神に見捨てられた天使は、明の明星と歌われた。 その名はルシフェル。 12枚の白い翼をもつ、かつて至高天にありし天使たちの長。 神に弓引きし堕天使となる。 神に見捨てられた天使は地上も存在する。天使たちが地上の天使と呼ぶ存在。 名前はティエリア・アーデ。 本来なら天使として生まれるはずだったのに、どこをどう間違ったのか、人間世界でイノベイターとして生まれ、そして人間として生きた。 その寿命が尽きようとしている。 天使たちは賛美歌を歌い、嘆き哀しんだ。 同胞であったはずの者よ。どうか、どうか。 ティエリアの瞳にも、くっきりと見えた。 エメラルド色の蝶が、絶えずロックオンの周囲を舞っていることを。 そして、悟る。 そうか。これは、僕の「夢」なのだ。 僕の心の愛が作り出した幻想。それが叶えられた夢。 夢の中の真実。 それが天使たちの夢であるとまでは分からない。 ただ、奇跡が起きている。 「彼」は本来ならここにはいない。もうこの世界にはいない。 でも「彼」は僕の側にいてくれる。体温はこんなにも暖かい。お日様の匂いもする。 「思い残すことは・・・・・もう、何もありません」 涙を流しながら、ロックオンの背中に取りすがった。 「どうしたんだ?さっきから、泣いてばっかだな?そんなに俺と結婚式するのが嬉しい?」 「はい。嬉しすぎて、体中の水分が涙になってしまいます」 「おーそれは大変だ。初夜は水分がなくならないように、湯船の中でする?」 「バカ!」 ロックオンの頭をはたく。 ロックオンは、けらけら笑っていた。それに乗せられて、ティエリアも微笑む。 涙を流すな。 笑おう。 笑顔を忘れるな、そうロックオンが教えてくれたじゃないか。 そう、笑顔でいよう。綺麗な顔をしているといわれる。笑顔が一番似合っているといわれる。 だから、笑顔でいよう。 宝石店で、適当なダイヤのそれなりの値段の指輪を結婚指輪として購入した。 全部カードで清算した。 「ロックオン、ノーマルスーツのまま、結婚式挙げるつもりですか?」 「そんなわけないって」 再びダブルオーライザーを発進させ、町の広場に止めると、人々が逃げ出す。 「テロリストだーー!!」 「違うっての!!」 テロリストを一番憎むロックオンは大声で叫んだ。 ロックオンは、しかし強引だった。 そして結婚式場につくと、いきなりトランクに入れていた大金を見せる。 「現金で即払い。俺は白のタキシード、この子には白の・・・いや、ピンク色のウェディングドレスを」 係りの者は慌てて、二人のサイズに会うものを選ぶ。 純白のウェディングドレスは多くあったが、ピンク色は少なかった。でも、色も多数あるのが最近の流行なので、ティエリアのサイズにピッタリなものはすぐに見つかった。 「これでどうでしょうか、お客様」 「うーん、デザインがいまいち。胸がそんなに開いてるとまな板だってばれちまう。もちょと、胸があいてないので。背中があいてるのはOK」 「誰がまな板ですかーー!!」 すぐに、ティエリアの往復ビンタが飛んできた。 「か、かしこまりました。元気な花嫁さんですね。それに凄く美人です。こんな美人、始めて見ました」 真っ白のタキシード姿で、ビンタされてはれた頬をおさえながら、受け付けの女性のコメントにロックオンは嬉しそうだった。 「そうだろ。元気いいんだ。世界で一番美人。俺の花嫁さん」 ティエリアは真っ赤になった。 それから、いくつか試着して、やっとロックオンの納得のいくデザインのものを着たティエリアを、横抱きにして去っていく。 「あ、あのお客様、お金が多すぎます!」 「構わないって、とっとけよ!!」 ブーケを手にしたティエリアは、目も眩むばかりのロックオンの行動の早さについていけない。 ダイブルオーライザーに乗り込み、町の離れの教会を見つける。 「お、ちょうどよさそう」 ダブルオーライザーが破壊の光を放ち、遠くの森を壊した。 それに驚き、教会で祈りを捧げていた人々は逃げ出して、がらんとした教会は、鐘のなる中、腰を抜かした神父と何人かのシスターだけが残された。 そして、教会につくと、いきなり教会に乗り込んだ。 「ロックオン!やり過ぎじゃ!!」 「いーのいーの」 「か、神よ、どうかお守り下さい」 祈る神父とシスターたちに、身の安全は保障すると、ティエリアが強く説いた。 「強盗がきました・・・神よ、どうかお守り下さい」 タキシードにウェディングドレス姿の強盗なんて聞いたこともないが、神父は神に熱心に祈った。 「いや、強盗じゃないから。結婚式挙げに来ました!」 「な、なんと!」 「挙げに・・・・きました・・・・」 ティエリアは、ロックオンの背中に隠れて恥ずかしがっている。 「ティエリア。かーわいいの」 「バカ!」 ロックオンの栗色の柔らかい髪をひっぱるティエリア。 「いてててて。ということで、いざ結婚式を!!」 「汝は、この者を妻として、病める時も健やかなる時も共に在ると愛を誓いますか?」 神父の台詞に、ロックオンは腰に手を当てて大声で叫んだ。 「誓います!!誓いまくります!!」 「汝は、この者を夫として、病める時も健やかなる時も共に在ると愛を誓いますか?」 「・・・・・・・・・誓います」 「指輪の交換を」 二人は結婚指輪を交換した。 「では、誓いのキスを」 リーンゴーン。 鐘が狂ったように鳴り響く中、二人は口付ける。 「これで、あなたたちは夫婦です。神よ、このものたちに栄光あれ」 ティエリアは、ブーケを投げた。 それは、見守っていたシスターの一人が受け止めた。かなり年配のシスターだった。 「あらどうしましょ。私にも春が?」 周りのシスターが、ないないと首を振っていた。神父もないないと首を降っていた。 二人の愛は、永遠に約束された。 こうして二人は結婚式を挙げた。 純白のウェディングドレスじゃなかったけれど、ちゃんと結婚式を挙げた。祝う客はいなかったけれど、ちゃんと挙げれた。 ティエリアは、また涙を零した。 ロックオンは、ティエリアを抱き上げて、ダブルオーライザーのコックピットに戻った。 「愛しています・・・・ロックオン」 NEXT |