|
「ロックオン、退治するにゃ!」
今日も今日とて、ホームでフェンリルのかわいい声とブレスを吐く音が聞こえた。
氷のブレスを吐いたフェンリル。かちこちになったロックオンは、氷像とかしたまま声を出す。
「にゃろう、お前いつもいつも」
「へへへへのへ(=゚ω゚)ノだにゃ」
「かわいい顔文字つかってもゆるさーん!!」
氷をパリーンと割って、ロックオンが復活する。一人と一匹は、ぎゃーぎゃーわめきながら取っ組み合いのケンカになる。フェンリルは俊敏に動き、ロックオンの手をかわすと、シャキーンと伸ばした爪でまずはロックオンの顔をひっかく。
「もぎゃああ!!」
悲鳴をあげるロックオン。これ、実はかなり痛いのだ。
すぐにロックオンはフェンリルの首根っこを掴んだ。ブラーンと空中で浮いたフェンリルはじたばた足を動かしてもがくのだが、どうにもならない。
「猫パンチ!猫キック!あにゃあああ、届かないのにゃーー!!首根っこ捕まえるのは卑怯なのにゃ!」
フェンリルに、ロックオンとトドメとばかりにむぎゅーっと抱きしめたあと、キスをしてやった。
「ごにゃあああああああああああ!あぎゃああああああにゃああああああ」
フェンリルは、凄まじい叫びをあげて白目をむいて気絶した。
「何それ!すっごい失礼!」
ロックオンは、こうなるだろうとは思っていたが、まさか白目をむいて気絶されるほと嫌がられるとは思っていなかったので、気絶したフェンリルにあきれてしまった。
「こんなにいい男なのに」
「それは、あなたの持論なのでは?」
一人と一匹が戯れるのはいつものこと。
読書をしていたティエリアは、気絶したフェンリルを抱き上げる。
「にゃあああ!主、ロックオンがいじめるんだにゃああああああ!」
フェンリルはわざとしくしく泣いて、ティエリアの頭によじのぼる。
そこが、フェンリルの定位置。
「おみゃえにゃんて、いつか倒して骨にしてやるにゃ!」
「おーおー、いつでもかかってこいよ」
ロックオンは挑発する。
「止めてください、ロックオン」
ティエリアは、読んでいた本でロックオンの頭をなぐって、ロックオンとフェンリルの不毛な争いを止める。
ロックオンは部屋の隅っこで膝を抱えていじけだした。
「どうせ、どうせ。しくしく」
ティエリアは、また本を読み出す。
フェンリルは、ティエリアの頭の上で欠伸をしていた。
長閑な日常。
ティエリアは、ハンター協会から使い魔がくれば赴き、指令を受けてヴァンパイアハンターとして活動する。それ以外は、普通にロックオンとフェンリルと平和な日々を送っている。
隣の部屋で、哀しい恋愛漫画を読んでいた居候のリエットは、泣きながらティエリアたちのところにやってきた。
「うううう・・・」
「どうしたの?」
「この漫画哀しい。哀しすぎるぜ」
鼻水までたらしている。このハイプリーストは、聖職者でありながら性格が破綻しまくりで、金がもったいないとティエリアとロックオンのホームに居候していた。
彼女を守る帝国騎士のウエマも、一緒になって泣いていた。
この二人、ただの友人だそうで、いつもリエットがウエマをいじめていた。
フェンリルがロックオンをいじめるように。
「ほら、ハンカチ」
ロックオンは、彼女も一応女なんだなとか思いながら、お気に入りの絹のハンカチを手渡す。読んでいた恋愛漫画なんかで泣くなんて。
「ありがと・・・・チーン」
お決まりのごとく、涙をふかないで鼻水をかまれた。
しかも・・・・・そこまでなら、ありえるだろう。ロックオンでさえ、いや、誰も予想できないようなことをしでかした。なんと、鼻くそをほりじだしたのだ。
女性が、鼻くそを他人の前で堂々とほじるなんてありえるだろうか。ありえない。
しかも、リエットはブラッド帝国の皇帝の姉姫。皇族でお姫様。ありえない。性格破綻だけではない。きっと、コスモが彼女の中にはあるに違いない。
「あー。でっけぇ鼻くそとれた。はい、返す」
「鼻くそほるじなああ!!しかもそのまま返すなあああ!!」
ロックオンは激しくつっこんでいた。
確かにでかい鼻くそがとれていた。
とてもすっきりしたのだろう。リエットはにこにこしていた。
「だってさ!鼻くそ普通ほじるだろ!?」
「ほじらんわ!」
「いや、はみだして鼻くそ見える前にほじるって!」
「もしもほじるとしても、誰もいないところでするっつーの!」
「あ、そうなの?俺、帝国でも、皇帝のメザーリアと一緒に家臣の謁見聞きながら鼻くそほじったり、耳かきしたりしてたけど。よくよだれ垂らして寝て、家臣に怒られたなぁ。ちゃんと聞いてくださいって」
「当たり前だ」
どんな育ち方をすれば、こんなに下品な女性が生まれるのだろうか。本人、男に生まれてこればよかったと思っているそうだが、男でもここまで下品なのはなかなか完成しないだろう。
「まぁまぁ。今まで一番でかい鼻くそだぞそれ。記念にもっとけ」
「無理いうな!!」
ロックオンは、絹のハンカチを仕方なしに手洗いする羽目になった。だって、このハンカチ、ティエリアとお揃いなのだ。捨てるわけにはいかない。
「ウエマ、お前こいつなんとかならないのか」
ロックオンは、帝国騎士に言葉をかけるが、ウエマはさめざめと泣き出した。
「なんとかなるなら、こんな苦労はしていない。リエットの帝国騎士になったせいで、貴族やめる羽目になった。
この前なんて・・・・謁見の広場でおならこいて・・・それだけなら分かるが「あ、もれた」って、うんこちょっともらして、慌ててトイレいって女官に無理やり服はがれて薔薇風呂に入れられてた」
「恐ろしい・・・・・」
ティエリアも、リエットの中には絶対にコスモがあると感じた。
なんてすごい存在なのだろう。ある意味血の神のネイであるロックオンをはるかに凌駕していた。
「ふああああ。眠いにゃー」
フェンリルは、興味なさそうに驚愕するティエリアの頭の上でまた欠伸をしていた。
その時だった。
声が聞こえたのだ。脳の中に直接響く声が。
(助けて・・・・・)
「あにゃ?誰か、何かいったかにゃ?」
「どうしたの、フェンリル?」
「あにゃー。なんでもないにゃー」
フェンリルはすたっと地面に下りると、声がするほうへほうへと走り出していった。
NEXT
|