ロストエデン「愛を刻まれたいから」







「いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!」

耳を劈(つんざ)くばかりの悲鳴がこだました。
「おい、ティエリア!」
ティエリアが、悲鳴をあげてその場にしゃがみこんだ。
「ああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
頭に手をあてて、泣き叫ぶ。
「ティエリア、しっかりしろ!」
ライルがティエリアに手を伸ばす。

ティエリアは、涙を溢れさせ、伸びてくるライルの手を見ていた。
エメラルドの瞳。
同じ声。
同じ姿、形。

ティエリアの石榴の瞳が揺れる。そして、大きく見開かれる。
エメラルドの瞳と視線があった。

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」

ティエリアは、爪で自分の頬を引っ掻いた。
綺麗な顔に傷ができるのもお構いなしに。
完全な錯乱状態である。

「ティエリア!」
伸ばされたライルの手が、ティエリアの体を抱きしめる。
「しっかりしろよ!」
「ああああ・・・・・」
暴れる体を抱きしめる。
ティエリアの長い爪でひっかかれられながらも、ライルも必死だ。
「ティエリア!」
ライルが、泣き叫ぶティエリアの頬を包み込む。
逃げる体を、地面に縫いとめると、ティエリアの唇を奪った。

「ラ、イル」
「そうだ、俺だ!」
「ティエリア、死者と愛し合うような真似は止めろ」
ライルの強い言葉に、ティエリアは涙を流した。
「ライル。このまま、僕をあなたの部屋まで連れて行ってください」

ライルは、ティエリアを抱きかかえると、自分の部屋に向かった。
途中で、同じようにティエリアの様子を見にこようとして、ティエリアの悲鳴に気がつき急いでこちらに向かっていた刹那とすれ違う。
刹那は、何かいいたいようだったが、黙って二人を見送った。

ライルは、部屋のロックを解除してあけると、ティエリアを自分のベッドに寝かせた。
ティエリアは石榴の瞳から涙を溢れさせながら、ライルに縋りつく。
「もう、いなくならないで。嫌です」
「ティエリア」
俺はライルだと言ってやりたかったが、ティエリアの姿があまりも痛々しくて、ただぎゅっとティエリアを抱きしめた。
震えるティエリアは、肉食動物に狙われた草食動物のようだった。
「愛している」
ライルが、ティエリアの涙を吸い取って、ティエリアに口付ける。

ティエリアは、また涙を零した。
「ライル」
「そうだ、俺はライルだ」
ちゃんと自分を、兄のニールと混同させずに見てくれたティエリアの頭を撫でる。
ティエリアは、何度も涙を零した。
まるで海のように、無制限に涙は零れ落ちる。
ティエリアが自分の頬を爪で引っ掻いたときにできた傷に、ライルはキスをする。
ティエリアは、両手を伸ばして、ライルの体に抱きついた。
「いなくならないで。あの人のように、いなくならないで」
「いなくならない。愛している、ティエリア」
ティエリアは、涙を零しながら、石榴の瞳で虚空を見ていた。そして、ライルのエメラルドの瞳と視線をあわす。本当に、まるでダムが決壊したかのようにいくつもの涙がティエリアの頬を伝った。
「ごめんな」
ライルが、抱きついてくるティエリアを抱きしめ返しながら、謝った。
「いいんです・・・・僕はもう、愛される価値もないから」
その言葉を、ライルが強く否定する。
「ティエリアは、みんなに愛されている」
「僕は」

じっと見つめてくる、優しいエメラルドの瞳。
愛しいロックオンと同じ色。
でも、どこか違う。
ティエリアは、ライルにニールを重ねようとするのを極力避ける。
「綺麗なエメラルドの瞳・・・」
伸ばされた手を、ライルがしっかりと握り締める。
「ティエリアの瞳はガーネットだ」
握り締めあう手。
ティエリアは、石榴の瞳から、また新しい涙を溢れさせた。
「頼むから、泣かないでくれ」
優しいライルの言葉と体温に包まれて、ティエリアは昔に還ったような心地を味わっていた。
ライルはなぜ、他の魅力的な女性ではなく自分を選んだのだろう。
「あなたはなぜ、僕を選んだんですか?」
「分からない」
ライルが正直に答えた。
「兄さんが愛した存在だったせいもあるかもしれない」
「あなたは、ニールとは姿かたちこそ似ているが、中身は全く違う」
「そりゃな。別人だしな」
「あなたを愛せたら、どんなに楽だろうか」
「無理をする必要はない。俺は、ティエリアを愛している。愛されなくてもいい」
「ライル」
ティエリアは、眼鏡を外した。
石榴色だった瞳が金色に輝きだす。

ティエリアは、自分からライルに深く口づけしたあと、自分からポレロを脱いだ。

「僕を、抱いてください」



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