血と聖水ウィンド「絡み合う想い」







空間転移をしたその寄生型ヴァンパイアヴェルゴールは、再び空間転移を繰り返してブラッド帝国に戻り、そして主の下に帰った。
「ご苦労・・・・さぁて、面白くなってきましたな」
ブラッドイフリールの自治区まで、自分の翼で飛んで、王宮に許可もなく浸入すると、王の私室に入り、王に体内から取り出した神をも殺す聖剣ユグドラシルの聖剣を渡す。
「下がってよい」
「はい・・・・」
ヴェルゴールは、そのまま姿を闇にくらませる。
王の血族にするという条件で雇ったヴェルゴールだ。ヴァンパイアは金で動かない。高位の血に憧れる気高い存在だ。
実際に、今後も使えるだろうと思い、血族した。永遠の愛の血族ではなく、支配する血族。それでも、ヴェルゴールのように寄生型のヴァンパイアは多種族に寄生するだけで、誰かの血族になれるなんてことは、その種族の特徴から他の種族に忌み嫌われているためないのだ。
支配の血族でも、ヴェルゴールにとっては価値あるものなのだ。それが王族とくれば、同じ王族となったがごとき血と力と寿命は手に入る。
ヴェルゴールは特殊ゆえに、支配されるといっても、完全に支配できるかどうかは分からない。
フレイムロードの王カシナート・ル・フレイムロードはワイングラスに濃厚な真紅の血のようなワインを注ぐ。
「神を殺す聖剣か。使いこなすために、わざわざ利き腕を移植したのは正解だったな」
セラフィス一族に伝わるユグドラシルの聖剣はセラフィスにしか使いこなせないとされている。セラフィスか、それより上位の高次元存在のみが使える聖剣。
きっぱりと女の腕とわかる綺麗な右腕を撫でるカシナート。
セラフィス皇国から拉致した皇女、ムーンリル皇帝の婚約者で従姉妹にあたるムーンマリー皇女を甘言で帝国に招きいれ、その右腕を自分の右腕に移植した。
ムーンマリー皇女は放浪癖があるため、誰もカシナート王の下にいるなんて気づいていないだろう。
また、何処かの国を自由気ままに旅していると一族の誰もが思っていた。皇女はいつも普通の身なりで翼をかくし、人間に紛れ込むために襲われるなんてことまずないだろう。それに、騎士をつれるのでは一人旅にならない。
「ああ・・・・・ムーンマリー皇女。そのように睨まないでおくれ。美しい顔が台無しだよ。我が新しき妻よ。本当ならムーンリル皇帝を妻にしたかったが・・・いかせんセラフィス皇国の皇帝。いなくなると一大事だからなぁ」
ムーンマリーは、夫となり永遠の愛の血族のマスターであるカシナート王を睨んで、注がれたワインを床にぶちまけた。
「私を愛していたのは形だけ。その手が欲しくて血族にするなんて。ええ、その手があれば聖剣はふりまわるでしょうよ。これでも私は、セラフィスの皇女であったのだから」
ムーンリーザは、再生された手を見る。
美しいムーンマリーには、背にセラフィスの名残であった白い翼があった。
「もう、私は国には戻れない。セラフィスではないんですもの」
まるで、ヴァンパイアの永遠の愛の血族にされたことを悔やむかのように、白いドレスの裾をぐしゃぐしゃに握り締めて、紅色の唇を噛み締める。
「カシナート。あなたはあなたで好きにすればいいわ。私も私で好きにさせてもらうから。少なくとも、この国はセラフィス皇国より潤っている。贅沢し放題。それだけは許せるわ」
綺麗な高級の宝石ばかりをまとうムーンマリーは、消費癖があるとしてセラフィス皇族の中でも厄介者だった。完全なる異種族のカシナート王の求愛を受け入れたのも、半ば一族に対するあてつけのようなもの。

去っていったムーンマリー王妃に、カシナートは笑い声をあげてから、ワインの中身を空にした。
「さて・・・・・客人よ。ワインはいかがかね?わたくしの顔を見るのもいやかな?」
ブラッド帝国の皇帝メザーリアの姉姫は、カシナートの向かいのソファーに座ると、自分でワイングラスに真紅のワインを注いで飲み干した。
「俺は、お前と同盟を組むつもりはない」
「では、何故ここを訪れられた?リエット皇女よ」
「自分で呼んでおきながらその言い草か」
「はて。わたくしは記憶にございませんなぁ」
「けっ。だからてめぇは虫がすかねぇ」
リエットはドカリと、足をテーブルに乗せる。
「このことをネイ様に報告されるかね?」
「別に・・・・。俺はネイの忠実な家臣、あくまで表向きは。ネイとティエリアと一緒にいるのは楽しい。お前といるのは楽しくない。だからといって、俺はネイに全ての忠誠を誓ったわけじゃねぇ。お前が何を企んでいるかくらいネイも知ってるだろうさ。俺はあくまで」
「女神よ」
カシナート王は、リエットの顎を掴んで上向かせる。キスをした。
「女神は、何を考えている?あの箱庭のような空間で。創造の女神アルテナは」
「は・・・・男にキスされた。きもちわりぃ。俺を、その名で呼ぶな。俺は、リエット・ルシエルドだ」
リエットは、カシナートを足蹴りすると、ワイングラスを床に叩きわった。

「呼ぶ・・・な。エーテルイーターで喰われたいか、貴様」
キュイイインと、ハイプリーストであるリエットの白い天使のような翼が鈍い音をたてた。
神のみに与えられる力、エーテルイーター。もしくは神に等しいものに与えられる力。
女神アルテナ・・・・創造の3柱神の一人でもある彼女は、動き出した。
「怖い怖い」
「ふん・・・・・」
リエットは、空間の扉を開いて神の庭に出た。
「ウシャスか・・・・・」
待っていたのは、創造の母とよばれる女神ウシャス。
「アルテナ。何をしようというのですか。そのようなヴァンパイアの姫に身を託して」
「何をするのも俺の自由だろうよ。ウシャス。お前はこのままでいいのか。このまま、滅びていくのを黙って待っているのか」
「アルテナ。猶予はまだあります」
「猶予だと!創造の神が滅びてどうする!あの滅びの未来と共に滅びてしまえば、再生さえできないではないか!」
彼女は激怒して叫んだ。
「全ては決まったわけではありません。未来は変革できる」
「三人で三人とも同じ未来をみてか!俺はウシャス、お前のように傍観者ではいたくない。ルシエードのように、滅びの未来がくる前に世界を壊そうとも思わない」
リエット、いやそこに在る女神アルテナはウシャスの頬を叩き、乱暴にウシャスを神の玉座に投げ飛ばしてから、天宮回廊を進んで、ルシエードの白亜宮殿に入る。
「ルシエード」
「アルテナ・・・・・・」
女神アルテナは、ルシエードと対峙して叫んだ。

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