この閉ざされた世界で「引き裂かれた二人は」







「いやあああああ!」
「ティエリアー!!!」
二人は、反対の方向に兵士によって連れていかれる。
そして、ティエリアは上等な馬車に乗せられて、汽車を乗り継いでお上の住まう都までやってきた。
「おお、ティエリアか、お前が・・・・亡き妻にそっくりだ!」
お上は、ティエリアを歓迎した。
テイエリアは美しい着物をきせられ、飾られてお上と祝言をあげることになるのが決まっていた。
「嘘、こんなの嘘・・・いや、いや。私を戻して・・・」
「まだ泣いているのか、ティエリア」
「お上!お願いです、私をニールの元に戻してください!」
「だめじゃ。余の妻になるのじゃ、そちは」
「お上!」
何度嘆いて訴えても、お上は聞き入れてくれなかった。
それから数ヶ月が経った。
結局、ニールと裂かれたまま、ティエリアはお上の後妻として正式な手続きを踏み、お上の妻となった。お上に抱かれても、ティエリアは全く反応を見せることはなかった。
笑うことも泣くこともない、話しかけても反応さえない人形。
「そちがこのようなつまらない中性だったとは!少しは笑ったらどうだ!女郎をしておったのだろう、そちは!男を喜ばせるくらい、軽いものではないのか」
「私は、あなたを喜ばせるために生きているのではありません」
パン!
顔を平手打ちされてもティエリアは怯まなかった。
「そのようだと、そちを弟にさげるぞ。弟は残忍でな、中性といえ殺すのじゃ」
「なら、その弟君を呼ばれてはどうですか。私はもう死んでいるのです」
「ふう・・・・全く。さがってよい」
ティエリアは、何人もの女官に傅かれて自分の部屋に戻る。

お上の子供。
名は知らぬ。覚えてもいない。

ティエリアは、宝剣を手にとると、お上の子供のところにいって、一緒に遊ぶようになった。
それに、お上も満足したようで、夜もティエリアはお上を満足させて、お上は幸せになったと、一人で満足していた。そう、妻であるはずのティエリア・アーデもお上の正妻は、国で一番の地位なのだ。満足しないはずがない。
お上の頭はいつでも桜が咲いているに違いない。
愛する者同士を引き裂いて、そこに幸せなど訪れるはずがないのに。
ティエリアが、お上の下に献上されて一年がたった。

酒をつぐティエリアの耳に、お上は意地悪そうにある日語ってやった。
「そうそう、お前の恋人であってニールといったか?正面からこの館に乗り込んできおってな。真に許せん。このお上にたてつくなど。余はまぁ、優しいからなぁ。死刑にするところを、流刑にしてやることにした」
「そうですか・・・その船は、いつ出発するのですか?昔の男の顔を見て、あざ笑ってやりたいのです」
「そうかそうか。船は妙後日に出る。息子のリジェネと一緒に、見てくるがよい」
「ありがたき幸せ・・・・お上、抱いてくださいまし」
ティエリアは、お上が自分に溺れているのを知っていた。そして、酒の中に眠り薬を混ぜてやった。
皇后となったティエリアは、権力も手に入れた。
「お上は疲れて眠っておられる。我が子、リジェネと共に、流刑になる者の始末を見にゆく。共は少数で」
すぐに、ティエリアと幼いリジェネは馬車に乗せられて、流刑になるニールの船の出港を待つこととなった。
そこで、ティエリアは隠しもっていた宝剣を引き抜き、リジェネの首にあてる。
「次代、お上の命が惜しければ、そこをどきなさい。私はいかねばなりません」
「皇后様が、乱心されたー!」
兵は、混乱に陥った。
皇后となったティエリアは、泣きわめくこともなく、自分にしっかりと抱きついたリジェネの首に鋭い宝剣の切っ先をあてて、兵たちを脅して、流刑になるニールの船に乗り込む。
そして、船を操るはずであったものを残して、兵士たちを陸にあがらせると、すぐに出航した。

「ニール、ニール!!」
「ティエ・・・リア?」
ニールは、見る影もないほどボロボロになっていた。瞳の光を奪われたのだろう。
手を彷徨わせて、姿を探すニールに、ティエリアは泣き崩れた。
「お母様?」
「リジェネ。良い子だから、ここで少し待っていてくださいね」
「はい」
ティエリアは、宝剣でニールの戒めを解くと、自分がきていた上着を着せてやった。
「ああ、本当にティエリアだ・・・・ティエリアの匂いがする・・・」
二人は、激しいキスを交わした。
「あなたに会いたくて、会いにきました・・・でも、きっとこれが、最後」
「ああ・・・・目が見えたらな。お上の皇后になったそうだな・・・・でも、俺は諦めない。お前を取り戻せた。やっと、やっと・・・・」
「はい。あなたに取り戻されにきました。愛しています」
二人は、長い間抱擁を続けそして船は当てもなく海を彷徨うが、すぐに衝撃がやってきた。
「お上の兵だー!」
船子の言葉に、二人は頷いた。
「さぁ、リジェネいらっしゃい」
「お母様?このお方は?」
「私の心から愛する人です。私の永遠の恋人」
「じゃあ、お父様は?」
「あなたのお父上は、この人から私を無理やり奪ったのです。どうか、リジェネ、あなたはそんなお上にはならないでください。良い子になってくださいね」
「お母様、どこにいくのですか!」
「私たちは、いかねばならないのです。ね、ニール」
「ああ。行かなきゃならないんだ」
二人は、しっかりと手を繋ぎあって、船の看板に出た。

空は高く、太陽は眩しかった。
蒼い蒼い空。
「あなたがくれた簪です・・・・分かりますか?」
「ああ・・・見えないけど、形で分かる」
「これをもらった時、本当に嬉しかった。涙が出ました。ずっとずっと大切にしていました。お上のものになった後も」
「そっか。ありがとな・・・・」
二人はまたキスをした。
長い長いキスを。

「チョコレート、また食べたい?」
「ああ、そうですね。実はもってるんです」
「おー」
「はい、あーん」
「あーん」
ニールに食べさせてやると、ティエリアも一口食べた。
ふわりと、口の中で溶ける甘い菓子。

「ねぇ。桜になりましょう。二人で」
「ああ。桜になろう・・・何度でも何度でも桜に。人を魅了する花だな、あれは。ティエリアによく似合っている」
「ニールにもよく似合ってますよ。桜の木の下に立ったあなたはとてもかっこよかったです」
「今は?」
「今も、これからもずっと、かっこいいです。私の永遠の恋人。愛する人。私だけのニール・・・・」
「俺だけのティエリア・・・・」
二人は、リジェネは見守っている中、もう一度抱擁すると、ティエリアは右目を宝剣で傷つけ、その血をニールに飲ませた。
「傷が・・・・目が、目が見える!」
ニールの目の前にいたのは、右目を再生させて、血にまみれながらも美しく、かわらない17歳の容姿で微笑むティエリアの姿だった。
「変わってないな」
「あなたも・・・・」
「そっか?はじめて会ったときから・・・もう、7年か。俺もふけただろうさ」
「それでも、変わりません。あなたは、永遠にニール、です」
「ああ。お前は、ティエリアだ。永遠に」

「そこまでだー!!」
お上の怒号が、近づいてくる船から聞こえた。


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