ロストエデン「ペルソナを失う時」







ライルは、完全に気を失ったままのティエリアを抱き上げると、風呂場に向かう。
そのまま、洗い清め、ティエリアの中で放ったものをかきだした。
白い太ももを、白い液体が伝いおちる。
「ごめんな」
ティエリアは、はじめてではないようだった。
兄と体を繋げたことが多分、あるのだろう。
反応は初々しかったが、体はバージンというわけでもなく、覚えこまされた快楽を思い出しているというかんじだった。出血もなかった。

そのまま、ライルはティエリアの体を清めると、事後処理も終わらせて、自分の衣服を着せた。
だいぶブカブカであったが、仕方ない。
制服を着せても良かったが、寝てしわになったりしたら嫌だろう。

ライルは、後悔していなかった。
無理やりSEXしたわけではない。
同意の上だ。
むしろ、ティエリアから誘ってきたのだ。
その体は無性であるため、今まで抱いてきたことのある女性のようにはいかなかったが、わりと激しくなっても大丈夫であった。
大分回数を重ねているという感じが、抱いたライルでさえも分かった。
「やっぱ、兄貴か・・・」
いなくなってしまったニールは、未だにティエリアの心を捕らえて離さない。
そして、ティエリアもそれを望んでいるように、見ていて痛いくらいにひたむきなまでに死んでしまったニールを愛し続けていた。
ティエリアを、兄の手から奪い取る。
目論みは成功したかどうかは分からない。
だが、ティエリアはニールとしてのライルではなく、ライルを求めてくれた。

頬の傷に絆創膏をはって、ティエリアをソファに寝かせる。
ベッドは、シーツが乱れ、体液もついてしまってぐちゃぐちゃだ。

ライルは、自分の服を調えると、ティエリアを抱き上げて、ティエリアの部屋まで運んだ。
ティエリアの部屋の前では、刹那が腕を組んでじっと待っていた。
「ライル」
ピジョン・ブラッドのルビーの瞳が険しい。
とりあえず、ライルはティエリアの部屋の扉を開け、ベッドにティエリアを寝かせると、毛布を被せた。
「説明を、してもらおうか」
刹那は、殺気さえ滲ませていた。
愛しそうにティエリアの唇にキスをした後、刹那を伴って廊下に出る。
「ティエリアに何をした!」
刹那は、どうしてティエリアが叫んでいたのかも聞いてきた。
ライルは、隠すこともなく事情を説明し、ティエリアが叫んだのは、錯乱したせいであることも話した。
そして、衝撃の言葉を出す。

「ティエリアを、抱いた」

「お前!」
刹那が、ライルの首元を掴みあげる。
振り上げられる拳を、ライルはけれど、手の平で受け止めた。
「同意の上だ。それに、誘ってきたのはティエリアの方だ」
「ティエリアが?そんなばかなことがあるか」
「実際にそうなんだから、他に何もいえない」
「ライルは、本当にティエリアのことを愛しているのか?」
その言葉に、ライルは言葉を荒げた。
「嘘や偽りで、女でもない無性なんていう、ティエリアを抱くかよ!」
「そうだな。お前は、その気になれば女になんて苦労はしないだろう」
秀麗な顔をもつライルがその気になれば、女に困ることなんてないだろう。
なのに、なぜティエリアを選んだのか。
刹那には、分かっていた。
何故なら、愛という言葉を持ち出さないようにしながらも、刹那もティエリアを選んだのだから。

「殴ろうとして、すまなかった」
刹那は、ライルに詫びた。
「気にしてない」
「俺は、ティエリアが選んだ相手が誰であれ、その邪魔はしない」
「本当に、ティエリアが俺を選んでくれたのかは分からないけどな」
「どういうことだ?」
「突然すぎる。普通なら、愛の告白を受け入れてくれて、付き合った上でこうなるはずだった」
「ティエリアは、ニールのものだからな」
「取り返してみせる」
「できるのか?」
「取り返してみせるさ」
「・・・・・・ニールとティエリアの間には、体の関係があった」
じっと廊下の地面を見つめる刹那。
「なんとなく、分かっていた。純粋な愛だけで終わるはずもないだろう、二人とも。愛し合っているのなら、それが普通だ」
「俺には、そこらへんはよく分からない」
「ティエリアを抱いても、抱かれなれていると思った。兄さんとの体の関係は確実にあっただろうな」
「ティエリアは、盲目的にニールを愛している」
「知ってる。愛されなくてもいいと、俺は思っている。ティエリアを愛せるなら」
「あんたも、不幸な道を自分で選ぶのか」
「二人揃って幸せになれるなら、それにこしたことはないんだけどな。でも、ティエリアが兄さんを愛し続けている限り、どうだろうな。俺を愛してくれるかも分からない」
「それでも、ティエリアを愛すると?」
「ああ。もう決めたんだ」
刹那は、尖っていた雰囲気を丸め、安心したように笑った。
「あんたで、良かった」
ライルは、刹那の顔を胸に埋めさせた。
「泣きながら笑うなよ。お前さんの泣き顔も、大分こたえるんだぜ」
「はは・・・俺のことはどうでもいいんだ。ティエリアを愛してやってくれ」
「お前さんも、献身的すぎるな。ティエリアを愛しているんだろう?」
答えはなかった。
沈黙は、肯定であると、ライルはとらえた。
そのまま、ライルと刹那は別れた。

次の日、それはやってきた。
いつものように、ティエリアを起しにきた刹那に、ティエリアが首を傾げた。
「ティエリア」
「あの、すみません」
「どうした?」
「君は誰ですか?」
「ティエリア?」

刹那に呼ばれたライルが、ティエリアの部屋に入る。

「おい、ティエリア」
「あ。はじめまして」
「!?」
「君も、この人の知り合いですか?名前はなんていうんでしょう」
ライルのエメラルドの瞳が驚愕に見開かれる。
「おい、冗談はよせよ」
「君は誰ですか?この、刹那という人の知り合いですか?」
「ティエリア」
「ティエリア?誰のことですか?私は、シリアルNO8という名前です」
「ティエリア!!」
ライルが、ティエリアを揺さぶった。
「乱暴は、止めてください」
ティエリアが、無表情に答える。
「イオリア様はどこですか?私のマスターは」
「ティエリア・・・・」
ティエリアの姿は変わらない。
だがそこに、刹那とライルが愛したティエリアは存在しなかった。
「私は、ティエリアという名前ではあません。どうか、シリアルNO8と呼んでください」
機械的に、ティエリアは続ける。

「シリアルNO8は、特別なんです。人に愛されるようにマスターが作ってくださったので。どうか、はじめまして。シリアルNO8を、愛してください」



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