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「う・・・・・うう・・・・」
頭が思い。
意識がはっきりしない。明瞭としない海を漂っているような感覚。
「オリジ・・・マリア・・・・」
覚えているのは、オリジナルマリアの言葉と仲間たちのこと、そして自分のこと。
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マリアナンバーズは自分たちが生み出した黒天使に逆らい、そして和解した白天使にも無論逆らって、異世界にトリップして自分たちの中にある「アダムとイヴの種」を守っている。
黒色ガンの治療に使うとして、核であるアダムとイヴの種を取り出されて死んでいったマリアナンバーズたちの数は40以上。マリアナンバーズたちは、最初は喜んで自分の命の源をさしだした。創造主の役に立てるのなら、こんなに嬉しいことはない。そのために生きているのだから。マリアナンバーズは、黒天使たちを使徒から守るために生きていた。黒天使に服従していた。
治療に使われたあと、核は集められさらに結晶体にされた。そこから、集合的意識体が生まれた。それは最初は無害であった。しかし巨大なエーテル、神の力の結晶に宿った意識体はその世界に住む、上位生命体のレベルを遥かに凌ぐ意識を宿した。
その意識は、無から生まれそして無へと去っていく。
その周囲、即ち世界を巻き込みながら。
つまりは、世界の崩壊の始まりだ。
それに最初に気づいたのは、マリアナンバーズから、核なしに動ける黒天使へと昇格した「アベル」だ。彼は慌てて新しいマリアナンバーズの体に結晶をいれて核として、誰にも「アダムとイヴの種」を渡してはならないと教え込み、そして異界に転移して逃げることを教えた。
自らもまたマリアナンバーズとなるために残った結晶を核ではないが、体内に取り込んで異世界へ転移した。
オリジナルマリアはアベルがいなくなったあと、マリアナンバーズたちをしきり、リーダーとなって残ったマリアナンバーズたちを異世界へと次々に飛ばしていった。
その数は正確には分からないが、できるだけ小さい結晶のほうが、核としては未熟だが、持っていると分かりにくい。マリアナンバーズは、アベルが彼らの世界を去る前までにすでに50体以上はそれぞれいろんな異世界へと結晶を核として、逃げるために転移していった。
核の結晶体が集まると、集合的意識体を宿すことを知らない黒天使の皇帝も白天使の皇帝も、これを反乱とみなした。そして、再び今度はより強化した「使徒」が作られ、マリアナンバーズを狩り、結晶の「アダムとイヴの種」を集めるべく時空転移の力を備えてマリアナンバーズたちを追って、散っていった。
マリアナンバーズたちは、少年少女ばかりであった。美しい外見を持つものばかりで、とりわけオリジナルマリアは「アベル」でさえ恋をするほどに美しかった。
「使徒」にもそう簡単にマリアナンバーズの存在は分からない。エーテルの匂いを感知して彼らはマリアナンバーズを狩り、そして核を取り出して殺す。マリアナンバーズたちは、無意味にエーテルを使わない。でも、生きるためにはどうしてもエーテルが必要であった。どの世界でも・・・・普通の食事では補えないエーテル。まして核のエーテルを使うわけにはいかない。だから、自然の力をエナジーとしてとりいれ、それをエーテル力として変換することで、活動に必要なエーテルを確保していた。その行為が、使徒にエーテルを探知され、いわゆるマリアナンバーズたちの食事が、使徒に見つかる最大の要因となった。
きっと、いろんな世界に散らばっていったマリアナンバーズたちは、その世界の住人として紛れながらも、幾つかは使徒に見つかり狩られ、殺されているであろう。
元の世界に戻る方法なんて知らない。
ただ、使徒もマリアナンバーズたちも、人という種族に極めて似た形をしており、人の記憶を操作することができる。そうすることで、いろんな世界に馴染み、そこの住人であるように振る舞い生きるのだ。そして、そこの世界の住人を殺すと、その殺された者は最初から存在しなかったことになる。これもみんな、記憶の操作の応用である。
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彼・・・いや、彼女というべきか?
彼女も、そのはずだった。
マリアNO12。
オリジナルマリアが、最後の力を使って転移させた固体。マリアNO12は、オリジナルマリアと同じで中性という、マリアナンバーズの中でも極めて異例の個体であった。
彼女が目覚めたのは、お日様の匂いのするベッドの上だった。
「ここは・・・・私、は・・・・」
記憶にはない場所。いや、どこかで覚えている?
どこかで知っているこの部屋・・・どこで。分からない。
そのままベッドから起き上がると、マリアNO12は驚愕した。
サラサラの長い紫紺の髪が見えて、まさかと思って慌ててエーテルを発動させる。自分の髪の色は、くすんだ茶色で、それもくせ毛でこんなサラサラの髪ではない。色も違う。
「エーテル発動、目覚めよ我の中のマリア!!」
エーテルを発動させる。彼女の周囲に円陣が現れる。叫んだ声音さえ、自分のものではなかった。
そして、水晶でできた鏡が現れる。
「嘘・・・・だ・・・・マリア・・・・嘘だと・・・いってくれないのか・・・・マリア!!」
彼女は、絶叫した。
自分の体を抱き締めて。
涙を零す。その姿さえ、美しい。美しすぎるこの容姿は、そう、オリジナルマリアのもの。
紫紺の髪にガーネット色の瞳をした、オリジナルマリアの体だ、これは。
マリアNO12は、転移の際に肉体が耐え切れずその肉体が抹消した。そして、自分の中にあった核は、漂うオリジナルマリアに移植されたマリアNO9の核を巻き込んで、四散していくオリジナルマリアの体に飛び込み、体を最速再生させて、転移したのだ。
この世界に。
「ここは・・・・違う、AP−12466「ワールド・サンクチュアリ」じゃない!AP−34607「ワールド・エデン」・・・・科学文明が少し発達した・・・魔法のない、世界・・・・」
自分の中のエーテルで自分が今いる世界を確認する。確認することだけはできる。転移はできないけど。
「オリジナルマリア・・・どうして・・・・私は、あなたになりたかったわけではないのに・・・・」
がくりと、ベッドに膝をつき、そのまま嗚咽を零す。
「よー、ティエリア、気分はどうだ?」
「誰・・・・」
「俺だよ、ロックオン。恋人の名前、忘れた?意識、混乱してる?」
突然、ドアをあけて入ってきた柔らかな茶色のウェーブの髪をもつ青年に、マリアNO12・・・いや、この世界においてはティエリア・アーデと呼ばれる容姿をもった彼女は涙を流したまま、彼を見つめ返した。
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