エリュシオンの歌声L







ティエリアがエリュシオンの歌声を失ったことで、姉であるマリナにエリュシオンの歌声は宿った。
ティエリアの故郷であるカール公国はイスマイール帝国の手で滅ぼされてしまったけれど。
皇帝は、ティエリアの抹殺の中止を命令した。
皇帝とて、ティエリアの存在に全く愛おしさを感じなかったわけではない。
だが、マリナ姫を愛するあまりに、ティエリアを殺してでもマリナ姫にエリュシオンの歌声を継承させてやりたかった。
皇帝は、エリュシオンの歌声を失い、マリナ姫に全てを知って継承させたティエリアから手紙を受け取り、それを読んで涙を流したそうだ。
ティエリアは、こんな残酷な父でも愛していたのだ。

エリュシオンの歌声を失ったティエリアには、もう帰るべき場所などなかった。
イスマイール帝国は生まれた国であるが、今更皇族として復帰しても皇位継承権争いに巻き込まれるだけだ。

女神アルテナは、ティエリアとロックオンを殺さなかった。
ただ、エリュシオンの地から追放しただけ。
二人は互いの無事を喜んで、聖神殿から二人だけで、ロックオンの愛馬に乗ってまた旅立った。
もう、皇帝の追っ手はこない。
皇帝は、罪を償うつもりでティエリアを皇子として向かえるために、聖騎士をよこしたが、ティエリアはそれを蹴って盗賊であるロックオンを選んだ。

だって、愛しているから。

「ららら〜エリュシオンの地は神の歌声によって開かれる〜。でも天使になんてなりたくない、だって人間だもの〜♪」
ティエリアは、変わらず綺麗な声で歌う。
でも、もうその歌声にエリュシオンの歌声は宿っていない。
エリュシオンの歌声を失ったお陰で、体の欠陥は消えた。エリュシオンの歌声を持っているからこそ、神の子はその代償に目や耳がきかなくなる。ティエリアはその典型的な例だった。
「変わらず綺麗な声だな」
「あなたのためだけに歌う唄です」
そっと、後ろに跨るロックオンの柔らかな茶色の髪を撫でて、ティエリアはちゃんと見える瞳で蒼い空を見上げた。
「あなたは、盗賊をやめてしまったのですね」
「ああ・・・・もうあじとにはかえれねーな」
盗賊の頭をやめてしまったロックオンと、エリュシオンの歌声を失い、神の巫女の資格を失ったティエリア。

出会いは最悪だった。
ロックオンはティエリアを殺すために、神殿から連れ去ったのだ。
でもティエリアの美しさと儚さに捕らえられたのはロックオンのほうだった。

「さて、これからどうするかなぁ」
黒い愛馬のクロウを走らせて、二人でクスクスと笑って、泉があることろまでくると、馬を休ませるために下りた。
「ほら」
「大丈夫、一人で降りれますよ」
「だめだろ」
「わっ」
ずっと歩いたことのないティエリアの足は筋肉がついていないため、まだ歩くには十分ではない。
ロックオンに以前のように抱き上げられて、ティエリアはその背中に手を回す。

「エリュシオンで・・・ずっと、お前の声を聞いていた。ありがとな。こんな俺を選んでくれて。お前は天使になれたのに・・・女神アルテナにたてつくなんて、ほんと命知らずだなぁ」
「だって。僕は、天使になんてなりたくなかった。愛する者を、ロックオンを生贄に捧げて天使になんてなれない。それに、天使なんてただ長い時を生きるだけで魅力なんてちっともないよ。人間として、短いけれど精一杯生きるからこそ素晴らしいんだ」
ロックオンは、ティエリアを包み込んで、優しくキスを落とす。
「これからどうする?一応、銀行に預けた2億リラ金貨があるけど・・・・」
「じゃあ、そのお金を少しだけおろして、旅にでましょう。僕を、海の向こう側につれてってくれると以前いっていましたね。あなたは琴が弾けるとか。僕は歌を歌います。二人で一人の吟遊詩人として、世界をあてもなく旅するなんてどうでしょう」
「お、いいな」

ロックオンな、ティエリアを地面に下ろすと、咲いていた花を髪に飾った。
「隣の国にいこう。クロウ、馬も一緒に・・・隣の大陸から旅をしよう!」
「はい!」


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