エリュシオンの歌声B







(神官長ですか?それともシスター長のメリア?それとも巫女の誰か?イリアかな?昨日会いたいって聞いたから・・・・)
また、綺麗な歌声が聞こえてくる。

「らららら〜〜神よエリュシオンへの道を〜♪」

歌声と、頭に直接響いてくる声は同じだった。
「違う。俺は・・・ロックオン・ストラトス」
(?・・・・お客さん?)
いくつものヴェールを乱暴にかぎわけて、剣をその喉元につきつけると、その人物は不思議そうに首を傾げた。
(なぁに、これ?)
「剣だよ・・・見たことねぇのかよ」
(剣?ありません)
ふわりと微笑む姿は、とても美しかった。
神の巫女。
本当に、その通りだ。
紫紺の足元まである長い髪をいくつにも束ね、たくさんの装身具を飾りあげてもなお色褪せない美貌。

女神だ。

そう、これはまるで女神。
いや、天使か。
ティエリアの背にある大きな白い翼を見て、ロックオンは剣の切っ先を下げる。
「お前、こんなところに一人で住んでるのか?」
(そう。私はここで暮らしています。それが神の巫女の定め。外には月に一回しか出れません。ここは私を閉じ込めるための綺麗な籠なのです)
「お前・・・神殿の外にでたことは?」
(ありません。神祭も神殿の中で行われます。神殿から、出たことはありません。一度でいいから、本当の空と太陽を見てみたいです)
すっと、人工の空を見上げるティエリアは哀しそうな顔をしていた。
とても綺麗なのに、なんて哀しそうなんだろうか。

「なんで、しゃべらねーの?」
(禁じられているから。歌を歌う以外で、声を出してはいけないのです)
「それで、テレパシーみたいに直接相手の頭に話しかけるのかよ?」
(そうです。奇跡の力と人は呼びます)
「奇跡ねぇ」
ロックオンは、これから殺す相手、ティエリアと言葉を交わしてしまった。
その奇跡の歌声を聞いてしまった。

「なぁ、なんでその金色の目・・・さまよわせてるんだ?」
空を見ていたかと思うと、視線をさまよわせるティエリアに、ロックオンが首を傾げる。
(目が見えないから)
「はぁ?」
(この金色の瞳はものを見ません。魔法をとおして、第五感を通しておぼろけに色と形を教えてくれます。耳も聞こえません。言葉だけは・・・歌の形で、出すことを許されています。あなたの声も、魔法で直接脳にとりこんでいます)
「そんなんで、本当に神の巫女なのかよ?」
(はい・・・・あ、まって)
離れていくロックオンをおおうとして、ティエリアはベッドから転がり落ちた。
「おいおい、何してんだよ。一応魔法で視界はなんとかなるんだろ?)

ティエリアは、涙を浮かべて金色の瞳でロックオンの顔を見つめた。
(歩けないのです・・・・)
「マジかよ・・・」
これのどこか、神の巫女だというのか。
エリュシオンの歌声だけをもつ、綺麗なだけの人形のような天使だ。
声を出すこともできず、目も見えず、耳も聞こえず、あげくに自分の足で歩くこともできないなんて。
どこが、神に愛された寵児だというのか。見た目だけではないか。
(翼も・・・・飛ぶことが、できません。この体は欠陥だらけですね。でも嬉しい。僕を、連れ出すためにきてくれたのでしょう?)
頬を薔薇色に染めるティエリアに、ロックオンの胸が締め付けられた。

「俺は、お前を・・・・」
(はい、殺しにきたんですよね?でも、殺す前に外に連れて行ってくれようと思っているのでしょう?)
ロックオンは、言葉を失った。
「お前、死ぬこと怖くないのかよ」
(怖くありません。神の御許にいけるのですから。この呪縛から解放される。自分では死ねないのです。早く外に連れて行って、そして殺してください。もう生きていたくありません。カナリアのようにこの籠の中で囀ることしかできない僕は、もうこんな生活嫌です)

ロックオンは、気づくとティエリアの桜色の唇を自分の唇で塞いでいた。
(ん・・・・・)
甘い味。
バサリと、ティエリアの背中の翼が広がる。
ティエリアの足首には、金色の足かせがしており、それはベッドの柵に繋がっていた。長い金色の鎖。
それを見たロックオンは、剣を振りかざした。
この神の巫女は、本当にここに閉じ込められているのだ。籠の中のカナリアだ。

パキン。

金属的な音をたてて、ティエリアを縛っていた鎖がとれる。

(・・・・・・・・本当に、連れて行ってくれるの?)
ティエリアは、自分の鎖が断ち切られたことに、涙を流してロックオンにしがみついた。
背の白い翼は小さくなって、折りたたまれている。

「連れて行ってやるよ。外の世界に」
 


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