ルシエードは神の庭、白亜の天宮の玉座で眠ったまま目覚めない。 何日経っただろうか。 ふと、ルシエードが目をあけると、水色の髪と瞳の少女が目の前に立っていた。 「ウシャス・・・・俺を捨てて、満足か?」 「あなたとは、歩けないのです。そう、皆私があなたに捨てられたという。でも、真実は一つ。どちらが真実なのでしょうね。決別を決めた時は、私もあなたも共に歩めないと同じ答えを出しました。でも、これだけは伝えておきたい。私はあなたの子を身篭り、産みました」 「子供、を?」 ルシエードは目を見開いた。 そんなこと、聞いたこともない。 気づかなかったのではない。ウシャスが、ルシエードには分からないよう記憶を操作しておいたのだ。 愛する人の記憶をいじってまで、産んだ子供。 「子供の、名は」 「セエレ。純粋な神族同士の間に神が産まれる確立はあまりにも低い。神になりきれなかった子。ヴァンパイアでした。ホワイティーネイという、ヴァンパイアの希少亜種。神の力を宿す者」 「今更、そんなことを教えてなんになるというのだ」 「私の子は、ヴァンパイアとして生き、そして妻をめとり子をもうけ、孫までいます。その孫が、あなたのゼロエリダを今守っています。これは私の意志でもあります。アクラシエルを、あなたから守る」 「ゼロエリダをたぶらかしたのはお前か」 「そうです。でも、あの子はゼロエリダではありません。ゼロエリダとあなたの子、名はアクラシエルと私が命名しました。そして、全てを話したとき、それを理解したあの子はフォールダウンして純白の翼が黒くなってしまった。話さなければ、よかったのかもしれません。でも、いつか気づくでしょう。聡い子ですから」 「ゼロエリダは・・・・世界樹の中にいると思うか?」 「あなたのさすゼロエリダは二人いる。アクラシエルと、本当のゼロエリダと。本当のゼロエリダは、世界樹の中にいるのかもしれませんね。ゼロエリダは世界樹が好きだった。でも、この世界にはもう存在しません」 「そんな・・・・思念体で、いつまでいるつもりだ。お前なら、体を再生できるだろう。純粋なる神族の死は魂の死。肉体の死ではない」 「このほうが、いいのですよ。世界に、優しい。私たち神族、天界から降りてきた神々は世界をつくり、そして見守り・・・・寄生、している。世界の命を吸い取って、永遠を生きているのです。思念体ならそれはありません。私はもう、世界の命を吸い取りたくなかったのです」 「奇麗事ばかりを・・・・」 「そうですね。綺麗事ばかり並べています。でも、安心しました。あなたはアクラシエルを殺さなかった。ゼロエリダに戻ることを拒否したあの子を」 「殺そうと思った。でも、できなかった」 「それが、愛なのですよ。あなたはあの子を愛していた。ゼロエリダとしてだけでなく」 「愛・・・どうでもいい」 「かわいそうなルシエード。純粋な神族でありながら、天帝エルガの子でありながら、ネイと似た存在」 「似てなどいない」 「そうでしょうか。そうかもしれませんね」 ウシャスはふわりと体を宙に浮かべて、消えた。 自分の天宮に帰ったのだ。 神は寿命がない。でも、死が訪れないわけではない。傷つけば死ぬし、病にもなる。 ルシエードは血を吐いた。 その血を浴びた床から、若木の芽が出てくる。 創造の神の血。創造のためにあるだけの存在。 もう、飽きた。世界を壊して天界に戻り、天界でこの病と共に消えるのもいい。ネイに殺されるなら、それもまたそれが運命だろう。 *********************** ティエリアは咳き込んだ。 そして、血を吐いた。 「おい、大丈夫かよ、ティエリア!!」 「はい・・・・なんだろう。誰かと、今シンクロしました。病気じゃありません。凄く哀しい感情が流れ込んできて・・・もう全てに絶望して。誰かに自分の運命を決めて欲しい・・・・そう思いました」 「なんだそりゃ?」 「どけどけー!」 ロックオンは、リジェネに踏みつけられた。むぎゅって。 「ティエリア、大丈夫!?流行り病じゃないよね!ああ、血を吐くなんて!!」 刹那はビームサーベルをしまって、リジェネに冷たい声を浴びせる。 「吐血くらい、調子の悪い時俺らもするだろう。心配しすぎだ」 「うるさい刹那!僕らとティエリアは出来が違うんだよ!ティエリアは繊細なんだから!!」 リジェネがかばんからあれこれととりだして、薬を手にとる。 「これ、吐血した時の発作の時の薬。僕もたまになるから。ほら飲んで飲んで」 ほとんど無理やりの形で、薬をほぼ全部飲まされた。 「うえー、にがーい」 「我慢!」 「うわーん」 刹那の背に隠れるティエリア。 リジェネは違う薬の瓶を取り出して、その中身もティエリアに飲ませようとしている。 それも苦い薬なので、ティエリアは刹那を盾に首を振る。 「平気だから!飲まなくても平気だから!」 「そんな、また血を吐いたらどうするの!」 「だって、僕たち血が全てなんだし。調子悪い時、体の中のダメな部分を血にして吐くじゃない。風邪なんか引くと、ウィルスの塊を血と一緒に吐いたり・・・自然だよ。ヴァンパイアには」 「いいから飲みなさい!」 「どれどれ・・・僕も飲んでみるにゃ」 フェンリルが、リジェネから薬を受け取って噛み砕いて飲んだ。 顔が、白から蒼、黄色、赤になって最後は黒になった。 「これ・・・・・・こうもりの、金玉、入ってるにゃ?」 「え、なんで知ってるの」 「おえええええええええ」 わざわざ、ロックオンの足元にきて、フェンリルは薬を苦しげに吐き出した。 「ちょ、フェンリル、こうもりの金玉なんて食べたことあるの!?」 「こうもりおいしいにゃ。でも金玉はまずいにゃ・・・・」 こうもりを食べる精霊フェンリルっていったい。みんな思った。 「トナカイの金玉はけっこういけるぜ?桃の味なんだ」 「「「「はぁ?」」」」 ティエリア、リジェネ、刹那、フェンリルがロックオンの言葉に正気かと顔を見る。 「いや・・・さ。昔、魔女の彼女によくトナカイの金玉、精力がつくからって食わせられて・・・・こうばしくて、けっこう、おいし・・・・ティ、ティエリア、暴力反対!!」 「魔女の彼女?彼女?リジェネ、その薬かして!」 「はい」 「もがががががーー!!」 ロックオンの口をあけて、薬を全部放り込んで無理やり飲ませるティエリア。 鬼だ。 嫉妬に狂った鬼がここにいる。 「ほら〜、あないな風に嫉妬してや。アクラ」 「無理。やだ」 「ちょ、即効かい」 ロックオンは薬を飲んで、ケロリとしていた。 でも、顔が白から黄色、赤、青、緑になって最後は黒くなって、そして橙色になって顔をしかめる。 「すっぱい!!梅干の味!!」 「ロックオンは、味覚が変にゃ。まずかったにゃ。苦かったにゃ」 「いや、すっぱい!!」 「苦いのにゃ!」 「すっぱい!!」 「苦いのにゃ!!」 「スパイ!」 「苦いのにゃ」 「スパイ!!」 「ロックオン、スパイになってますよ。すっぱいになってません」 一同は、すっぱいすっぱいと繰り返すロックオンを放置して、それぞれ使い魔を呼び出すと、敵地の館を後にした。 NEXT |