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ティエリアやリジェネ、刹那に紹介されて、アイリスは陽だまりのような微笑を浮かべる。
「はじめまして。アイリスと申します」
ティエリアもリジェネも刹那も哀しそうだった。
ニールは、面会を最後まで拒んだ。
でも、誰よりも愛したアイリスにもう一度会いたいという感情が抑えきれず、ついにはアイリスと再会を果たす。
「アイリス・・・」
「始めまして。ニール・ディランディさん。コールドスリープする前は、大変お世話になったとか」
手を差し出されて、ニールはその手を握り締めることはせずに、ヴァイオリンを持ちだしてアイリスを抱きかかえる。
「うわ、あの、何か!?」
「いいから、黙ってついてこい」
もう一度、最初からアイリスと愛を築くこともできる。
でも、ニールには、記憶回路が壊れていたのに動いていたというし、アイリスには人間の魂が宿っているのだと思うようになっていた。
中庭にまでくると、そこでアイリスを下ろす。
「あの、何か?」
アイリスは困ったような様子だ。
ニールはティーポットを持ってくると、アイリスの前にマイセンの白磁のカップを置くと、アッサムの紅茶を注いだ。
「あ・・・・これ、アッサムですね?僕、好きなんです」
ほら。
全部白紙になったのなら、なぜ好きだと覚えているのだ?
ニールは一途の望みに縋るように、ヴァイオリンを奏で出した。
曲名はモーツァルトのものから、今までアイリスに教えた全ての曲。アイリスは、目を閉じてそっとその綺麗な音楽に耳を傾ける。
やがて、曲が変わる。
「G線上のアリアだ・・・・これは、お前さんが一番気に入っていた音楽だ」
「僕が・・・気に入っていた・・・・」
G線上のアリアが弾かれると、自然とアイリスの喉から綺麗なソプラノの声が漏れた。
「あ・・・・なん、で?」
アイリスは、もう一人のティエリアであると同時に、アイリスという違う存在。
アイリスは、涙がなぜ流れてくるのか分からないまま、歌い続ける。
そして、G線上のアリアの曲が全て終わると、アイリスは大空に向かって両手を広げていろんな歌を歌い出した。
それは、ニールに聞かせてくれた曲ばかり。
「どうして・・・・僕は、こんな曲知らないのに、歌えるの?」
「それは、お前さんが俺の愛したアイリスだから」
アイリスの歌声にあわせて、ニールはヴァイオリンを奏でる。
「お前さんは、機械でもいいから、もう一度俺に会いたいと願った」
「僕は・・・誰?」
「かつてはティエリア・アーデだった。でも、今はただのアイリス。おれの恋人のアイリスだ」
「あなたの恋人・・・・あなたは、ニール・ディランディ」
「そうだ。俺はニールだ」
「コールドスリープする前は、大変お世話に・・・・」
ニールが、アイリスを抱き締めて、その桜色の唇に口付けた。
「あ・・・・」
暖かな何かが流れ込んでくるのを、アイリスは感じていた。
そう、レプリカの心臓に暖かな感情が流れてくる。
これは、恋だ。
「僕は、あなたに恋をして、人間になりたいと、願った」
アイリスは、たくさんの涙を両目から零して、ニールに後ろからだきついた。
「うん、そうだな」
「あなたは、僕がアンドロイドでも構わないと言ってくれた」
「ああ、構わないさ。アイリスはアイリスだろう?」
「・・・・・・・ただ、いま・・・・」
「おかえり・・・・」
ニールはアイリスを抱き上げると、また唇を重ねた。
記憶回路ではない、レプリカの心臓にアイリスの魂はきっと宿っているんだ。新しい記憶回路も、メンテナンスがされて動いていないことが確認された。
アイリスが見るもの、記憶するものは全て記憶回路ではなく、ナノマシンの脳のどこかに記憶されている。
まるで、人間のように。
もう、アイリスが消えることはない。記憶回路が壊れて、アイリスが壊れることもない。
「アイリスーー!!」
「アイリス!」
「もう一人の僕。おかえり。ティエリア・アーデだったことを後悔している?」
刹那、リジェネ、ティエリアに囲まれて、アイリスは照れたように頬を紅潮させる。
「心配かけて、ごめんなさい。でも、僕はもう消えないから。それからティエリア。僕は、ティエリアであったことに後悔はしていません。あなたであったから、僕はニールで会えた」
「そう。もう、道を見失うことはないね?」
「ないよ。僕の周りには、茨なんてないから!」
遠くで、イオリアが嬉しそうに顔を和ませていた。スイスにアイリスを連れて行くことはとりやめになった。
そのまま、イオリアは新しい戸籍を作った。
ティエリアとリジェネのもう一人の兄弟。アイリス。
双子ではなく三つ子。
イオリアはそれを選択した。たとえアイリスがアンドロイドであろうとも、もう一人の孫娘なのだからと。
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