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殺しはしない。
それが風のリラの盗賊団の基本であった。
すでにカール公国とイスマイール帝国は戦争をしており、罪もない国民たちも戦火に巻き込まれている。
「盗賊団だー!」
「きゃあああ」
「うわあああ!!」
すでに、国は周囲をイスマイール帝国の兵士に囲まれて逃げ場はない。神殿の聖職者たちは、それでもまさか神殿まで汚すような真似はしないだろうと誰もが信じていた。
だが、現れたのは盗賊団。
騎士団や兵士たちではない。
盗賊団に襲われたことにしてしまえば、神殿も帝国の皇帝を責めることなどできない。暴力になれぬ聖職者たちは、神の名を呟いて逃げ惑うだけだ。
逃げ惑う神官やシスター、巫女をかたっぱしから捕まえて、手足を縛って教会の一つの部屋に集めた。
「おい、神の巫女はどこだ?」
探し回っても、神の巫女はどの部屋にもいなかった。
ロックオンが剣の切っ先を神官長に向けると、彼はただ神の名を呟くばかりだった。
「きゃあああああ!!」
流石盗賊団とあって、行いは悪い。
早速集めた巫女やシスターを犯そうとしていく仲間に、ロックオンは何の表情も浮かべぬまま、もう一度神官長に剣を向けた。
「このままだと、巫女やシスターたちが全員目の前で犯されるぜ?いいのか?」
神官長は、ガクリとうなだれて、魔法を唱えた。
神殿の聖職者たちが使う魔法は癒しの魔法。人を傷つけるものはない。
ポウと、ロックオンの前に金色に光る鍵が現れた。
「この鍵で・・・・神殿の一番奥の扉を開けば、そこに神の巫女がいる。神の巫女をどうするつもりだ!」
「殺すのさ」
「な・・・・エリュシオンの歌声をもつ、奇跡の存在だぞ!神の子なんだぞ!それを殺すというのか」
「そうさ。お前ら全員殺せってほんとはいわれてるんだけどなぁ、まぁ殺しは趣味じゃないんだ。普通は女どもは犯して、奴隷として捕らえてうっぱらうんだけどな。まぁ、命があるだけめっけもんだろ。今回は、大金もらって高級娼婦と何日もいい夜を過ごしてるからな。無傷を約束してやるよ。そのかわり、これが嘘だったら、女たちは全員犯して奴隷としてうっぱらう。いいな?」
ギラリと、銀色の光がロックオンの目にも移っていた。
ぶるぶると震える女たちを盗賊団の仲間に命令して、一箇所に集めた。
飾っている宝石などは奪っていく。
「いいな。嘘だったら・・・・」
「嘘ではない。だが、会いにいくのはあなただけにしなさい。神の巫女、ティエリア様に会えるのは一日に一人だけ。その鍵をあける資格が、果たしてあなたにあるかどうか・・・」
「どういうことだ?」
眉を顰めるロックオンに、仲間が耳打ちする。
「神の巫女は会う者を選ぶんだそうだぜ」
「ふん、力づくでも会ってやるさ」
ロックオンは、剣を腰の鞘にしまうと、神殿の奥へ奥へと入っていく。
一番奥に、閉ざされた大きな扉が見えた。
神話のレリーフが施された扉の鍵には魔法がかかっているようで、力でおしても、剣で傷つけようとしてもびくともしなかった。
「だから、鍵か・・・・まるで、籠の中のカナリアじゃねーか」
この中に、神の巫女はいる。
人々の前に姿を現すのは1ヶ月に一度の神祭の時だけ。あとは、いつもこの部屋の奥にいるのだという。
鍵を穴にいれる。
カチャリと音がなる。
ロックオンは、扉をあけて中に入って息をのんだ。
扉の奥には、きっと広い部屋が広がっているのだろうと思っていた。
確かに、広かった。広すぎる。
そこは、空中庭園だった。
さわさわと風に揺れる緑。小鳥たちの歌う声。花畑と草原。
中央には噴水があり、浮かぶ小さな岩からも水がたえず零れ落ちていく。
「なんだこれ・・・・」
太陽が二つ、天空に浮かんでいた。
「夢でも見てるのか、俺は・・・・」
信じられない光景に、自分の頬をつねると、確かに痛みがした。
「らららら〜〜〜」
綺麗な綺麗な、とても美しい歌声がロックオンの耳を打った。
その歌声を聞いた瞬間、ロックオンは涙を流していた。
「なんだよこれ・・・・」
エリュシオンの歌声。神の楽園へと導くという、神の歌声。
神に愛された寵児。
「ららら〜〜〜」
さぁぁぁと、風が鳴る不思議な空中庭園の奥に、天蓋つきのベッドがあった。
歌声は、そこから聞こえてくる。
咲いている花を踏み潰して、近づいていく。
(だぁれ?)
ロックオンは、何重もの深いヴェールに覆われたベッドの中に、動く人影をみて足を止めた。何より、頭の中に直接声が響いてきて、彼はびっくりした。
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