残酷なマリア「マリアナンバーズ」







その世界において、マリアには通り名がある。聖母マリアや慈悲のマリアがかの世界にあるように。でも、この世界において、マリアとはヘルファイア(地獄)よりも酷い意味を持つ。
無限にエーテルを持つ、マリアたち。
通り名は死神天使のマリア、残酷なマリアなど。とにかく、ろくなものがない。

プロジェクト・マリアの名の元に生まれた、女の胎を経ずに生まれた、人工生命。
個人名はない。
ただ、個体NOで認識される。マリアNO4だとか、マリアNO5だとかそんな風に。
彼らには使命が存在する。この世界から違う次元の世界に飛んで、その世界に紛れて、自分の中に埋め込まれたエーテルの結晶体「アダムとイヴの種」を守ること。

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この世界には、簡単にいうと人間の他に白天使と黒天使という種族が存在する。
その白天使に今、黒色ガンが流行っている。黒色ガンにかかると、白天使の純白の翼は黒く穢れてそして天使の証である翼を全て散らせて死んでしまうのだ。
黒天使はもともと、白天使の突然変異体で、翼が黒い種族だ。黒色ガンにかかっているわけではない。でも、黒色ガンの流行のせいで、白天使による黒天使狩りが頻繁に行われるようになった。黒天使とて、そう簡単に狩られるわけではない。
黒天使は白天使よりも数は少ないが、魔力の上をいく上位能力の結晶ともいえるエーテル、神の力が高く、そしてエーテルを扱うのに優れている。白天使は魔法と魔力を扱うのに長けている。
両者がぶつかりあっても、上位能力が勝るのが当たり前で・・・・だから、白天使は「プロジェクト・メシア」を発動させて白天使の中から特別な者を選び、遺伝子を操作させて黒天使にしてから、エーテルを扱えるようにして、「使徒」として黒天使を狩らせる。

プロジェジクト・メシア・・・・もともとは異世界から人間を召還し、それを黒天使にしたてあげて、そしてエーテルを扱うよう改造するものだったが、異世界から人間を召還するのが、何故かできなくなった。そのため、止むをえず同族を使うようになった。

プロジェクト・メシアによって作られた人工黒天使の「使徒」たちは、次々と黒天使たちを狩っていった。黒天使のエーテルを一時的に無力化する「聖歌(セイントヴォイス)」を持っており、黒天使たちは追い詰められた。
もともと和平主義の黒天使はそれでも白天使との和解の道を探し続け、最後の黒天使の皇帝であるブラディエル・エル・リーダリア・マナが、白天使皇帝であるジールエル・レラ・マナに暗殺されたことをきっかけに、二つの部族は火花を散らす如く対立した。
そして、プロジェクト・メシアに対抗するべく黒天使が発動したのがプロジェクト・マリアだ。
黒天使をベースとして、無から命を創造し、エーテルの結晶体「アダムとイヴの種」を機動力の核として、使徒の「聖歌(セイントヴォイス)」も無効化して、使徒を狩りつくす存在を生み出した。

使徒を殺され続ける白天使たちは、このプロジェクト・マリアから生まれたマリアナンバーズの核である「アダムとイヴの種」に目をつけた。
そして、アダムとイヴの種さえあれば黒色ガンが治療可能なのも分かった。

黒天使たちは逡巡した。
けれど、最後の一族をかけた和解に繋がる。

黒天使たちは博愛主義者だ。自分たちが作ったマリアナンバーズから、アダムとイヴの種を取り出し、白天使たちの黒色ガンに治療に自ら率先して進み出た。
白天使皇帝は、皇帝の名において黒天使狩りを行った者は極刑に命じ、硬くこれを禁じるとした。そして、魔力の全てを費やして自らが殺してしまった最後の黒天使の皇帝ブラディエル・エル・リーダリア・マナの再生に一族をかけて取り組み、今黒天使の皇帝は再生しかけている。意識も魂もそのままに。
エーテルは神の力、魔力は天使の力。
天使の力には破壊のほかに再生も含まれる。神の力は破壊と創造だ。

白天使皇帝ジールエル・レラ・マナの言葉に「我ら偉大なりし神の御子なり、我ら上位存在は下位存在を導くものなり」という有名な言葉がある。
神の子であるのだから、人間たちを導くべきだという簡単なもの。
その神の子同士で争っていたのだから、不毛としかいえない。
それも、もう終わろうとしている。

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「だめだ、NO12、先にいけ!残り私たちマリアナンバーズは、この核をどの種族からも守らなければ!この核は、私たちの体内から取り出され、数を集められると集合的意識体となってこの世界を滅ぼす!白天使皇帝も黒天使皇帝も、その危険を知らなかったのだ。残った私たちで、散らばるしか・・・・」
紫紺の神をした美しい少女とも少年ともつかない存在が、自分の中の核を発動させて、エーテルをフルパワーで発動させた。

「エーテル発動、目覚めよ我の中のマリア!!」

滲み出る、美しいエメラルド色のオーラ。
美しい、カナリアが囀るような声で命令する。自分の中に在る力に。

「オリジナルマリア!!あなたの核は移植されたものだ!一度取り除かれた核にNO9のものを移植した!あなたがエーテルを発動すると、命が!!」
「元より僕らの命なんて、作られたものだよ。そもそも、これが命かい?使徒を狩るように命じられ、そして挙句にはいらなくなったから核を、つまりは命を差し出せ・・・・滑稽だよ。僕は、先にオリジナルマリアの力で転移する。転移先はAP−10355「ワールド・エルフィン」・・・・エルフ国家だな。魔法文明か・・・ここと似てるかもね。じゃあ、お先にね。もう会うこともないだろう」
緑の髪をした少年の姿が揺らいで、陽炎のようになると、紫紺の髪の華奢で美しい、まるで天使そのもののような存在のオリジナルマリアの力で、空間転移を完了させる。

それを確認して、オリジナルマリアは、残ったマリアナンバーズの一人、先ほどから自分のことを心配しているマリアNO12の周囲に魔方陣を展開させる。
「さぁ、君も転移を。NO9の死を無駄にするな。空間転移できる力はあれど、発動させる力なし。私に核を自ら移植して死んでいったんだ。さぁ、早く!!」
かっと、白い光が、オリジナルマリアとマリアNO12を満たす。
「オリジナルマリア!!私は、あなたを誇りに思います!私たちに「生きる」ということを教えてくれたあなたに・・・・!!!」
マリアNO12の声が薄らいでいく。

「転移先はAP−12466「ワールド・サンクチュアリ」・・・私たちと同じく、エーテルをもつ上位生命体が生きる世界だ・・・・きっとうまくいく・・・・・そこで、生きなさい・・・・どうか無事で・・・・」
「オリジナルマリア!!あなたも、一緒に!!」
伸ばされる腕を、オリジナルマリアは掴まなかった。
「だめだよ、NO12・・・・私はもう・・・・・せめて、核だけでも・・・・・」
自分の胸に指を沈め、NO9から移植された核を取り出す。
「これ・・・・を・・・・」
「オリジナルマリア!あなたが、消えてしまう!!」
マリアNO12は、転移される光に包まれながら涙を零して、その結晶をエーテルで押し返す。
「いいんだ・・・私は・・・・無から生まれ無に帰る・・・・それが・・・私の、うんめ・・・・」
声は途切れ途切れになる。
黒天使を模した姿をしているオリジナルマリアの背中にある、6枚の翼が散っていく。

天使たちが死ぬ間際の現象。

「・・・・・・オリジナル・・・・マリ・・・・」

声も意識も、そこで途絶えた。
全てが白に包まれる。
下位領域内の虚数領域に包まれて、意識が混濁していく。
上位領域内をゲートアウト、つまりは今まで自分たちが住んでいた世界「エンジェリックカオス」を転移したのだろう。
マリアNO12は金色の瞳を閉じて、背中の黒い6枚の翼を折りたたんだ。



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