海からあがったティエリアは、ロックオンの姿を探す。 ロックオンは、女の子に囲まれてでれでれしていた。 とたんに、ティエリアの周囲の温度がマイナスにまで下がった。 「うおおお、さぶ!」 周囲を横切った人が、あまりの寒さに身を震わせて逃げていく。 ティエリアの意識に同調して、戻ってきた氷の精霊アイシクルが、ご丁寧に周りの温度を魔法で下げているのだ。 「主、冷気はこれくらいでいいですか?」 「ああ、アイシクル・・・戻っていいよ」 「了解」 バキボキと骨を鳴らして、ティエリアはロックオンに近づく。 すでに、ロックオンの周囲にいた女子は皆、ティエリアのあまりの迫力に逃げ出した後だ。 「ちょ、ティエリア、は、話せば分かる!暴力反対!!」 「ええ、話せば・・・・拳で話しましょうね」 にーっこり。 天使のように微笑んで、まずは華麗にアッパーを決めた。 吹き飛んだロックオンの着ていたパーカーの胸倉を掴み挙げて、にこりと微笑んだまま、ティエリアは目にも止まらぬ速さで、ロックオンの頬をビシバシと往復連打しだした。 「おお、あれはティエリアの秘儀、100往復ビンタ!!」 リジェネが、遠くからビシバシと頬を叩かれるロックオンを見ている。 「止めなくていいのか?」 刹那が、もらった真珠を太陽の光に透かしながら声をかけるが、リジェネは悪魔のように悪戯っぽく笑った。 「いい気味だよ、ロックオン。あれくらうと、ダメージ凄いからね。ティエリアも相当お冠のようだ」 「まぁ、恋人がいくら南の島とはいえ、浮気をしていたら、普通は怒るだろう」 「怒り方が半端じゃないからねぇ」 血を砂浜に吸い込ませながらも、なおも往復連打を受けるロックオン。 「あれ、100回こえてるね。200回かな」 「200でも300でも、いいんじゃないのか」 「そうそう、かわいい恋人の嫉妬だぜあれは」 売り物を売り切って、バイトを切り上げてきたリエットが、けらけらと笑った。 「ちょ、助け・・・おぶ!」 スパパパパパン!! 往復ビンタにまた見舞われて、ロックオンの声は途中で変な悲鳴に変わる。 「おーおー、そこでびでぶ!っていってはじけろよロックオン!ヒコウつかれたってことでさぁ!お前はもう、死んでいる!!」 リエットが叫ぶと、ロックオンはティエリアに往復ビンタをくらいながらも、声をだす。 「びでぶ!あべし!!」 「のりいいな・・・・」 リエットはげらげらと笑った。 ズールズール。 屍とかしたロックオンの足を引きずって、ティエリアは海に向かう。 「フェンリル、おいで〜」 「はいにゃーん」 フェンリルはサーフィンをやめて、スタタタっとティエリアのもとにくると、きらんと牙を煌かせた。 「分かってるにゃん主、皆まで言うな、だにゃ。にゃ〜〜〜」 ジャキンと牙を尖らせて、ロックオンの顔を縦横斜めに引っ掻いたあげく、頭をがじがじかじる。 「いってええええ」 「フェンリル〜、これ、海に捨ててきて。このゴミを」 これ、とティエリアが指差したのは恋人であるはずのロックオン。 「はいにゃーん」 フェンリルは、ロックオンのパーカーを口でくわえて、ふわりと宙に浮くと、ロックオンをぶら下げて空を走る。 「にゃはははははは!!ざまぁみろなのにゃあああ!主の嫉妬の炎は凄まじいのにゃ!この前も町で女の子に声かけて、同じ目にあったのにこりない奴だにゃん!僕が成敗してやるにゃん!サメの餌になれ、海の藻屑となれーだにゃーーん!!」 ぱっと、口を離して、ロックオンを海の中に落っことす。 消えてなくなったロックオンに、清々したとばかりにフェンリルは満足そうに鳴いた。 「にゃーーーん。主の勝利だにゃーーーん!!」 「あれ、勝利っていうのか?」 「うーん。勝利っていうか、嫉妬が凄まじいだけの気もするね」 刹那とリジェネは、冷静に話し合っている。 「けっ、ざまーねーな。ネイ、あばよ。お前の死は無駄にしないぜ」 涙を流すリエット。 本気で泣いている。ように見えたが、右手にはしっかりと目薬を持っていた。 「イカが・・・・」 「イカ?」 パラソルの下から立ち上がって、リエットの隣にやってきたアクラシエルは、イカといいだした。 「なんだ、イカ焼き食いてーの?今かってきてやるよ」 「イカ・・・・おええええ」 いつもの如く、内臓を吐くアクラシエルは、一緒に何かを口から飛び出させた。 「あ?」 リエットは、それがどんどん大きくなるのに青ざめる。 アクラシエルは、飛び出た心臓を捜して、きょろきょろしている。 イカ。 それは、確かにイカだった。 NEXT |