次に起きると、時間は昼だった。 ここ最近、ずっと眠っているような気がする。 ロックオンの姿はなかった。 ティエリアは、ロックオンの姿を探して家の中を探し回るが、何処にも彼はいなかった。 「いなくなった?夢?消えてしまったの?」 ティエリアは、呆然とリビンルームで膝を抱えると、そのまま全身を震わせた。 もう、泣かないって決めたのに。 それが嘘みたいに、ばかみたいに涙だけが零れてくる。 僕って、こんなに泣き虫だったかな? こんなに、泣き虫だっただろうか。 一時間くらい、声もなく泣いていると、ロックオンの声が聞こえた。 「何処!何処に、いるのですか!」 「ああ、今スーパー。買出だしにいってるだけ」 それは、繋がったままの携帯から聞こえてきた。 ロックオンって、携帯持ってたのかな? そんなことをふと疑問に思いながら、携帯を手にロックオンの言葉を聞く。 「また泣いてたんだな。ごめん、起こさないでおこうと思ったのに。泣かせるくらいなら、一緒に行けばよかった」 「今度から、そうしてくれればいいです。早く、帰ってきて」 「すぐ帰ってくるよ」 ティエリアは、家の前の庭でロックオンを待っていた。 ロックオンは口笛を吹きながら、昔のようにママチャリを意気揚々とこいで帰ってきた。 買い物籠にはたくさんの食品が詰まれてあった。 「荷物、持ちますね」 「ティエリア、おいで」 手招きされて、ティエリアは素直にロックオンの側にいく。 「泣かせちまってごめんな。心配かけてごめん」 「あなたが・・・・消えてしまうのかと。いなくなってしまうのかと。全て、夢かと怖かった・・・」 震えるティエリアの泣きはらした紅い目にキスを落として、ロックオンは荷物を全て持って、一人でキッチンに向かうと、食事を作り始めた。 冷蔵庫は昔のような栄養補給タイプのゼリー食ばかりで、それがロックオンには気に入らなかったんだろう。 ロックオンは栄養とかとにかく拘るタイプだ。特に、昔ゼリー食や栄養剤ばかりを口にしていたティエリアに注意をして、ちゃんとした食事をとるように勧めたのもロックオンだ。 ロックオンは、白いエプロンをつけると、同じようにエプロンをつけたティエリアと一緒に二人で一緒になって料理をしていく。 ロックオンが、野菜籠の中からピーマンを取り出し、それを軽く炒めた。 「う・・・」 ティエリアの目が泳いでいた。 ピーマンは、ティエリアの大嫌いな食べ物だ。 「食べろよ〜。食べないと、消えちゃうからなー」 「た、食べます!!」 できあがった食事を、少し早いけど夕食としてTVのお笑い番組を見ながら二人で食べていく。 ピーマンを炒めた皿が、どーんとティエリアの前におかれた。 「う・・・・緑ゴキ・・・ブリ・・・の炒めもの」 「緑ゴキ・・・こええよ」 想像して、ロックオンは顔を青くした。 「た、食べますよ!ちゃんと食べれます!!」 フォークでグサグサと突き刺して、口にいれると、ティエリアは噛まずに飲み込んで、ミネラルウォーターを飲み干した。 「ほら、食べれました!!」 ロックオンはおかしそうに笑った。 「かわいいな、ティエリア。ピーマンやっぱ嫌いなんだな。こればかりは、直しようがないか」 「食べれました!大丈夫です」 「じゃあ、残り全部食う?」 「いりません!!」 ぶんぶんと首を振るティエリアの前には、ジャボテンダーさんが椅子に座っている。その前にはコップに入った水。 こんなところも変わらない。ロックオンは、本当にティエリアが愛しいと思った。 どこかあどけなく幼いのも変わらない。 変わらないティエリア。 変わってしまったのは、俺だ。 俺は、そう。俺は・・・・。 その日は、一緒にお風呂に入って、はしゃいで、それからまた同じベッドで眠った。 窓から見える月を見上げて、ロックオンは黒い翼を広げる。 「もう、限界か・・・・・」 刻限が迫っている。 帰らなくては。 元の世界へ。 ここは、俺がいるべき世界ではない。 俺はここにいることは許されない。 そう、俺はロックオン、ニールであった。でも、それは何百万年も前の話。俺の名はルシフェル。明の明星の王、堕天使王ルシフェル。 人とは相容れぬ存在。 人になりたいと願い、神に反旗を翻しそして堕ちた。 かつては至高天でミカエルの位置にいた。 ミカエルは、今頃どうしているだろう。ウリエルは。ラファエルは。 愛しかった子供たち。 俺を慕い、セラフになることを目指した彼ら。 真っ赤な月を見上げて、ロックオンは黒い翼を広げると、帰るべきヘルファイア、地獄への扉を開けた。 ギイ・・・・。 古めかしい音を立てて、扉が現れる。 ロックオンは、眠るティエリアの側にくると、その額の髪をかき上げてキスをすると、扉を開ける。 果てしない闇が、無限に広がる世界。 そこへ、足を踏み入れる。 すると、ティエリアが目を開けて叫んだ。 「行かないで!!!」 その言葉に、ロックオンは扉を閉めることはなかった。 「これは、夢だった・・・・そんな、結末を僕に与えるというのですか」 たくさんの涙を零すティエリアを、ロックオンは真っ黒な翼で優しく包み込む。 「いいや。これは物語だ。そして、ティエリア、契約しただろう?とりあえず、一度帰って迎えにこようと思ったんだが・・・・このまま、一緒にいくか?」 「行きます。どんな結末が待っていても、僕は構わない。あなたが、側にいてくれるのなら」 その言葉に、ロックオンはティエリアを愛しそうに再び抱き寄せ、唇を重ねる。 「月が、見てるよ・・・・」 真っ赤に濁った月が、窓の外から二人を照らしていた。 NEXT |