ロストエデン「手探りの愛」







刹那は、泣きつかれて眠ってしまった。
それでも、ティエリアの歌声は止まらない。
ライルが戻ってきた。
刹那の体を抱きかかえ、ソファに横たえると、毛布を被せる。
「無茶しすぎだろ」
ライルは鎮痛な声をだしていた。

歌い続ける歌姫。

歌声が、途中で消えた。
「ティエリア?」
「私は、以前どこかであなたとお会いしたことがあったでしょうか?なぜか、とても懐かしい気がするんです」
ライルは、伸ばされたティエリアの手を握り締める。
その手を、ティエリアは頬に当てた。
「暖かい、体温」
「ティエリア、帰ってきてくれ」
ライルは、ティエリアを抱きしめた。
おずおずと、ティエリアがその背に手を回す。
「ライルさん、泣かないで」
ライルはまた泣いていた。
「唄を歌いましょうか?」
「いや、このままでいい」
ライルは、ティエリアの唇にキスをした。
ティエリアが、また涙を零す。
「ティエリア?」
「どうしてでしょう。刹那さんもライルさんも、とても懐かしい気がするんです。どこかで出会った気がする。とても大切な何かを忘れているような気がするんです」
「ティエリア、愛している」
歌姫は、また唄を歌う。


世界は一度終わったのに 私はあなたと出合った
世界は一度終わったのに 私はあなたと出会ってしまった
世界の終焉から あなたは私を連れ出す
ロストエデン ロストエデン ロストエデン
失われた楽園に あなたは私を連れて行く
ロストチャイルド ロストチャイルド ロストチャイルド
終わりからの始まり あなたと私は歩きだしていく
私の世界は終わったのに あなたはそこから私を連れ去る
ロストエデン ロストエデン ロストエデン
失われた楽園に あなたは私を連れて行く
あなたの愛がそこにある わたしのためだけの愛がある
世界は一度終わったのに 私はあなたと出合った
世界は一度終わったのに 私はあなたと出会ってしまった
私はもう一度歩きだす あなたと一緒に新しい世界を
あなたに愛されながら 私もあなたを愛する
あなたの愛に包まれながら 私は生きる 歩みだす
ロストエデン ロストエデン ロストエデン
あなたの愛が 私の楽園 あなたの愛が 私の世界

「すみません。歌いすぎて疲れました。寝てもいいですか?」
「ああ、寝ろ」
「傍にいてくださりますか?」
「ああ、傍にいる」
「嬉しいです」
ティエリアは微笑んだ。そして、そのまま静かに眠った。

俺では、だめのか。
なぁ、ティエリア。

次の日は、ティエリアの悲鳴と共に目覚めた。
「いやああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!処分はいやあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
医師が、すぐさま鎮静剤を打つが、ティエリアは暴れた。
悪く思いながらも、刹那とライルはティエリアの体をベッドに押さえつける。
鎮静剤を打たれ、ティエリアはすぐに意識を失った。

唄を歌いながら、ティエリアは泣きながら意識を失う。

その日の夜、ライルは刹那を伴って、ティエリアを病室から連れ出すと、バーチャル装置にいれ、それぞれライル、刹那と連結させた。
一か八かの賭けだった。
三人は、そのまま仮想空間に大分する。
(今日もAIマリアをご利用くださり、ありがとうございます)
景色は、ティエリアの部屋だった。
「AIマリア。兄貴のデータをロードしてほしい」
(マスターの脳波が通常ではありません。マスターの許可なく、ロックオン・ストラトスのデータをロードすることはできません)
「そこをなんとか頼む」
(ライルさん)
「サブマスター・刹那・F・セイエイが命じる。ロックオン・ストラトスのデータをロードせよ」
(只今、認識を行っております。刹那・F・セイエイの脳波をサブマスターのものであると確認しました。AIマリアは、サブマスター・刹那・F・セイエイの命令に従い、ロックオン・ストラトスのデータをロードします。データのロード中です。しばしお待ちください。・・・・・データのロードに成功しました)

「よお」
部屋の中に、ロックオンがデータとして姿を現した。
「ん?ティエリアだけでなくてライルに刹那までどうした?」
刹那が、ルビーの瞳でロックオンを見つめる。
「あんたにしかできないんだ。ティエリアを救ってやってくれ」
「はぁ?」
「兄貴。ティエリアが、記憶喪失なんだ」
「記憶喪失?何があった」
「分からない。ただ、あんたならティエリアを救えると思って連れてきた」
刹那が、腕の中で震えているティエリアをロックオンのほうに近づける。
「頼む、兄貴」

ロックオンの手が伸びる。
「ティエリア」
びくりと、強張る四肢。
刹那がそっと離れた。
ティエリアは、不思議そうに目の前にいるロックオンを食い入るような眼差しで見つめていた。
「ティエリア、どうした。なぁ、ティエリア」
「あなたは、ライルさん?」
「違う。ニール・ディランディだ」
「ニール・ディランディ」
鸚鵡返しに呟く。
ライルも、ティエリアと距離を保つ。
「どこかで、お会いしたことが?」
「愛している、ティエリア」
ロックオンが、ティエリアを抱きしめた。
そのまま、口付ける。
「ニール・ディランディ」
「そうだ。お前を愛した、ニール・ディランディだ」
「私は、愛されるように作られています。本当に私を愛してくれる人なんて存在しません」
「ティエリア」
エメラルドの、優しい瞳。
暖かい体温。

ニールは唄を歌いだした。

天は人に試練を与えた 神は人に試練を与えた
生きることへの試練を 人は生きながら噛み締める
天は人に愛を与えた 神は人に愛を与えた
人は生きながら愛し合う 愛の素晴らしさは無限だ

「愛の唄!」
ティエリアの石榴の瞳が輝いた。
一緒になって歌いだす。



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