ダブルオーライザーは目立つため、とりあえず研究施設の格納庫に入れた。 「僕は、本当に幸せです。幸せすぎて、涙が止まりません」 「おお、泣いとけ泣いとけ。幸せででる嬉しいときにでる涙はいいもんだ」 二人は、生活区域にひとまず戻ると、タキシードとウェディングドレス姿で、しばり抱き合っていた。 「夢を、ありがとう。幸せを、ありがとう。あなたと出会えたことで、僕は人間になれました。人間は素晴らしい。愛は素晴らしい。こんな感情をくれたあなたにたくさんの感謝をしています」 「なんか照れるな〜。とりあえず、一段落ついたら、世界中を旅して周ろうぜ。それで、最後はアイルランドに家をたてて、そうだな、一軒家がいいな。庭には忘れな草の花をたくさん植えよう。んで、子供たくさん作るんだ。野球できるくらいに」 「僕は、中性ですよ」 「何、試してみないと分からない!!」 断言するロックオンに、ティエリアはキスをする。 「そうですね。世界中を旅して、時折トレミーにも戻って、そして子供をたくさん作りましょう」 「約束な?もう離れない。俺はどこにもいかない。ずっと一緒にいるって約束、な?」 小指をさしだしてきたロックオンに、ティエリアも小指を差し出して指きりげんまんをした。 子供同士がする約束のような誓い。 儚い、儚すぎる誓い。 「ウェディングドレスがきついです。隣の部屋で着替えてきますね。・・・・あ、もしかしたら眠るかもしれません。とても眠いです」 「お?おお。無理すんなよ。そういや、宇宙にあがってから寝てなかったもんな。俺もちょっと眠いかも」 「僕は、あなたのお嫁さんになれたでしょうか?」 「もう、俺の正式な妻、お嫁さんだよティエリアは。ウェディングドレス、緩めてやるよ。もしそのまま寝たいなら寝ても構わないぞ」 「はい、お願いします」 腰のホックを外してやって、緩めてやる。 元から細いティエリアには、そんなにきつくないだろうが。 「ねぇ。忘れな草の髪飾り、つけて?」 「どしたんだ。やけに甘えるな?」 「新婚なのです。甘えたい気分にもなりますよ」 「ほら」 ロックオンは、忘れな草の髪飾りをティエリアの髪に飾ってやった。 「綺麗な髪だよな。瞳の色も綺麗。誰よりも美人な俺のお嫁さん。念願の新婚だぜひゃっほい!」 「ひゃっほい!」 ティエリアも真似して、はしゃぐ。 石榴色の瞳が細められて、また涙を零した。 「では、少し仮眠をとってきます。おやすみなさい」 「おお、おやすみ。俺はちょっと、ダブルオーライザーのメンテナンスしてくるわ。着替えてだけど」 「はい。無理はしないでくださいね」 「おう。なんたって新婚だからな。ひゃっほいー!」 ロックオンは嬉しそうに、着替え終わるとスキップで格納庫に向かった。 「おやすみ・・・なさい。永遠に。さようなら。愛を、ありがとう、ロックオン。愛しています。永遠に。おやす、み、なさ・・・・い・・・・・」 ティエリアは、隣の部屋の寝室のベッドに横たわると、一度だけ目をあけた。 目の前をエメラルドの蝶が舞っていた。 「ありが・・・・と・・・う・・・さよう・・・・な・・・ら・・・・・」 その蝶に向かって、手を伸ばす。その手が、力なくパタリとベットに落ちる。 そのまま、瞳は閉じられた。 その瞳が開くことは、ロックオンを映すことは永遠になかった。 ティエリアはウェディングドレス姿のまま、帰らぬ人となった。意識体の死。もう、ティエリアは戻ってこない。 「ティエリア、ティエリア、嘘だろ、目をあけてくれよ!!こんな結末ねーだろ!!」 ロックオンは、涙を零しながら、ピンクのウェディングドレス姿のまま、永眠した、冷たくなったティエリアの頬を叩く。 「俺は、こんな結末を迎えるために、蘇ったんじゃねーよ!お前を守って、お前の側にいて、お前と一緒に生きるために、奇跡を起こしてもらったのに!!ティエリアああああぁぁぁぁぁ!!うわあああああああぁぁぁぁぁーーーーーー!!!」 ロックオンの悲しみの絶叫は、幾日も続いた。 「なぁ、嘘だろティエリア。起きてくれよ・・・俺のかわいいお嫁さん」 冷却保存した遺体を見るたびに、ロックオンは声をかける。 「なんで・・・言ってくれなかったんだ。最期ぐらい、看取らせてくれよ。なぁ。俺はばかだ。何がひゃっほいだ!俺はばかだ!!!くそおおお」 ふと、ティエリアが使っていた部屋を見回す。 何かを求めるように。 そして、見つけた。 それは、小さな封筒。そこに入っていたのは、忘れな草の押し花と、「私を忘れないで」というメッセージカードと、そして。 (ありがとう。あなたは、僕が作り出した心の愛の幻想だったんですね。「夢」でできた奇跡の結晶だったんですね。僕に、愛を再びくれてありがとう。そして、さようなら。あなたは、僕の分までどうか幸せに生きて下さい) ロックオンは呆然となった。 「気づいて、いたんだ。ティエリア。俺が、「夢」でできた、ティエリアの、俺の想いを集めてできた結晶だってこと・・・・ティエリア・・・愛してるよ。お前の分まで、幸せに、か・・・・。ティエリア・・・愛してる。永遠に、お前だけを」 冷たくなったティエリアの唇に唇を重ねると、ロックオンは業者を手配して棺の中に白い薔薇の花とそして水色の忘れな草の花も入れると、棺を閉じて、それを大切そうにダブルオーライザーの手の中に包み込むと、宇宙へととんだ。 「愛してるよ。ティエリア・・・・・」 一緒に流星をみたグランジェ3までいっきに飛ぶと、ダブルオーライザーの手をゆっくりと開く。 棺は無重力の中、ふわりと浮いて流れていく。 「愛してる」 「愛しています」 二人の声が、重なった瞬間。 いや、そう聞こえただけ。 実際は、ロックオンしか言葉を発してはいない。 ティエリアは、宇宙へと還る。 ロックオンの手によって。 リジェネと刹那と、そして本当のロックオンが眠る宇宙へ。 NEXT |