神に見捨てられた天使「最期の思い出」







「宇宙にある、トレミーに戻りましょう」
「なんだ、唐突だなぁ」
「もうすぐ、グランジェ3で大規模な流星が見れるんです。昔は刹那と一緒に見ていました。ロックオンと一緒に、見たいです」
「でも、機体は?」
「ありますよ。研究施設があった場所の奥に、格納庫があって、そこにダブルオーライザーを。セラヴィはトレミーの格納庫の中です」
「ってことは、最初のあの研究施設に戻るのか?」
「そうなりますね」
「世界を旅するってのは?」
「後でいくらでもできるでしょう?」
ロックオンは、そうつっこまれて言葉に詰まった。
確かに、時間は無限にある。無限ともいえる時間を与えられた。
もう一度、ティエリアを愛するために。
「分かった。じゃあ、一旦研究施設に戻るか〜」
「はい」
二人は、こうしてきた道を逆に戻り、研究施設にくると格納庫をあけて、刹那の機体であるダブルオーライザーを見上げた。
「メンテナンスばっちりだな」
「僕も、やればできるんです」
えっへんと、自慢げなティエリアの頭をぐしゃぐしゃにかき回してやった。
「もう、何するんですか!」
ティエリアは怒った。
せっかく、自分でツインテールに結えたのにと、愚痴を零している。もっとも、仕上げはやはりロックオンがしてくれたが。白のリボンで結んで、ユニセックスではないティーンズの女の子ファッションなティエリアのスカーを、ロックオンが捲った。
「わあああ!!」
「おー、苺柄。乙女だなぁ」
「バカ!」
強烈な往復ビンタを浴びせられた。
こんなとこも、昔と変わっていない。
ジャボテンダーの縫いぐるみを抱きしめて、二人はダブルオーライザーのコックピットに搭乗すると、ティエリアが操縦桿を握り締めた。ロックオンの膝に座っている形だ。
ジャボテンダーはその後ろにギュウギュウに詰め込まれている。
「ジャボテンダーさん、きついですが我慢してくださいね」
「ジャボテンダーに話しかける癖、治ってないんだな」
「ジャボテンダーさんは僕の親友ですから」
「はいはい」
格納庫が開き、リボンズとの戦闘でボロボロになったダブルオーライザーだが、CBの手によって新しく作り直された。この機体で、ガンダムマイスターとして何百年も戦ってきたのだ刹那は。そして、セラヴィに乗ってティエリアも。
そこらへんは、ロックオンは触れなかった。
ティエリアが話したがらないということは、聞いて欲しくないことなのだろう。

「機体、発進。ダブルオーライザー、宇宙へ、トレミーへ一時帰還、その後グランジェ3に出る!」
「トレミー帰還了解」
通信の先で、自動AIが無機質な声を返してきた。
「発進!」
Gがかかる中、二人は宙(そら)へあがる。
トレミーに機体を収容し、メンテナンスをした後、ノーマルスーツに着替えてまたダブルオーライザーに乗り込むために、コックピットのハッチを開けて搭乗すると、ダブルオーライザーを発進させた。
純粋の太陽炉がうなる。GN粒子の蒼い光を放ち、ツインドライブが機体の加速を助ける。
ダブルオーライザーは、邪魔な隕石をビームサーベルで砕き散らして、強引にグランジェ3への道を開けた。
そして、グランジェ3にきて、数時間後、刹那やリジェネと見た大規模な流星群が現れた。
時間は、奇跡的にもちょうどこの季節のこの日にちのこの時間であっていた。
まるで、それを知っていたかのように、ロックオンが復活して。
ロックオンと、宇宙でこの流星群を見たいとずっと想っていた。その願いも叶った。
「どうしたんだ?泣いてるのか?」
「どうか・・・ずっと、ロックオンと一緒にいれますように」
「バカだなぁ。もう、その願いは叶っただろ?俺は、何処にも行かないよ。お前の側にずっといる」
「約束ですよ」
「ああ、約束だ」
星が堕ちていく中、二人は誓いのキスを交わす。
それを見ているのは、ジャボテンダーの縫いぐるみだけ。
初代ジャボテンダーはボロボロになって、このジャボテンダーは何代目かも忘れてしまった。それほどの時が経ったのだ。ロックオンの恋人になって、ロックオンが死んでから。
「星が堕ちていく・・・・」
エメラルドの光が、流星を包む。
機体の周りを、エメラルドの蝶が無数に舞っていた。
(願いは、叶う、か。もう、絶対に離さない。死んでも、一緒だ)
ロックオンは、これから先何十年何百年とティエリアと生き続けるつもりだった。
「そうだ。結婚式を挙げよう。アイルランドの教会で!」
「ロックオン?」
突然の言葉に、ティエリアは首を傾げた。
「ほら、約束しただろ。ハロに録音させた。結局、式挙げられなかったじゃないか。うん、結婚式しようぜ!ティエリアは純白のウェディングドレス着て、俺はタキシードでさ!」
「でも、誰も呼ぶ人が・・・・CBの人たちとは関わりたくないし」
「観客なんていらねーよ。俺とお前だけで十分だ。あ、あと一応神父さんいたほうがいいかな。よし、善は急げだ!アイルランドにこのまま飛ぶぜー!!」
ティエリアをどけて、操縦桿を握り締めて、ロックオンはヒニルに笑った。
ああ、この表情。
飄々としたロックオンを見るのは、久しぶりかもしれない。
最近、どこか哀しげで。
見ているこっちも、哀しい気持ちになる。
何かが吹き飛んだように、ロックオンはダブルオーライザーをアイルランドに向かって飛ばした。

そうだ。
結婚式をしよう。
二人だけで。一応神父さんもいたほうがいいかもだけど。
叶えられなかった夢をかなえよう。
約束して、果たせなかった約束を果たそう。
ロックオンの心は躍っていた。
ティエリアの胸は高鳴った。
ロックオンと、結婚式。刹那と結婚式を挙げたことはあるが、これほど胸の高鳴りを覚えたことはない。
そもそも、刹那とは夫婦であったが、それはこれほど燃え上がる恋の果てではなかった。
支えられて、そして支えあっていた。比翼の鳥のような関係だった。
刹那のことも無論大好きで愛していた。
でも、ロックオンとは少し別な感じがする。
ああ、自分はなんて罪深いのだろうか。
リジェネ、刹那、そしてロックオン。多く人間の人生を惑わせる、魔女のようだ。

でも、これが最期の願いです。
どうか、叶えさせてください。
神様。僕は神様なんて信じません。でも、今祈るには神様か天使様としか言いようがありません。
どうか、叶えさせてください。
リジェネも刹那も、数回せきをした数日には死んでいる。
もう、この命は限界をこえている。自分でもなんとなく分かる。
執念で生きているようなものだ。

「どうか、この最期の願いを、叶えて下さい」
遠ざかっていく流星群に向けて、ティエリアはロックオンにも聞き取れない小声で祈った。

命よ、どうかもって。
ロックオンと、結婚式を挙げたいのです。
本当は、もっともっと、一緒にいたいけど。
生きられないというのなら、せめて結婚式だけでも。

思い出を、下さい。最期の思い出を。
最期の。



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