紅色のお姫様(前編)







正月休暇を日本にある経済特区、東京の刹那の家で過ごす。
四人仲良く、ガンダムマイスターとして平和を満喫する。

刹那とアレルヤは、暇だからと漫画喫茶に出かけてしまった。
もう、刹那を誘ってのカラオケはこりごりだ。
刹那はもう一度いきたいとねだってきたのだが、誰もが首をふった。

「行くなら一人でいけ」

きっぱりとしたティエリアの言葉に、アレルヤとロックオンは尊敬の眼差しをおくる。
最年少の刹那は、自分の顔がそれなりにかわいいことを自覚して、たまにおねがり行動をとる。
ティエリアのように完璧に整った美貌ではないが、まだ少年のあどけなさを残した刹那もそれなりにかわいい。
お兄さん的存在であるロックオン、そして誰にでも優しいアレルヤは、カラオケに行きたいとごねる刹那をなんとか言いくるめようとする。
そこに、ティエリアがやってきて、冷たい侮蔑とともに一言。
「カラオケなど、一人でも行けるだろうが。そんなに行きたいのなら一人でいってこい」

それに、刹那もあきらめて、本当に一人でカラオケに行ってしまった。
どうも自分の唄の上手さに目覚めたらしい。

「ほげ〜ほげ〜〜ほげ〜〜」


カラオケルームでは、変わらず刹那の酷い歌声が響く。
利用されたカラオケは、空爆にあったような被害をこうむる。
客だけでなくカラオケの店員でさえ失神し、そして刹那は自分の歌声でまた人を感動させたと喜ぶのであった。


刹那の家で二人きりになったティエリアとロックオンは、久しぶりに二人きりになったのだと、二人でのんびりとした時間を過ごす。
そこで、ロックオンがこれを着てくれと、衣装を取り出した。
それに、テェイリアは首を傾げる。
ロックオンが買ってくれる服は、いつも普通に着る。
時折ゴシックロリータがはいった服もあるが、ティエリアは気にせずに着た。
下には必ず半ズボンをはくが。
ロックオンから渡された衣装は、着物だった。

日本の、伝統ある衣装、着物。
しかも女ものだ。
そんなものの着方など、ティエリアは知らない。
そして、ロックオンはまっていましたとばかりに、ティエリアを連れ出して、着付け屋の店に連れ込んだ。

着物は振袖だった。
「かわいいお嬢さんですね。任せてください、完璧に仕上げてみせますよ」
振袖の衣装を手に、店を仕切っている40台半ばくらいの女性が、困惑したティエリアの手を引いて、振袖の衣装を手に店の奥に消える。
「少々お待ちくださいね、旦那様。お嬢様を、美しく変身させてみせますから」
店の店員に、お茶を出され、ロックオンはそれを飲みながらティエリアの着付けが終わるのを辛抱強く待った。
「まぁ、なんてかわいらしいんでしょう。江戸時代の将軍家の姫君のようですわ」
40台の女性に連れられて、着付けの終わったティエリアがでてきた。

石榴色の瞳と同じ、紅の振袖。
髪は一つに後ろで結って、同じ紅色の珊瑚のかんざしをしていた。
眼鏡はとって、コンタクトにしている。

「とてもとてもお似合いですよ」
「あの、ロックオン・・・・」

日本の伝統の衣装を着せられ、とまどったティエリアであったが、ロックオンも同じように着物に着替えていた。
まるで、成人式を迎える男女のような一対の姿に、店のオーナーはとても嬉しそうに微笑んだ。
「旦那様も、お嬢様も、本当によくお似合いですよ」
「ありがとうございます」
ロックオンが丁寧にお礼をいって、着付けの料金を払うと二人揃って店を出た。

二人揃って、はきものも下駄にかわっている。
慣れない足元に注意しながら、二人は手を繋いで外を歩いた。

「ロックオン?」
「すげーかわいい。ティエリアは何を着ても似合うけど、今日はほんとにこの国のゆかりある家柄のお姫様みたいだ」
素直に褒められて、ティエリアの顔が紅く染まった。
「ありがとう、ございます」

そのまま二人揃って、恋が叶うのだという神社におまいりした。
「いつまでも、ロックオンを愛せますように」
「ティエリアといつまでもいられますように」

神社に賽銭を投げいれ、お参りをして長い階段を降りていく。
神社のまわりには、まだ昼だというのに夜店がたちならび、ティエリアとロックオンは手を繋いで店をまわる。
「金魚すくい ・・・・」
よくある店の出し物の金魚すくいの前に立ち止まったティエリアに、ロックオンが優しく微笑んだ。
「やってくか?」
「はい」

「ありがごうざいます。お嬢ちゃん、がんばってすくいなよ」
店のおじさんから金魚をすくための薄い紙がはれた専用のすくいあみを手にとって、ティエリアは逃げていく金魚を見事なまでの手さばきですくいあげる。
「おお、すげぇな。こりゃまいった」
すでに、おわんの中は金魚でいっぱいで、2つ、3つとおわんが追加される。
それに、ロックオンも感心した様子でティエリアの横にくると、ティエリアの金魚すくい捌きを見つめていた。
「お姉ちゃん上手ー」
「僕もおねえちゃんみたいに上手くすくいたい」
いつの間にか、子供に取り囲まれていた。
「すいません、うちの子が」
金魚すくいに夢中になっているティエリアの変わりに、連れであるロックオンに子供たちの母親が謝った。
「気にしないで下さい」

ロックオンはそう言って、店のおじさんから自分も金魚すくいをするためにあみを受け取る。
パシャン。
はねる金魚に、ロックオンの紙はすぐに破れてしまった。
「あちゃぁ」
「ロックオン、無理にすくおうとするからです」
笑顔を煌かせて、ティエリアはロックオンがすくい損ねた金魚を見事にすくいあげる。

「あーん、あーん」
小さな女の子が、何枚もすくいあみをダメにして泣いていた。
一匹も金魚がすくえなかったのだ。
「ほら、泣き止みなさい」
「いやー。金魚が欲しいのー!」
店のおじさんは、無論金魚がすくえなかった子供にも平等に金魚をあげた。
「あーん、あーん。あの金魚がいいのー!」
テェイリアのおわんの中で泳ぐ、とても綺麗な金色の金魚を指差す。
「こら、わがままをいわないの!」
母親がしかりつけると、子供はよけいに泣きじゃくった。

パシャン。

ティエリアのすくいあみが、ついに完全に破れた。
「嬢ちゃん、今までの店の最高記録だ。凄いな、ほんとに」
「いえ」
ティエリアも嬉しそうだ。

ティエリアにすくわれたおわんの中の金魚は、金魚が泳ぐ群れの中に戻っていく。
店のおじさんが、5匹くらい金魚のはいった袋をくれた。
「ありがとうございます」
それを、綺麗な笑顔で受け取る。
「あーん、あーん、いやー!あの金魚がいいのー!」
ティエリアの袋の中に泳ぐ金魚に、幼い少女が欲しがる金色の一際綺麗な金魚が泳いでいた。

ティエリアは、女の子の隣にくると、頭をなでた。
「あげるよ、これ」
「いいの!?」
とたんに顔を輝かせる子供。
「うん。大事にしてあげてね」
「うん!」
泣きやんだ子供の笑顔に、ティエリアまで嬉しくなった。
子供の母親が、何度もすいませんすいませんと頭を下げる。
「いいんです。気にしないでください」
そういって、ティエリアは立ち上がる。

紅の美しい振袖すがたのお姫さまは、子供の羨望の的になる。
「お姫様だ!」
「お姫様ー!」
「金魚星のお姫様だ!」
「違うって、金魚すくいの勇者だって!」
「死んでしまったばぁさんによく似てる別嬪さんだなぁ」
子供も大人も、お年寄りもまじって、笑いあう。

ロックオンは、金魚のはいった袋を受け取ることを拒んだ。
自分たちはガンダムマイターだ。
金魚は生き物。
ちゃんとした世話がいる。
トレミーではペットは禁止されている。それが、たとえあまり手のかからない魚類であろうとも、禁止されたもの禁止なのだ。

「ありがとう、お姫様!」
ティエリアの金魚の袋を貰った子供が、とても嬉しそうに袋の中で元気そうに泳ぐ金魚に目を輝かせる。

「行きましょうか」
「ああ、行こうか」
二人、また手を繋いで歩き出す。
店の出し物を見物したり、食べ物を食べたり。
こんな一日もいいなと、ティエリアはとても楽しそうだった。



NEXT