それから数週間が何事もなく過ぎていく。 「よ、ティエリア」 「ニール」 ティエリアとニールは、毎日のように美術館の忘れ名草の絵画の前で出会うようになった。 そして前世のことではなく、毎日、何があったのか話し、そして笑いあうのだ。 そう、これが俺にできること。少し少しティエリアに歩み寄っていくのだ。 時折、ティエリアは倒れる。眠るのだ。 その時、必ず前世の記憶を取り戻したような言葉をニールにかける。 でも、目覚めると何も覚えていないのだ。自分がニールに何を言ったのかも。 「ほら、これあげる」 「かわいい・・・」 それは、忘れ名草の鉢植えだった。 「ティエリア、この花が好きなんだろう?」 「うん」 二人は公園のベンチで座ってクレープを食べながら、笑いあっていた。 ほら、ティエリアに前世の記憶がなくても、こうして笑い会える。側にいれる。語らうことができる。 何も、前世の記憶なんかに頼る必要はないんだ。 また出会えたのだから。 少しずつ距離を縮めていけばいい。 「じゃあ、また明日ニール」 「また明日な、ティエリア!」 ニールは走り去っていった。 ティエリアは、忘れ名草の鉢植えを家に持ち帰ると、温室においでいつも自分で世話をした。 ニールと出会って、もう1ヶ月になる。 毎日、また夢をみている。 そのことは、ニールに話していない。 夢なんてしょせんは夢。大切なのは現実のこと。 自室で課題をしていたティエリアの携帯が鳴った。 「ティエリア?」 「アレルヤ、どうしたの?」 「うん・・・・声が、聞きたくて」 「そう」 そういえば、最近あまりアレルヤと会っていない。 アレルヤのことが好きなはずなのに。 「ねぇ。君、ニールのことが好きなんじゃない?」 「え。そ、そんなことないよ!」 「隠さなくてもいいよ。これは親同士が決めた婚約でもあるけど、僕たちが決めた婚約でもあるんだ。君がニールのことを好きなら、僕は婚約を解消するよ」 「待って、アレルヤ!!そんなことないから!!」 「ううん、いいんだ。僕、気づいちゃったから」 「アレルヤ、アレルヤ!!!・・・・・・・・ごめん、なさい・・・」 ティエリアはしゃくりあげた。 「好き、なの。多分、あなたよりもニールが・・・・」 「うん。いいよ。君は、幸せになるべきだ。だから、僕のほうから親を説得して、婚約解消を勧めておくね」 「ごめんなさい、アレルヤ・・・・・」 そのまましばらく話して携帯は切れた。 ティエリアは泣いて泣いて、そのまま泣き疲れて眠ってしまった。 また、あの夢だ。 「ロックオン、誕生日おめでとう!!」 「ああ、ありがとな」 「これ、忘れ名草の押し花です」 「ありがとう」 二人は微笑みあって、とても幸せそうだった。恋人同士な二人。愛し合う二人。 ふと、泣いているティエリアに気づいて、夢の中の住人のティエリアが白い12枚の翼を広げてこちらに歩いてくる。 「私・・・?」 「怖がらないで。私はあなた。あなたは私」 「私は・・・・」 「あなたは、私が転生した私」 「転生・・・・あなたは、前世の私?」 12枚の翼はとても綺麗で、純白の羽毛を舞い散らせる。 「そう。私は前世のあなた。この夢は全て、あなたのかつての記憶・・・・嘘ではないの。あなたは、昔の記憶を夢で見ているの」 「私は、どうしたらいいの!?」 「泣かないで。何も、怖がる必要はないから。このまま、歩いていけばいい」 「でも、アレルヤがっ!」 「大丈夫。大丈夫だから」 「おいで、ティエリア」 12枚の翼をもつティエリアは、少女のティエリアと一つになった。 そして、ティエリアはロックオンに抱きついて、涙を流した。 「私は、あなたを、あなたを・・・・・愛している」 「俺も、愛しているよ」 二人は、夢の中でキスをした。 そのまま、ティエリアは目覚めた。 また、涙を流していた。 私は変なのかもしれない。前世の夢をみる。前世の記憶を夢でみる。 ニールは前世の恋人だと最初は自分のことを言っていたけど、今では何もいわない。ただ、ティエリアのよき友人として、日常のことを語ってくれる。 私はおかしいのかもしれない。 「そんなことはないよ」 白い羽毛が、舞い落ちた。 「あなたは・・・・」 ティエリアは、息を飲んだ。 「あなただけじゃないだから。あなたは一人じゃないから」 「待って!!」 ティエリアは、空へと浮かんでいく彼に向かって手を伸ばす。 「待って、もう一人の私!」 石榴の瞳の天使のティエリアは、白い羽毛だけ残して消えてしまった。 「天使の羽・・・・」 白い羽毛は、どんなに時間がたっても消えることはなかった。 「あなたは天使?」 白い羽毛をかき集めて、ティエリアはまた眠りついた。 目覚めると、枕もとには羽毛が光っていた。 ティエリアは、決意した。 NEXT |