許されたたい。 だけど、許されない。 何故なら、僕は罪人だから。 目を開けたティエリアの瞳を、ライルは覗きこむ。それは期待していた石榴色ではなく、金色だった。 「なんで・・・・あんたの目、金色なんだ。まるで、アニューみたいに・・・・」 「それは・・・・僕が、イノベイターだから」 その言葉に、ライルの全身が沸騰した。 「お前、イノベイターだったのか!!」 艦内の皆は薄々気づいている。イオリアに作られた計画のための人工生命体であることは皆承知の上だ。 ティエリアが話したのだ。 その存在は、イノベイターでしかないだろう。 ライルは、ティエリアの細い首に手をかける。 ぐっと、力をこめる。 ティエリアは、涙を零してライルを見ていた。 されるがままに、首を絞められるティエリア。 「お前らのせいで、アニューは、アニューは!!!」 ぐっと、さらに力をこめた。 ティエリアの白皙の顔が青ざめ、そしてどんどんチアノーゼ状態になって、パタリとライルの手を握っていた手が音もなく落ちる。 その静かな音にはっとなって、手を離した。 「ゲホ、・・・・ヒュー、ゲホッ」 「俺は・・・・くそ!」 ライルは、咳き込むティエリアを放置して、展望台に行くと、そこでしばらく時間をつぶした。 座り込んで、いつの間にか夢を見ていた。 「アニュー?」 「ライル・・・・彼を、いいえ、彼女というべきかしら?許してあげて。ティエリアは悪くないわ」 「でも、あいつらのせいでお前は!!」 「私、とっても幸せよ?ライルと出会えて。何も思い残すことはないの。ただ、気がかりなのはあなたのこと。あなたには、幸せになれとはいえないけど、破滅してほしくないの。私のために、思いつめないで。許してあげて。あの子を。許されないと思うかもしれないけど、許してあげて」 「アニュー・・・」 「人を許すのも、また人なのよ。ライル・・・・」 アニューは遠くなっていく。 その姿を追って抱きしめる。 腕の中にいたのは、アニューではなく、ティエリアだった。 金色の瞳の、紫紺の髪の天使。 「あなたは、ニールと同じ道を辿らないで。生きて、下さい。アニューの仇をうつために、それだけにとらわれないで。必ず、生きてください」 目をあけると、側にティエリアがいて、瞳を閉じてこちらと額をあわせていた。 「ティエリア?」 「あ・・・ごめんなさい。勝手に、シンクロしてしまって・・・」 戸惑いがちに、ティエリアは寂しそうに笑う。 その首には、はっきりと絞められたあとが紫になって残っていた。 痛々しい姿に、ライルの胸が絞めつけられた。 「アニューに会わせてくれたの、あんた?」 「はい・・・ごめんなさい。こんなことしかできなくて。許されなくても、でも、せめて」 「夢の中で、アニューが言ってた。人を許すのも、また人だって」 「え・・・・」 ライルは、ふらついたティエリアを抱きかかえて、部屋に戻ると、待っていろと姿を消した。ベッドの上で、ティエリアはずっと待っていた。 しばらくして、懐かしいじゃがいも料理を抱えたライルが戻ってきた。 「じゃがいも・・・・の、シチュー」 「昔、兄さんが教えてくれたレシピだよ」 「ロックオンが・・・」 「食えよ。暖かいうちに。あんた、最近あんまり食ってないだろ。元から細いのに、また痩せてさ」 「ありがとう、ライル」 ティエリアは微笑んで、シチューにスプーンを入れて、全部食べてしまった。それを片付けて、ライルはティエリアの額にキスをした。 「ライル?」 「そう。ライルって、呼んでくれないか。ロックオンじゃなくって、ライルって」 まるで、アニューに教えた時のようにティエリアに優しく教える。 「ライル・・・・」 「ごめんな、ティエリア。許してくれとは言わない。俺が、悪かった」 ティエリアは、瞳を金色にかえて泣き出した。 ライルも泣いていた。 「アニュー、なぁ、俺たちは許されるかな?アニュー」 「許されます。きっと。アニューは、あなたを愛していた。あなたを愛しすぎて、だから僕はアニューがイノベイターだといえなかった。ごめんなさい」 「もういいよ。アニューはいないんだ」 「それでも・・・・ごめんなさい。僕は天使じゃない。悪魔だ」 「違うよ。人間、だろ?」 二人は、手を握り合ってベッドの中で眠った。 こうするのは、いつ以来だろうか。 はじめてティエリアに出会ってひかれて、何度かアタックして、そして刹那のものであるとわかって、でも挫けずに、側にいてくれと頼んだ。 でも、アニューが現れて、そう、ライルはティエリアにすがり付いていたのを捨ててアニューに全てを求めた。 ティエリアは、自分のものにならないから。愛してくれないから。 「許されますか・・・ロックオン。僕は、許されたいです」 星が瞬く宇宙を窓から見て、ティエリアはまた眠りについた。 NEXT |