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「ちい」
刹那がビームサーベルで剣を弾くが、凄まじい猛攻だった。
「ブラッディイーター、いけ!」
リジェネのブラッディイーターは、ブラディカの胴に噛み付いて、血を啜るが、血に逆に飲み込まれた。
「くそ、戻れ!!なんだこいつ、普通じゃない!?」
「ルシエード、あんたこいつに力与えたな!?」
ルシフェールの叫びに、ニヤリと口の端だけを吊り上げる神。
「無よ、飲み込め!」
アクラシエルは、躊躇いもなく父に向かって牙をむき出した。
「ゼロエリダ・・・・昔は大人しくていい子だったのに。ネイを殺せば、元に戻るか?」
ルシエードがその気になれば、ネイも殺されるかもしれない。
「ふざんけんなよ」
キュイイイイン。
ネイのエーテルイーターが覚醒する。
白い6枚の翼は、牙となってルシエードのエーテルイーターに攻撃する。
エーテルイーターVSエーテルイーター。
ロックオンの体を離れたエーテルイーターは、同じくルシエードの体を離れたエーテルイーターと何度も噛みつきあい、牙をぶつけあい、体をぶつけあう。
「主、これは壊してしまっていいのか?」
「好きに、しろ」
ネイのエーテルイーターに次第に罅が入っていく。
ブラディカの血の剣が、ティエリアの銀の弾丸をよけて、ティエリアの首筋をとらえ、うっすらと血が流れる。
「ロックオン!」
「ティエリア!」
光の中、差し伸べられた手を、私は握った。
躊躇いもなく。
光の中、向けられた笑顔に、私は微笑んだ。
夜明け前の綺麗な空の色。そういわれて、黒い翼が好きになった。これはフォールダウンした証ではなく、私が私になった証。私である証拠。
ルシエードは真っ白になった世界で、声を聞いた。
「もうやめてください」
それは、間違いなくゼロエリダの声だった。
「ゼロエリダ。どこだ!!」
「あの子は私ではありません。私は、世界樹と一緒に眠っています。世界樹と共にあなたを見守っています」
「ゼロエリダ!!!」
真っ白ななった世界は、すぐに暗転する。
「きゃ・・・はははは!!やった、ルシエードを殺した!!これで、私が神になれる!!」
ブラディカは、不完全なエーテルイーターで自分に力を与えたルシエードを刺し貫いていた。
「なんてことを・・・」
「うわ・・・」
刹那もリジェネも動けない。
ティエリアは、喉をかききられて、ゆっくりを傷を再生しながら傷口を押さえて蹲っている。
ロックオンは、ティエリアに血を分け与えている。
ルシフェールはアクラシエルを後ろに匿い、血の剣を構えて動かない。
「か・・はっ」
ルシエードは血を吐いた。
でも、次の瞬間にはブラディカの頭を胴から素手でもぎ取り、その体を魔力で粉々に引き裂いていた。
「・・・・・・・お父様?」
「だめだ、いくなや!連れていかれるで!!」
「ゼロ・・・エリダ・・・・」
ルシエードは、ゆっくりと手をアクラシエルに向ける。
その手を、アクラシエルは無の力で吹き飛ばした。
ルシエードは笑った。
「ははははははは。ネイ、お前は全てを奪っていく。ネイ、愛しい俺の弟よ。フォーリシュの、屑の中の屑よ。天界から唯一落とされた邪神よ」
「エーテルイーター100%起動臨界点突破、120%、140%!」
罅の入っていたネイのエーテルイーターが、ルシエードのエーテルイータの核に噛み付いた。
「あ、主!回復を!!」
意識をもつルシエードのエーテルイーターはルシエードの背に戻り、ただの翼となった。
「また、会おう」
ルシエードは空間を開いて、神の庭に戻る。そして空間を異様に捻じ曲げて、こちらから追っていけないようにした。
「私は、ゼロエリダじゃない。でも、どうして?あなたなら、いらなくなった私を殺すはず。何故?」
アクラシエルは、ルシフェールに引き止められながら、去っていったルシエードの姿をいつまでも探すように視線を彷徨わせていた。
「ティエリア、大丈夫か?」
「はい、もう大丈夫です」
「おのれ・・・ルシエード・・・・私は、このままで死ぬものか」
ボロボロの体で再生を続けるブラディカに、みなぞっとなった。
執念だけで生きている。そんなかんじだった。エーテルイーターを発動させるブラディカ。
「血と聖水の名において、アーメン!ロックオン!」
「はいよ!」
ロックオンは血の渦となり、ティエリアのビームサーベルのまといつく。
「いけよ」
「いっけええ」
刹那とリジェネが、血を飛ばして、更にロックオンという水銀を含んだ凶器に力を与える。
「マグヌールエクソシズム」
ルシフェールは、退魔の呪文を詠唱し、大地に円陣を描くとブラディカを聖なる力で焼いて、不完全なエーテルイータを先に殺した。
「あああ、ぐああああ」
「アクラ!フェンリル!」
「ホワイトブレス!!」
ブラディカの体が、フェンリルのブレスで凍りつく。
「了解した、主。デル、イール、アデネ。我は無、無は力となり全てを飲み込まん!」
ティエリアが投げたビームサーベルは、アクラシエルの無の力を宿して、ブラディカのコアを刺し貫いた。瞬間、ロックオンの血の水銀がブラディカの内部、命の源である血を焼きつくす。
そして、空間が捻じ曲がった。
ブラディカの体は、完全に真っ二つに引き裂かれ、体に宿っていたブラディデカの血は無の力によって消滅し、干からびたミイラのような死体が残り、さらりと灰になっていった。
ロックオンはすぐに元に戻ると、その頭によっこらせとフェンリルがよじ登る。
「おい、うんこすんなよ」
「しないにゃ。おしっこは?」
「だめにきまってるだろ!!」
「けちだにゃ!!」
「あほ、そういうもんはトイレでしなさい!!」
「にゃ〜〜ん」
「なぁ。アクラ、どうしてルシエードに一瞬ひかれた?」
「それは・・・・・分からない」
アクラシエルは、本当に分からないようだった。
「まぁいいわ。今度からきいつけや。守るって約束したんやから」
「うん」
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神の庭にで、傷を再生させたルシエードは、唇の端から流れ出た血を拭き取る。
「こんな傷で・・・・なぁ、エーテルイーター。私の命は、この世界を壊すまでもつだろうか」
「もつと、思われます。ゼロエリダ様は、世界樹で見守っていると」
「では、あの子はなんだったんだ。あのゼロエリダは」
「それは・・・・なんとも言い切れませぬ」
「アクラシエル・・・か。ゼロエリダ。お前まで、私を捨てるのだな。ウシャスも私を捨てた。母であった天帝エルガも。皆・・・・私を捨てる。いらぬよ、こんな世界など。私の命と一緒に燃え尽きてしまえ」
ルシエードは、ワールドエンドの魔剣を玉座の前に突き刺すと、眠りについた。
あの子は、いつの間にか白い翼が黒くなった。
そして、アクラシエルと名乗るようになった。ゼロエリダであることを否定した。
私が与えた全てを否定した。愛していたのに。その愛では不満だったのだろう。
「夜明け前の空の色の翼・・・・か。綺麗な色だな。黒は。私のこの真紅の翼のように血にまみれていない」
12枚の真紅の翼を広げて、ルシエードは眠ろうとして、侵入者に気づいて目をあける。
「殺気立っている。早急に立ち去れ。カシナート・ル・フレイムロード」
「これはこれは。神であるあなた様が、傷をつけられるとは。あのエゼキアルもどきは手駒としてはいけまんでしたな。新しいのを用意します」
「勝手に、しろ」
光の中、手を差し伸べた。
でも、アクラシエルは私の手を握らず、ルシフェールという手駒となるはずだったヴァンパイアの手を握った。
ルシエードは眠りについた。
ゼロエリダと愛し合った昔の夢を見るために。
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