血と聖水外伝「みんなで海水浴」3







海からあがったティエリアは、ロックオンの姿を探す。
ロックオンは、女の子に囲まれてでれでれしていた。
とたんに、ティエリアの周囲の温度がマイナスにまで下がった。
「うおおお、さぶ!」
周囲を横切った人が、あまりの寒さに身を震わせて逃げていく。
ティエリアの意識に同調して、戻ってきた氷の精霊アイシクルが、ご丁寧に周りの温度を魔法で下げているのだ。
「主、冷気はこれくらいでいいですか?」
「ああ、アイシクル・・・戻っていいよ」
「了解」

バキボキと骨を鳴らして、ティエリアはロックオンに近づく。
すでに、ロックオンの周囲にいた女子は皆、ティエリアのあまりの迫力に逃げ出した後だ。
「ちょ、ティエリア、は、話せば分かる!暴力反対!!」
「ええ、話せば・・・・拳で話しましょうね」
にーっこり。
天使のように微笑んで、まずは華麗にアッパーを決めた。
吹き飛んだロックオンの着ていたパーカーの胸倉を掴み挙げて、にこりと微笑んだまま、ティエリアは目にも止まらぬ速さで、ロックオンの頬をビシバシと往復連打しだした。
「おお、あれはティエリアの秘儀、100往復ビンタ!!」
リジェネが、遠くからビシバシと頬を叩かれるロックオンを見ている。
「止めなくていいのか?」
刹那が、もらった真珠を太陽の光に透かしながら声をかけるが、リジェネは悪魔のように悪戯っぽく笑った。
「いい気味だよ、ロックオン。あれくらうと、ダメージ凄いからね。ティエリアも相当お冠のようだ」
「まぁ、恋人がいくら南の島とはいえ、浮気をしていたら、普通は怒るだろう」
「怒り方が半端じゃないからねぇ」
血を砂浜に吸い込ませながらも、なおも往復連打を受けるロックオン。
「あれ、100回こえてるね。200回かな」
「200でも300でも、いいんじゃないのか」
「そうそう、かわいい恋人の嫉妬だぜあれは」
売り物を売り切って、バイトを切り上げてきたリエットが、けらけらと笑った。

「ちょ、助け・・・おぶ!」
スパパパパパン!!
往復ビンタにまた見舞われて、ロックオンの声は途中で変な悲鳴に変わる。
「おーおー、そこでびでぶ!っていってはじけろよロックオン!ヒコウつかれたってことでさぁ!お前はもう、死んでいる!!」
リエットが叫ぶと、ロックオンはティエリアに往復ビンタをくらいながらも、声をだす。
「びでぶ!あべし!!」
「のりいいな・・・・」
リエットはげらげらと笑った。

ズールズール。
屍とかしたロックオンの足を引きずって、ティエリアは海に向かう。
「フェンリル、おいで〜」
「はいにゃーん」
フェンリルはサーフィンをやめて、スタタタっとティエリアのもとにくると、きらんと牙を煌かせた。
「分かってるにゃん主、皆まで言うな、だにゃ。にゃ〜〜〜」
ジャキンと牙を尖らせて、ロックオンの顔を縦横斜めに引っ掻いたあげく、頭をがじがじかじる。
「いってええええ」
「フェンリル〜、これ、海に捨ててきて。このゴミを」
これ、とティエリアが指差したのは恋人であるはずのロックオン。
「はいにゃーん」
フェンリルは、ロックオンのパーカーを口でくわえて、ふわりと宙に浮くと、ロックオンをぶら下げて空を走る。
「にゃはははははは!!ざまぁみろなのにゃあああ!主の嫉妬の炎は凄まじいのにゃ!この前も町で女の子に声かけて、同じ目にあったのにこりない奴だにゃん!僕が成敗してやるにゃん!サメの餌になれ、海の藻屑となれーだにゃーーん!!」
ぱっと、口を離して、ロックオンを海の中に落っことす。
消えてなくなったロックオンに、清々したとばかりにフェンリルは満足そうに鳴いた。
「にゃーーーん。主の勝利だにゃーーーん!!」

「あれ、勝利っていうのか?」
「うーん。勝利っていうか、嫉妬が凄まじいだけの気もするね」
刹那とリジェネは、冷静に話し合っている。

「けっ、ざまーねーな。ネイ、あばよ。お前の死は無駄にしないぜ」
涙を流すリエット。
本気で泣いている。ように見えたが、右手にはしっかりと目薬を持っていた。
「イカが・・・・」
「イカ?」
パラソルの下から立ち上がって、リエットの隣にやってきたアクラシエルは、イカといいだした。
「なんだ、イカ焼き食いてーの?今かってきてやるよ」
「イカ・・・・おええええ」
いつもの如く、内臓を吐くアクラシエルは、一緒に何かを口から飛び出させた。
「あ?」
リエットは、それがどんどん大きくなるのに青ざめる。
アクラシエルは、飛び出た心臓を捜して、きょろきょろしている。
イカ。
それは、確かにイカだった。


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