永遠の果て「夢の中で愛していると囁くの」







「お嬢様、こちらの服にお着替えになってください」
「ありがとう、シャリー」
シャリーがクローゼットから見繕った、豪奢な外いきの衣服に着替えると、シャリーは化粧台に座ったティエリアの長い爪に透明なマネキュアを塗って、唇にパールピンクの色つきリップを塗る。
「髪はどうしましょう」
「くくって」
シャリーは、ヘアゴムを口にくわえて、ブラシでサラサラのティエリアの紫紺の髪をすくと、サイドの髪だけを三つ編みにして後ろで結び、シルクのリボンで結う。
「今日はこの髪型でどうでしょうか?」
化粧台の鏡を見るティエリアは、シャリーの腕に文句はないのでいつも任せている。
「うん、これでいいよ」
最後に真紅のケープを受け取って、それを羽織る。
靴は少し踵が高めの黒革のブーツ。

「シャリー、行ってくるね」
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
ティエリアの家には、ティエリアとその父アベル以外に人間は住んでいない。
みんな、アンドロイドだ。
使用人の全てからガードマン、シェフ、メイドにいたるまで全て最高級のアンドロイドで構成されている。普通に人を雇う10倍の値段がかかる。
だが、アンドロイドは決して人間を、マスターを裏切らない。だから、安全なのだ。
父アベルは一人娘のティエリアを溺愛している。もしもその身に何かあったら、倒れてしまうだろう。
「今日は婚約者のアレルヤ君も来る予定だよ」
「アレルヤが」
高級車に乗り込んだ父の言葉に、ティエリアは喜んだ。
アレルヤは、ティエリアの幼馴染でもある。同じような財閥の御曹司。ティエリアには釣りあう相手であり、何よりティエリアはアレルヤとは年こそ3つ違うものの、アレルヤのことを好きだ。
両家で正式に婚約を交わした時、ティエリアとアレルヤの両親は互いに喜びあった。
無理やり婚約者をもたせて、娘の意思を無視して結婚させるなんて父にはできない。だからといって、どこの馬の骨とも分からないものに娘はやれない。その分、アレルヤなら旧知の仲だし、アレルヤの実家もアーデ家にまさるとも劣らない名家であるし、何より娘のティエリアがアレルヤを好きなのだ。
この婚約は、娘の幸せに繋がるだろうと父は信じて疑わない。
高級車を運転するのも、やはりアンドロイド。そのまま自家用シップに乗って、隣のコロニーにまで出かけると、オペラ座についた。

「ティエリア?ティエリアじゃないか!!」
たくさんの人が行き交う中、美しく着飾ったティエリアに気づいてこちらに走りよってきたのは、なんとニールだった。
「ニール?何故ここに」
「あー、母さんと父さんに連れられてオペラ鑑賞に。ここから、電話受け取った」
パッと、ティエリアの頬に朱が混じる。
「ティエリア?この子は?」
「あ、いえ、友人のニールさんです」
「見かけない顔だが?どこで知り合ったんだい?」
「お父様!もう、私は大丈夫です!!」
ニールを値踏みする父親を、ティエリアは背中を押して先に行かせた。
「あれ、ティエリアのお父さん?ティエリアって、アーデ家のご令嬢だったんだ。なんとなくそんな気がしてた」
「だから、なんですか」
「なあ、俺たち友達にならないか?」
「友達?」
「そう。ナンパはお断りなんだろ?だったら、友達ならいいだろ?夢の悩み事だって聞くぜ?」
ニールには、それが精一杯だった。
暮らす世界の違う人間のティエリアに近づくには。
「そう、ですね。お友達なら」
「なら、決まりな!俺ニール・ディランディっていうんだ」
「ディランディ・・・・」
そんなところまで、夢と同じなんだから不思議だ。

「ちょっと、ニール何してるの、先にいくわよ!」
「はい、母さん、今いくー」
「言っておきますが、私には婚約者がいますので」
「そうか、婚約者が・・・・ってええええ!まじで!俺、やべぇ。あ、その忘れ名草の髪飾り、ずっとしてるんだぁ。あげてよかった、俺」
「あなたにもらったんじゃありません。お父様がオークションで競り落として私にくださったのです」
つーんと違う方向を見るティエリアに、ニールは苦笑した。
「でもな、それ最初に買ったの俺なんだ。前世、信じないだろうけど。俺がロックオンって名乗っていた頃に、お前に買ってあげたやつ。お前が欲しがったから」
少しずつ、二人の距離は縮まっていた。
キスができそうなほどの距離に、ティエリアは我に帰って真っ赤になってニールとぶんぶんと握手だけすると走り去っていくよ。
「ほら、いくわよ!!」
ニールは母親に腕を引きずられながら、その場を退場した。

「やぁ、久しぶりだねティエリア」
「アレルヤ!!」
特等席のシートで、ティエリアは待っていたアレルヤと出会った。
アレルヤは、小さな霞み草の花束を持っていた。
「これ、プレゼント」
「ありがとう」
ティエリアは頬を染めて、アレルヤにお礼を言った。
アレルヤの両親もきていた。
そのままオペラを鑑賞した後は、二人の婚約正式決定の祝いをかねて、高級ホテルでディナーとなった。
「ねぇ、アレルヤ」
「うん?」
「あなたは、前世とか信じますか?」
「うーん、どうだろう。でも、僕なら信じるかな」
「どうして?」
「運命の人が、多分前世も同じ人だったんだと思う。僕ならティエリアかな?」
ティエリアは夢を思い出す。
そういえば、夢の中にはアレルヤもいた。アレルヤは夢の中のティエリアのことが好きだった。
「私のことを、前世恋人だったという少年がいるんです。どう思いますか?」
「うーんロマンチックだと思うねぇ。そんな子、一度会ってみたいなぁ」
アレルヤは、本当に会いたそうにしていたので、ティエリアはニールとアレルヤをあわせることにした。
「今度、一緒に会いにいきますか?」
「うん。会ってみたい」
「じゃあ、いつもの美術館であしたの夕方・・・・」

二人は、その日はそこで別れた。
ティエリアは父と一緒に自宅に戻り、眠りにつく。

夢の中で、ティエリアは愛しいニールをなくし、そしてアレルヤにも刹那にもリジェネにも先立たれ、一人ぼっちだった。そして、再びニールを再生することを決めた。
ニールは蘇り、しかしティエリアは病気で寿命が迫っていた。
ティエリアはニールとウェデングドレスを着て地球で結婚式を挙げると、そのまま「おやすみ」といってベッドで眠り、死んでしまう。
哀しみにひたるニールに、夢の中に入り込んだティエリアは触れる。
「泣かないで。ここに、いるから・・・・」
そっと抱きしめる。
白い12枚の翼で包み込む。
「いるのか、ティエリア?」
「はい。います、ここに・・・・」
「ああ・・・・愛してるよ・・・」
「私も、愛しています・・・」

目が覚めた。
また泣いていた。
「ニール・・・・」
携帯をかけようかと思ったが、夜中だったのでやめた。
再び眠りにつくと、もう夢は見なかった。


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