浮遊大陸エアードに向かって出発する。 ティエリア、ロックオン、それにフェンリルと居候のリエットと帝国騎士のウエマも一緒に。リエットは皇帝の姉姫であり、今回のことでブラッド帝国とセラフィス皇国が揉めないようにとのことでの参加となった。二つの国は交易が盛んである。 セラフィスの作り出す宝石細工や剣は、ブラッド帝国の貴族なら喉から手を出しても欲しがるような一品である。いくつか所持していて当たり前というのが、貴族の嗜みにもなっていた。 ブラッド帝国は変わりに、同じ国の民である人間と共同で作る農作物や放牧の家畜などの肉や毛皮、食料や衣類などを提供している。 「当時の表の皇帝の元セラフィスの姫であった者のあまりの美しさに酔いしれてか・・・・ああ情けない。情けなくて泣けてくるぜ・・・・うわーーーん」 リエットは、エーアド大陸と地上を行き来する浮遊船の中で、あまりのネイの情けなさに鼻水を垂れて泣き出して、そしてロックオンの服で鼻水をかんでお決まりの如く鼻くそをほじってそれをつけてやった。 「ああ、この服気に入ってるのに!鼻くそつけるな!」 「うっさいわ!てめぇのせいで、もしも帝国と交易が破綻にでもなったら、てめぇ漬物にして、ぬかみそにつけまくってやる!」 「エロックオンの漬物なんて食いたくないのにゃん」 フェンリルは、おえーっと、まずそうな顔をしていた。 「まぁ・・・・僕もロックオンの漬物は食べたくありません」 「ああ、ティエリアまで!」 「この節操なし!セラフィスの姫にまで手を出そうだなんて、なんて破廉恥なんでしょう!恥というものを少しは知ってください!」 「いや、当時は酒に寄ってて」 「言語同断です!」 「ちなみに・・・・ネイ殿は、200年ほど前に、姫はまだかとセラフィス皇国に来て父上に迫ったそうです。ダメならお前の妻よこせー、人妻燃えるぜうへへへとか言っていたそうで。それも大水晶に記録されています」 ムーンリル皇子は、油に火を注ぐような真似をしてくれた。 「オーマイガッ!200年前の俺のバカ!確かにあの頃はセラフィスの姫君に憧れてたなぁ。知り合いのエルフが、セラフィスの貴族の姫君と恋仲になって結婚しちまって・・・・その子がめちゃ好みで。あああ、ティエリア、ティエリア、暴力反対!!」 ティエリアは、バキボキと骨を鳴らしてから、ロックオンを拳で殴った。 綺麗に吹き飛んだロックオンを、フェンリルが炎のブレスを吐いて髪の毛をアフロにした。 「信じられない!何が、僕にしか今まで愛を囁いていないですか!今まで何十人の恋人だっていう女性が現れたことか・・・色魔!」 「色魔ーだにゃ!近寄るにゃ!色魔がうつるにゃ!」 「フェンリル、こんなバカほっといて、浮遊船に乗るなんて滅多にできない体験だから、デートしましょう」 「はいだにゃーんvvV」 ティエリアはロックオンを放り出して、フェンリルを頭に乗せて去ってしまった。 「うらうらうら」 リエットはロックオンの股間を蹴り上げて、帝国騎士のウエマと同じように去ってしまった。 「ううう、ぐすぐす」 情けないロックオン。いつもの飄々としたかんじも、ここまでくるとただ情けない色魔だ。 一頻、一人でいじけた後、ロックオンはネイの表情になる。 「で、本当は何の用できた、ムーンリル・レド・エルファナ・ラトナ少年皇帝」 「約200年ぶりになりますね。ネイ殿」 ムーンリル皇子は、皇子ではなく皇帝であった。 少年皇帝。それが彼の通り名。少年の姿のまま成長が止まった皇帝。セラフィスやフォーリングも、エルフと違って、エレメンスやエターナルヴァンパイアのように一定の年齢で成長が止まり、不老だ。エルフも不老に思われがちだが、エルフはゆっくりと年老いて、最後は40〜50歳ぐらいの年齢で他界する。老人の域まで年老いるのは、種族の中でもごく一部の、エンシェントエルフの血を引くものだけだ。 「この度は・・・・・大水晶に記録されていた盟約など、最初から古代の皇帝が勝手に交わした盟約。そんなもの、守るに値しません。確かに盟約は命と等価ではありますが、それは守るに値するものだけに限られる。あなたはふざけて盟約ではなく、密約を交わされた。盟約ではない。一族は、我が妹ムーンリラの婚礼を進めています。相手はブラッド帝国出身の皇族で、半年前にやってきました。ここ数ヶ月の間に何人かのセラフィスが血を吸われ死亡しています。本来なら自分たちの一族の力でなんとかすべきなのですが・・・・。我らは風の庇護を受けているとはいっても、皇族のエターナルは再生力が半端ではない。何度追放しても、我が皇国に侵入し・・・・妹のムーンリラを娶れば、殺戮を止めると盟約を交わしたのです。私と。その盟約を破れば相手は死にます。呪いの盟約を交わしました」 「そのエターナルの名前は?」 「ネイと、名乗っております。上手く化けて・・・ネイ殿、大水晶に記憶された貴方の容姿にそっくりだ」 「ち。俺の名を語ってるのか」 「ですから、民を殺されても皆何もいえず・・・・私自らが兵士と討伐に出ましたが、相手は偽の「エーテルイータ」を持っており、私は死の境を彷徨い・・・・。妹を犠牲にすることで、あの悪魔を殺せるなら本望なのでしょうが。でも、私は妹を失いたくありません。あんな悪魔に捧げたくありません。どうか、お力をおかしください。ネイ殿」 ムーンリル少年皇帝は、ロックオンに跪いた。 「立て、仮にもお前も一族の皇帝だろう」 「私たち種族は、風の庇護を受けています。魔力は高いですが、戦闘には向いていないのです。どうか、お力をおかしください」 「偽のエーテルイーターを持っているだと。面白いじゃないか。ムーンリル、ネイの名にかけて盟約しよう。その偽者は俺が殺す」 「ありがとうございます、ネイ殿」 ムーンリルは、ロックオンに抱きついた。柔らかい肢体。花の良い香りがして、目を潤ませた少年皇帝が両性具有であることは知っているのだが、両性具有は美しすぎる。ずっと一人で戦ってきたのだろう。皇帝は、ロックオンの腕の中で安堵して泣いてしまった。 「・・・・・・ネイ殿」 桜色の唇が、名前を呼ぶ。そして、ロックオンの唇にキスをしてきた。 ロックオンは、相手は両性具有だし、まぁいいか・・・とキスを受けたのだが。 その場面を、しかとティエリアとフェンリルに見られてしまった。 「あーなーたーはー。ついに少年にまで・・・・この節操なしいいい」 「あぎゃあああああああああああ!!」 凄まじいロックオンの悲鳴が浮遊船中に木霊した。 NEXT |