デジャヴ−記憶の欠片−「還るべき場所」







トレミーに帰還した二人を、CBメンバー全員が出迎えた。
「ロックオンのお墓に、あたちたちの分まで祈ってくれた?」
ミス・スメラギが、コックピットから降りてきた刹那とティエリアに問いかける。
「勿論、皆の分の祈りも冥福も捧げました」
刹那とティエリアは、トレミーを空けることのでない他のCBメンバーの代表も兼ねて、ロックオンの墓に墓参りしたのだ。
本当なら、戦いが終わってからにしたがった、どうしても譲れないわけがあるのだ。
「ティエリア、目が赤いわ。また泣いていたのね」
ミス・スメラギの手が伸びて、ティエリアをその豊満な体で包み込む。
「大丈夫です、ミス・スメラギ。僕は、四年間一人で戦い抜き、皆を守りました。勿論、何度も挫折しました。でも、僕には皆がいます。大切な仲間が、家族が」
「成長したわね。偉いわ」
そのまま、皆移動し、トレミーを宇宙に発進させるべく仕事に戻っていく。

「兄貴の墓参り、俺は行かなくて正解だったな。俺は兄貴の片割れだからな。墓参りなんていかなくても、いつでも兄貴が傍にいる気がする」
食堂で夕食をとりながら、水をのむライル。
「あなたが羨ましい。僕は、どうしてもロックオンの墓にいきたかった。もう一年以上も行っていなかったので」
「僕も行きたかったよ」
アレルヤが、鎮痛な面持ちで、パスタをつついていた。
「アレルヤも、戦いが終わったら、一緒にロックオンの墓参りにいこうか」
ティエリアが提案する。
「そうだね。戦いが終わったら、僕もちゃんとロックオンの墓に墓参りにいきたい。一度もいったことがないんだもの」
「その時は、私も連れて行ってね」
隣に座っていたマリーが、アレルヤの手をぎゅっと握っていた。
刹那は、ティエリアの隣にすわって黙って食事を続けていた。
「マリーも勿論、CBのみんなで墓参りにいこう」
アレルヤの言葉に、ティエリアが言葉を落とす。
「そんな時代が、早く来ればいいな」
「くるさ。いつか絶対に。俺たちの手で掴んでみせるんだ」
ティエリアの隣に座っていた刹那が、無言を通していたかと想うと、強い口調で皆の顔を見回した。
「俺たちの手で。この歪んだ世界を正そう」
「ああ」
ライルが頷く。
「うん」
アレルヤが頷く。
「そうですね」
マリーが頷く。
「そして、皆でロックオンの墓に報告に行こう」
ティエリアが、紫紺の髪を邪魔だとばかりに耳にかけた。

刹那が、テーブルに手を差し出す。
頷いて、アレルヤ、ライル、ティエリア、それにおずおずと、マリーも混じってその手に手を重ねていく。
「俺たちは、戦い抜いて生き残る!」
刹那が、立ち上がった。
アレルヤが立ち上がる。
ライルが立ち上がる。
ティエリアが立ち上がる。
マリーも立ち上がる。
「この世界に、未来を」
「未来を」
「未来を」
「未来を」
「未来を」

そのまま、解散となった。
就寝時刻を過ぎた深夜。
ティエリアの部屋を、刹那が訪れていた。
ティエリアは、案の定、寝ていなかった。
ロックオンの遺品であふれかえったティエリアの部屋。
ティエリアは、いつの日か誕生日プレゼントにもらったガーネットを握り締め、そしてロックオンのジャケットを抱きしめて、明かりのついた部屋で胎児のように丸くなると、泣いていた。

刹那とティエリアが、戦闘状況の厳しい中、アイルランドのロックオンの墓参りにいくことを許されれたのには、大きなわけがあった。
その日が、ロックオンの命日だったのだ。
ティエリアは、皆の代表も兼ねていたのであまり泣かなかった。
だが、刹那の予感は当たった。
命日が過ぎてしまったが、そんな日のティエリアがどんなことになるくらい、比翼の鳥の片割れである刹那には容易に想像がついたのだ。
子供のように、泣いている。泣き声もあげずに、ただ静かに。眠ることもなく、ロックオンの遺品に囲まれながら。その予想は的中していた。
ティエリアは、ベッドの中で胎児のように丸くなって、ロックオンのジャケットを握り締め、泣いていた。
時折、ガーネットを人工の光にすかしてみせ、その紅い影はティエリアの白皙の顔に落ちた。
強く振舞っておきながら、夜がきて一人になると時折ティエリアはそんな行動をとった。
今もずっとロックオンを愛している証であるかのように。
部屋のロックは頑なにかけられていた。
それを、暗号を記入して部屋の中に入る。
ティエリアは驚きの声もあげなかった。
「ロックオン、愛しています」
部屋の中に入ってきた刹那は、毛布を二枚持っていた。
「刹那、いつもすまない」
刹那からは背を向けた状態で、ティエリアは掠れた声をだす。
もう、何時間こうやって静かに泣いていたのだろうか。
刹那が胸が痛くなった。未だに、ティエリアをこの寂寞とした苦しみから解放できずにいる。
いや、解放されることなど、ティエリアが望んでいないのかもしれない。

刹那は、昨日のように泣くなとは言わなかった。
ただ、毛布をティエリアにかけ、そして空いているスペースのベッドに自分ももぐりこんで、自分にも毛布をかけて後ろから抱きかかえるようにティエリアを抱きしめた。
「刹那、僕に愛想をつかさないのか」
「何故だ」
「だって、こんなにもまだ引きずっている。完全に立ち直ったように見せかけて、ずっとずっと引きずっている」
「それだけ、ロックオンを愛していたんだろう?」
「ああ。愛していた。世界中で一番。誰よりも」
「今も愛しているんだろう?」
「ああ。今も愛している」
「好きなだけ、泣け。俺が傍にいる。お前の隣からいなくなったりしない。お前を一人にはしない」
ティエリアが寝返りをうつ。
刹那と見つめるような形になる。
ティエリアは、刹那の服と毛布を握り締めると、美しい顔で刹那と視線を合わせたあと、その胸の中で泣いた。
「あああああ・・・・・・・」
「ティエリア」
「うわぁぁぁぁぁ」
我慢していた声が漏れる。
悲痛な叫びと共に、ティエリアは泣くじゃくった。
刹那は、ティエリアをずっと抱きしめて離さなかった。
もう、絶対に手放さない。一度はライルにティエリアを委ねようとして、ティエリアはライルと関係を持ってしまった。まるで、ロックオンのことを忘れるように、ティエリアはライルに抱かれた。
ティエリアもそのことは後悔していないようだったが、もうライルにティエリアを抱かせる気もなかった。
誰にも、渡さない。
俺だけのティエリア。
魂の双子。

俺だけの、ティエリア。


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