永遠の果て「飛翔する魂」







時間がもうない。
いよいよ、明日にはアレルヤとの結婚式だ。
二人は、いつもの美術館にきていた。忘れ名草の絵の前で、ティエリアはニールに腰を抱き寄せられていたのだが、ニールの髪をいじりながら、目を閉じた。
「あなたに、お願いがあります」
「俺に?」
「そう、ニールにしかできないこと」
ティエリアは、天使と交わした契約を思い出した。契約はニールに告白する、それだけだった。
でも、続きはティエリアがするのだ。きっと、天使が望んだ契約とはそんなものなのだろう。これが、本当の契約。自分の心を偽らず、自分の願いをニールに聞き入れてもらうこと。それが、きっといつの日かかわした契約の本当の内容。そんな気がした。
そう、自分の姿をした天使との契約。忘れたわけじゃない。
「私は明日、アレルヤと結婚式をかねたパーティーを自宅で開きます。そこから、私を連れ去って」
「アレルヤと結婚!?」
「そう。でも、私はアレルヤと結婚したくないの。でも、婚約破棄は無理だった。だから、私をそこから攫ってください」
「でも、そんなことしたらお前は・・・・」
「ニールは、私がアレルヤと結婚してもいいの?私のことが好きじゃない?愛していない?」
「そんなことあるもんか。お前が大好きだ。ずっと愛している」
「じゃあ、私を連れ去ってください」
「分かった」

ティエリアとニールは、忘れ名草の絵画の前でキスをした。
愛を確かめ合う優しいキスは、胸がドキドキしすぎて甘酸っぱい気がした。レモンの味がするね。そんな青春の言葉通りのように。

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日曜、アーデ家。
さまざまな財閥の要人などを招いたその場所には、ウェディングドレスを着たティエリアとタキシードを着たアレルヤの姿があった。
教会の神父も招いてある。
「本当に、大丈夫なの?このままじゃ、僕たち結婚しちゃうよ」
「大丈夫。ニールに頼んだから」
「でも、こんな厳重な警備なのに・・・」
「それでも、信じています」
「うん。じゃあ、いこうか」
パチパチパチパチ。
二人は、腕を組んでみなの前に現れた。
客たちは、若い二人の結婚式を心から祝うために訪れたのだ。

二人は祭壇の前にくると、神父はまずは神に祈ってから、聖書を開く。背後では招かれた少年合唱団が賛美歌を歌っていた。
蝋燭の灯火が灯される。
ポッ、ポッ、ポッ。
ライトを落とした室内で、その蝋燭の光だけがティエリアとアレルヤを照らしていた。
「汝、アレルヤ・ハプティズム。汝はティエリアのことを病める時も健やかなる時も、妻として迎えることをここに誓いますか?」
「はい、誓います」
「汝、ティエリア・アーデ。汝はアレルヤのことを病める時も健やかなる時も、夫として迎えることをここに誓いますか?」
「・・・・・・・・」
「新婦ティエリア?」
ざわめきがおこる。
少年合唱団の賛美歌はもう終わってしまった。
ライトがつけられ、急に慌しくなった。
「侵入者だ!」
「こっちにきたぞ!」
疾風のように走ってきた、ボロボロのニールが、ティエリアを抱き上げた。
「神父のおっさん!新郎は俺!!」
「え、えええ?」
「そうです。私の夫となるのは、この方です」
「ティエリア!!!」
父の怒鳴り声が響いた。
「お父様。私は、ニールがすきなのです。彼と、結婚させてください」
「そんなことが、許されると思っているのか!父に大恥をかかせるつもりか!」
「許してください、お父様。でも、私は彼を愛しているのです」
ざわめく客人は、次の瞬間静寂に戻る。
ティエリアの背中に、12枚の白い翼は生えていたのだ。それは光り輝いていた。
「おお・・・神よ・・・今、奇跡が起きています・・・・」
神父は涙を零して、ティエリアにひざまづいた。
そして、ニールの背中にも12枚の白い翼が生えていた。二人は、翼でふわりと浮かびながらキスをする。

それは、皆が見ていた。
皆が、信じられない表情で目の前でおこる奇跡を見つめていた。

そして、ティエリアは愛しいニールの髪をすく。
「私は、あなたを愛しています。ロックオン。ニール。やっと、やっとまた愛し合える。今度こそ、幸せになりましょう」
「ああ、幸せになろう。今度こそ」

少年合唱団は、また賛美歌を歌い出した。
客人たちは、二人の愛の記憶が再生されていくのを見ていた。
二人の千年かけた愛の結晶が、再生されていく。それに、皆涙を零し、そして二人に拍手を送る。
「奇跡か・・・・」
アレルヤも涙を流しながら、ティエリアとそしてニールに拍手を送った。
「ティエリア・・・・」
「ニール・・・・」
二人は、その場でまたキスをする。
二人の体から、12枚の翼を生やした中性のティエリアと、青年のニールが姿を現し、パーティー会場を光で包んだ。
そして、二人は互いに両手を胸の前で握り合いながら、天に昇っていった。
残されたティエリアとニールは、手をつないで会場から逃げ出した。

「もう、離さないから」
「私も、もう離れません」
二人は、逃げ出す。会場から、二人だけで。
愛を誓いながら。
 



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