「刹那!!!」 ダブルオーライザーから、火花が散る。 やられたかのように見えたが、ダブルオーライザーは動いた。 コックピットは、ぎりぎりのところでかわされた。 「おおおおおおお!!!」 刹那が、叫んだ。 もはや、バーサーカーだ。 そのまま、新型の右肩、左足と切り裂いていく。 「撤退だ」 敵側のほうに、マネキンからの撤退命令の通信が入った。 それに従って、傷ついた新型が高速で母艦に向けてかえっていく。 それを追うことはしない。 こちらも負傷している。 相手も負傷している。 このまま戦っても、どちらが大破するのか分からない。 アロウズの力をもってすれば、大破した新型を修理し、また戦闘に投入するだろう。 とりあえずは、ガンダムの2機に傷を負わせただけでも大成功だ。 母艦の操舵室で、マネキンは微笑んでいた。 「クジョウ、私を卑怯と罵るがいい」 せいせい堂々と勝負せず、あえてガンダムの一騎を狙った。セラヴィという機体は、ガデッサに似た破壊兵器を所有し、破壊能力が高く、またGNフィールドをはることができるので、一見攻略しにくく見える。 だが、トランザムを使わせ、限界時間を過ぎてしまえばGNフィールドははれなくなる。 ガデッサのような武器だけをメインとした防御力の高い機体から、完全のGNフィールド、つまりは防御力がなくなればあとは簡単だ。 ガンダムであるのだから、その機動性は高く、接近戦ももちろんこなせるだろうが、ダブルオーライザーのように優れれた破壊力はない。アリオスやケルヴィムにように撃ち落すという行動に出る事の少ない機体は、格好の的だ。 ダブルオーライザーはどうやっても、新型を投入しても潰せない。 だが、他の機体ならば集注火砲を浴びせ、トランザムを使わせて消耗させれば、新型で囲めば潰すことができるはず。 マネキンの目論見はあたった。 トレミーと距離をとり、ガデッサを集中的にセラヴィに浴びせる。 回避すればトレミーに当たる位置で。ガデッサと同じような武器をもっているガンダムであれば、その兵器でガデッサの破壊の光に立ち向かうだろう。 無論、トレミーも避けるだろうが、ガデッサの破壊の速度には追いつけないだろう。 「ふふふふふ。クジョウ、今回は私の勝ちだな」 作戦通り、ガンダムを破壊することはできなかったが傷を負わせることができた。 今まで、傷を負わすことのできなかったダブルオーライザーまで傷を負った。戦果としては上出来だ。ダブルオーライザーが完全に沈黙しなくとも、その驚異的な破壊力が少しでもおちれば、あとはじわじわとこちらは万全を整えて、敵の力を削っていけばいい。 新型はいくつでもある。それだけの財力をアロウズは誇っている。 撤退していったアロウズと同じように、ガンダムたちもトレミーに収容された。 「派手にやられたな」 イアンが、もがれてしまったセラヴィの右足を見ていた。 それぞれ、コックピットから出てくる。 ティエリアは、右足をもがれた衝撃で頭をうち、ヘルメットで保護していたものの、ヘルメットも歪んでいた。 「ティエリア!」 ライルが、コックピットから降りて、膝をついたティエリアのヘルメットを脱がす。 頭を切っていた。 ポタポタと、格納庫の床に血が滴る。 酷い出血に、すぐに医療チームが呼ばれる。 「刹那?」 一向に、コックピットから出てこない刹那を心配して、アレルヤがコックピットを開ける。 「刹那!!」 悲鳴が響いた。 「医療チーム、ティエリアよりもまずは刹那を!!」 担架で下ろされ、ヘルメットを脱がされた刹那は負傷して意識を失っていた。 「刹那!!」 ティエリアが、止血されながら刹那に手を伸ばす。 ライルが、そんなティエリアを抱きかかえて、刹那の元に連れて行った。 「刹那ぁ!」 ティエリアが泣き叫ぶ。 刹那は、頭部の負傷のほかにも、右目に酷い怪我を負っていた。 すぐに、応急処置が施される。 人工呼吸器をつけられ、運ばれていく刹那に、ティエリアは泣き叫んで手を伸ばした。 「刹那、刹那、刹那!」 医師が、ティエリアの手当てをしようとやってくる。 ライルの腕に抱かれたまま、ティエリアは泣き叫んでいた。 ティエリアの体が担架に乗せられる。 それを無理やり起き上がろうとする。 「おい、無理すんな」 「刹那のところに行かなくちゃ!」 「だめだよ、ティエリア!」 アレルヤが、起き上がろうとする刹那の体を制する。 「僕、刹那のところに行ってくるね」 アレルヤが走り出す。 ティエリアは、まだ出血の止まらない頭の傷はどうでもいいように、ドクターを仰ぎ見る。 刹那の傷の応急処置をしたドクターだ。 「ドクター、刹那の傷の具合は」 「頭部の裂傷はそれほど酷くない。酷いのは右目の怪我だな。眼球をやられていた。右目は失明だな」 右目の眼球をやられていた。 つまりは右目の失明。 それは、つまり。 自分を庇って、傷ついた刹那。 デジャヴ。既視感。いや、すでに体験をしたことがある。デジャヴではない。 以前にも、こんなことがなかっただろうか。 自分を庇って、傷ついた大切な人。 右目を失明してしまった。 ロックオンは、ティエリアを庇って右目を失明した。 そして、命を落とした。 右目を失明していなければ、その命は助かった。 デジャヴではないデジャヴ。 重なる現実。 ロックオンの傷と、刹那の傷が重なる。 ティエリアは、喉から血が溢れんばかりに絶叫していた。 「いやあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」 暴れだす体を、驚いてライルが抱きとめるが、止まらない。 「いやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!」 「鎮静剤の用意を!」 「しっかりしろ、ティエリア!」 「いやああああああああ!!!!!!!!」 激しい絶叫と、出血するのも構わずに暴れまくる。 すぐに、数人の医師におさえられ、血管に強い鎮静剤が投入された。 ティエリアは、時折錯乱することがあるので、鎮静剤は必須であった。 「あああああああーーーーー!!!」 四肢から力をぬけていくのを遠くで感じながら、ティエリアは石榴の瞳から大粒の涙を溢れさせ、絶望に声をあげていた。 それは、ティエリアが鎮静剤の効果で意識を失うまでずっと続いていた。 NEXT |