「であるからに、ここの答えは5だ」 数学教師のイアン先生の授業だった。 ハム仮面騒ぎが終わった後、ちゃんとした講師であるイアン先生がやってきて、自習のプリントの答えを、解き方を丁寧に説明しながら解説してくれた。 ちなみに、ハム仮面は今も屋上で裸で簀巻きにされて吊るされている。 「刹那、どうしたの?」 「いや、なんでもない」 「やっぱり、ハム仮面が気になる?」 ティエリアが尋ねると、刹那は目を逸らす。 いくらあんな変態とはいえ、一応は学校の教師だし、人間だ。まさか、あれで死んだりしないだろうなと、刹那は違うことを心配していた。 「もしもあれで死んだら・・・俺の将来は」 「大丈夫。その時は僕の両親の財力でもみ消すから」 にっこりと、かわいい顔で恐ろしいことをいうティエリアだった。 リジェネも、同じようなことを言う。 「そうそう。死んだら、ここの校長のせいにでもすればいいんだよ」 ズールズール。 ズールズール。 変な音が廊下から聞こえてきた。 イアン先生は、ガラリと扉をあけて、廊下を見る。 「おや、グラハム教諭じゃないか。尺取虫みたいにしてなんだ、それは何かのプレイか?」 「やあ、イアン教諭。そうです、これは愛のプレイ。愛だけで屋上からここまで這いずってきたのです。ははははは」 そのまま、ズールズールと、尺取虫となったハム仮面は教室に入ってきた。 「ち、やっぱり生きてたか」 最近の刹那は、考え方が物騒になっている。全部ハム仮面のせいだ。ハム仮面に会うことのなかった、同じ施設育ちのニールとライルは、刹那の幼少時を知っている。感情の起伏が少なく、滅多に笑うことのない子だったが、少なくとも普通だった。たまに見せてくれる笑顔が猛烈にかわいかった。ライルとニールは刹那と幼い頃からの友人だ。友人の性格が、この学園に入って音をたてて崩れていく。 全てはハム仮面の存在ゆえに。 「では、後の授業はグラハム先生に任せるか。もともと今日の担当はグラハム先生だったし」 イアン先生は、そういって戻ってしまった。 ハム仮面は、尺取虫の姿から起き上がると、マットレスをずらして、手をだすと、真面目に授業をはじめた。 「おい、ハム仮面ちょっと頭いかれたんじゃないか?真面目に授業してるぜ」 ライルが、兄のニールに耳打ちする。 アレルヤは、ナンマンダブとお経を唱えていた。 ハム仮面が一度として、真面目に授業をしたことはない。 なのに、今日は後半になるが、真面目にプリントの解説をしだした。 そうして、チャイムが鳴った。ちょうどプリントの最後まで解説し終わっハム仮面は、マットレスから出ると、いつの間に着ていたのか、この学校の男子生徒の夏服を再び着ていた。 「刹那・F・セイエイ君」 「はい」 「今日の授業は、次のプリントもする予定だった。遅れたのは、君のせいでもある。分かるね。私もはじけすぎたが。一緒に、生徒指導室まできてもらおう。反省文を書いてもらう」 「はい」 教師となったハム仮面に、抵抗はできない。 変態をとってしまえは、ハム仮面も一応は普通の教師なのだ。一応は。 内申書も大事な刹那は、どしようかと迷っていた。逃げ出したいところだが、他の教師にかわられると更にややこしいことになりそうだ。 「大丈夫、刹那、僕たちが生徒指導室の外で待機してるから!何かあったら、すぐに助け出すよ!」 アレルヤの言葉に、マイスター一同頷いた。 持つべき者は友だと、刹那は思った。 「では、座って。反省文を二枚。私も反省文を書かなければならない。毎日かいてるんだけどなぁ。ちゃんと読んでるのかなぁ、校長先生」 意外なハム仮面の実体に、刹那が少し笑った。 「その表情だ。君は、もっと表情豊かになるべきだ。まぁ、事情はいろいろあるかもしれないが、人間、笑顔を忘れてはいけない」 「はい・・・」 刹那は真面目に、ハム仮面と一緒に反省文を書いた。 ハム仮面の文章を見ると、実は高校卒業してなかったことを思い出したとか書いてあって、この教師首にならないかなとか、期待している刹那だった。 「っ」 「どうしたのだね」 「唇が、かわいて切れた」 血が滲んだ唇を、手の甲で擦ろうとして止められた。 「いかんいかん。未使用のリップをもっている。これでなんとかしなさい」 本当に未使用だった。 「後で、これつかっ間接キッスだとかしませんよね?」 「しないとも。ハム仮面を信用しなさい。なんなら、もって帰っていい」 とりあえず、乾いた唇がまた切れるといやなので、薬用リップを塗る。そのリップは持って変えることにした。 ハム仮面は、もしかしたら変態だけど、案外普通の人なのかも? そう刹那が思っていたとき、隙ができた。 「ムチュー!」 ハム仮面の唇がせまり、そして。 「!!!!」 刹那は顔を真っ赤にして、ハム仮面を投げ飛ばした。 NEXT |