開になった桜を見たいね。一緒にまたお花見をして、ロックオンは毛虫に驚いて私に抱きつくんだよ。千歳もこえたヴァンパイアが、毛虫を怖がるなんてねぇ」 「リラ、春にはいっぱい花が咲くぜ。一緒に見よう。小川には魚がいっぱいいて、釣りをしてまた遊ぼう。夏になれば、また海水浴にいこう。リラのナイスバディ俺大好きだぜ!胸たれてるけど、そこがキュート!ビキニが超似合ってたぜ!また海水浴に、プールでもいい、泳ぎにいこうぜ!」 「行きたいねぇ。私の死体は焼いて、灰を・・・・・私とロックオンをずっと支えてくれたこの森にまいて、おくれ」 ロックオンの腕の中で、リラは幸せそうに涙を流して、そして瞳を閉じて、100歳になることなく、その生涯を閉じた。 「リラ、リラーーー!!」 ロックオンの叫びは、いつまでも森に木霊していた。 冷たくなったリラを、ロックオンは火葬し、骨を砕いて灰にすると、リラの遺言通り灰は全て森にまいた。 リラがいつも身につけていたホワイトゴールドのチェーンを、ロックオンは手首に巻きつけた。 リラの住むホームを離れる気は、ロックオンにはなかった。 NEXT |