デジャヴ−記憶の欠片−「自からを殺す行為」







「止めろ!」
銃は、ライルの手によって奪われ、壁に向かって発砲されていた。
「嫌だ!死なせてくれ!」
「ティエリア!!」
ライルの手によって、銃が奪われる。
今度は、ティエリアはサバイバルナイフを取り出して、首の動脈にあてた。
それも、ライルが鋭い刃の部分を掴んで遮る。
「あああああ」
ライルの手から滴っていく血を見て、ティエリアがガクガクと震えながら、ライルに手に破いたシーツを巻きつける。
「お願い、死なせて」
サバイバルナイフの次は、短剣だ。
手の動脈にあてようとしたところを、それもライルによって奪われた。
「ティエリア!」
ぎゅっと、抱きしめられた。
「もう嫌なんだ。ロックオンのように、刹那が死んでしまった。僕を置いていかないと約束したのに!死なせてくれ!」
「ティエリア!!」
ライルが、ティエリアの両手を戒めるように、シーツで後ろにまとめた。
「甘いよ」
ティエリアは、舌を噛もうとする。
それさえも、ライルが指を口の中に入れることで阻まれた。
ライルを傷つけたくない。巻き込みたくない。
ティエリアは泣き叫んだ。
「どうして死なせてくれないんだ!」
「愛しているからだ!」
「あなたの愛なんていらない!」
「それでも、愛しているんだ」
泣き叫び、暴れるティエリアの体を抱きしめる。
「僕は、刹那さえいてくれればそれで良かったんだ!それ以上は何も望まないのに!刹那が死んでしまった!」

「ティエリア、刹那が一命を取り留めたよ!」
アレルヤが、ティエリアに知らせるために部屋にきて、そのあまりの光景に声を失った。
首の動脈をかききろうとして、首筋には浅くはない傷ができているし、同じように手首も動脈を切ろうとしたいくつもの傷が血を溢れさせている。
ライルの手も血で真っ赤に染まっていた。
「刹那が、生きて?」
ティエリアの虚ろだった石榴の瞳が、輝きを取り戻す。
「アレルヤ、ドクターを呼んできてくれ。鎮静剤を打たせる」
「う、うん」
アレルヤは急いでドクターを呼んできた。
ドクターは、ティエリアの様子に顔を蒼くしながら、鎮静剤を投与する。

「刹那は生きてる。だから、ティエリア、お前も生きろ。死のうとするな」
「ライル・・・・ごめんなさい、ごめんなさい」
「いいから。今は落ち着け」
「はい・・・・」

気を失ったティエリアの体を抱き上げて、医務室まで運ぶ。
ライルの手の傷も診る必要があるので、そのままドクターは一緒に医務室にいった。

「あのティエリアが、自分から命を絶とうとするなんて」
一人残されたアレルヤは、ショックで茫然自失としていた。

ティエリアは、深く眠った。
ライルは、ずっとティエリアに付き従って看病している。

アレルヤは、治療カプセルに入れられた刹那を見ていた。
「ねぇ、刹那、早く戻ってきてよ」
ポタポタと、アレルヤの頬を涙が滴った。
心拍停止が長かったために、刹那はドクターから脳死を言い渡されていた。
その事実を、どうやってティエリアに告げればいいのだろう。
告げてしまえば、きっとティエリアはまた自殺しようとするはずだ。
「ねぇ、刹那。ティエリアはライルじゃ救えないんだ。君しか無理なんだ戻ってきて」
カプセルにはりついて、人工呼吸器をつけられた刹那を見下ろす。
アレルヤの頬を、幾筋もの涙が伝い落ちた。

ティエリアも、泣いていた。
眠ったまま、瞳を深く閉ざして、涙を流していた。


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