エリュシオンの歌声K







女神アルテナ、女神ウシャス、創造神ルシエードと一緒につくったこの世界。
人間のために、選ばれた人間か神の子、天使になれる世界も造った。それがこのエリュシオン。
楽園と人は呼ぶ。
騒ぎに遠くから、天使たちが集まってくる。
「アルテナ様、この人間たちは」
「いいのです。おいきなさい」
女神アルテナは、ティエリアを天使にした。
でも、このティエリアという天使は天使になりたくないという。
そんな人間ははじめてだ。今まで、このエリュシオンの扉をあけたり、生まれて魂に神格をもちこの地に誘われ、天使となった人間は全てこの女神アルテナに感謝をしていたのに。

「天使になんて・・・・誰が、なるもんか」
ふわふわと、ティエリアの背中の12枚の翼が溶けていく。
女神アルテナが与えた神の力をロックオンに与えるティエリア。

「ネイ・・・・これが、人の愛というものですか」
違う世界で生きるネイのことを思い出す。
ネイは、人の愛は無限だと言っていた。女神アルテナには想像もできないもの。
それが人の愛。

「あなたは天使ではなくなりました。エリュシオンにいる資格はありません。消えなさい」
「殺すなら、一緒に殺して。別れ別れになるのは嫌」
なんとか蘇生したロックオンを腕の中に抱いて、きっとティエリアは女神アルテナを睨んだ。

人の愛は無限だよ。

同じ世界を創造した女神ウシャスの言葉を思い出す。
ウシャスは人が好きだった。アルテナは好きではない。
創造神ルシエードも人は好きではない。

「あなたには分からないんだ。女神アルテナ。人の愛は、神の力なんて必要としない。人は人のままでいいんだ。天使になんて人はなりたいと願わない。だって、人は人だもの」
透明な、迷いのない金色の瞳。
こんな瞳をした神の子ははじめてみる。
そして、自分を否定した神の子も。

女神アルテナは、ざっと手を前に突き出した。
ティエリアは、目覚めたロックオンと、いくつか言葉を交わして、そして今エリュシオンの地にいるのだと分かって、ティエリアを庇うように後ろに匿う。
「女神か・・・・・悪いが、ティエリアはやれない」
「女神アルテナ。僕は天使にはならない。ロックオンは生贄ではない。ロックオンを生贄にして天使になって、何が僕に残るというの?愛した人を失って、幸せでいられるはずがない。あなたは間違っている」

「うるさい。人間が。消えろ」
女神アルテナは顔を歪めて、二人に魔法を放つ。
二人とも消してしまおうか。
でも、二人はお互いを抱きしめあってキスをして、とても幸せそうだった。
「消える時は一緒ですよ、ロックオン」
「ああ。足、治ったんだな。目も耳もちゃんと機能してるのか。良かった」
優しくティエリアを包み込むネイと同じ容姿を持った人間に、女神アルテナは白い光を向ける。
「消え・・・・ろ・・・・」
女神アルテナの放った魔法が、二人を包み込む。
それでも二人は幸せそうだった。
このエリュシオンにいるどの天使よりも。

ネイ。お前の言葉が分かる気がする。
ウシャス。お前の言葉が分かる気がする。

人間の愛は・・・・。
愛は、神など必要としないのだ。
そう、神の救いなど必要としてない。
それが、人間という存在。



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