永遠の果て「フォールダウン」







二人は、かけおちしたわけじゃない。
ただ、ティエリアは自分の夫となる者ではない者との結婚式から二人で逃げ出した。それだけ。

二人は、すぐに見つかって、でも引き裂かれはしなかった。
父親も、二人の千年をかけた愛の記憶を見てしまったのだ。
「アレルヤとは、婚約破棄を正式にしておいた。会場の要人たちに、あの二人を結婚させろと詰め寄られて・・・合併した会社はまた別れることになる」
「はい、お父様」
父親は、今日も教会で神に祈ってきたばかりだ。
二人の記憶を見た人々は、二人の結婚を望み、そしてなぜだか神父すらも、起こった奇跡を法王に報告することもなく、二人の千年の愛を見た人々も涙を流し、二人の幸せを願うだけで、騒ぎ出すことはなかった。
これは、何かの魔法なのかな?
ティエリアは思う。

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(その通りですよ、ティエリア)
至高天で、ジブリールは翼を広げて、自分の前にやってきた二人の天使に涙を零した。
「ティエリア、ニール。よく、ここまでやってきましたね」
「ありがとな」
「ありがとう」
12枚の翼を持ったティエリアとニールは、ジブリールの目の前で抱き合いキスをすると、二つの魂に戻り、それは一つに融合しあった。

夢の続きをまだ見ますか?
はい いいえ もう見ない
浮かんできた言葉に、また「はい」を選択して、ジブリールはその昇華された融合した魂を胸に抱くと、水面からその魂を流す。
それは、ゆっくりと流れてティエリアのお腹に宿った。

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リーンゴーン。
教会の鐘が鳴り響く中、ピンクのウェディングドレスを着たティエリアは、白いタキシードのニールと神父の前で愛を誓いあい、結婚式をした。
そして、ブーケを学友や財政会の客人などたくさんの人が見ている前で投げた。
二人に向かってたくさんの拍手が送られる。
「幸せか、ティエリア?」
「はい、幸せです」
ティエリアの父も、涙を流して二人の門出を祝い、手を叩いた。
ニールは、実家の花屋を継ぐことが決まっている。ティエリアは、アーデ家の令嬢であるが、アーデ家の跡を継がずに、ニールと一緒に小さな花屋を営む選択をした。それに、父はもう反対はしなかった。アーデ家は甥っ子が継ぐことになった。

「おめでとう、ニール、ティエリア!!」
アレルヤが号泣しながら、二人を抱きしめる。
二人は顔を見合って苦笑する。
「なぁ。俺が最初は死んだ。お前を置いて」
「はい。次は、私があなたを置いて先に死んだ」
「もう、そんなのなしにしような。死ぬときも一緒だ。生きるのも死ぬのも一緒。お腹の子のためにも、幸せになろう。今まで何度も別れてきたんだ。俺たち、もう幸せになってもいいよな」
「もう、幸せになってもいいと思います」
二人の新婚旅行は地球だった。
地球のアイルランドを選んだ。
ニールの生家があった場所は、小さな美術館が建てられていた。
二人は吸い込まれるようにその美術館に入っていく。
最上階には、忘れ名草の絵画が一枚だけ飾られていた。その絵画の右と左には、12枚の翼だけが描かれていた。

二人の前に、また文字が浮かんでくる。
夢の続きをまだ見るつもりですか?
はい いいえ もう見たくない
二人は「もう見たくない」を選択した。

文字は、光となって消えていく。ティエリアとニールを巻き込んで。
12枚の翼が羽ばたく。
彼を思って涙したあの時。地球に向かって、手を伸ばしたあの時。愛を囁きあったあの時。一緒に眠ったあの時。ペアリングを買ったあの時。
たくさんの記憶が二人の体から流れ出す。
それは、千年という遙かなる悠久の時をかけて築き上げてきた二人の魂の愛。
二人の愛の結晶。
二人は、12枚の白い翼を伸ばして、羽ばたいた。

真っ白になって何もなくなった世界で、文字だけが浮かんでくる。
夢の続きはもうありません。これで満足ですか?天使たちの夢は完全に終わりました。
満足です 満足じゃありません もう一度、夢を最初から見る

ジブリールは「もう一度、夢を最初から見る」を選んだ。
もう一度、見てみよう。
二人の愛の結晶の記憶をもう一度夢見よう。何度だって見ていたい。そんなに綺麗な愛でできている。
ジブリールは、水面をただの水鏡に戻すと歩き出した。
翼はもう黒くなりはじめていた。
「ジブリール」
「ルシフェル・・・・・・」
堕ちていくジブリールは、ルシフェルの腕の中でその首に手を回し、そしてため息をついた。
「天使たちの夢は終わりました。私は天使たちが見た夢をもう一度見ます」
「一緒に、見ようか」
「ええ」

「よお、おれロックオンっていうんだ。よろしくな」
「私はティエリア・アーデ」
初めから巻き戻され、再生されていく天使たちの夢を見ながら、二人は漆黒の闇に溶けていった。


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