螺旋する感情「自己犠牲のエメラルド」







次の日、昼までティエリアは眠っていた。
ずっと、ライルが傍にいてくれた。
目が覚めた時、穏やかな表情のライルの顔がそこにあった。優しいエメラルドの瞳。
デジャブではないデジャブ。
目が覚めると、昔はこんな風にロックオンが傍にいてくれた。
「もう昼だぜ?」
「昼!」
「起き上がろうとするのを、ライルが止めた」
「今日は完全にオフだから。ゆっくりしとけ」
「でも、刹那との約束があるんです」
「そっか。じゃあいってこい。もう大丈夫だな?」
抱きしめられ、唇を重ねるだけのキスを受けた。
「はい。迷惑をかけてすみませんでした」
「また辛くなったらいつでもこい。慰めることしかできないけど、傍にいてられることはできるから」
「はい」
どこまでも、優しいライル。
涙が零れそうになるのを、必死で我慢した。
扉を開けると、そこに刹那が腕を組んで険しい表情でたっていた。
「刹那」
ティエリアの姿に、目を見張る。
ポレロを片手に、下の服は裂かれている。間から黒のベストがのぞいていた。
両手首には、鬱血したような蒼い痣(あざ)ができていた。泣きはらした紅い目。
けだるげな表情。

刹那は、全身の血が沸騰するのを感じていた。
「ライル、出て来い、ライル!」
「刹那、これは」
「ティエリアは黙っていろ」
出てきたライルに、刹那が詰め寄る。
「ティエリアに何をした!」
さっきまでの優しかったエメラルドの瞳が、嘘のように残酷に輝きだす。
「見れば、分かるだろ?」
「まさか」
「お前さんが悪いんだぜ?ティエリアを不安にさせるから」
「貴様!」
刹那の拳を、ライルは軽くかわした。
「言ってやろうか。俺は、ティエリアを無理やりレイプした」
「ライル!!」
ティエリアが叫ぶ。
「この最低のクズ人間が!懲罰室で独房入りを覚悟しておけ!」
刹那が、ティエリアの手をとって駆け出す。
「違うんだ、刹那、これは」
「黙っていろ!」
酷くあれた刹那に、ビクリとティエリアが怯える。
そのまま、ティエリアを自分の部屋に連れてくると、刹那はティエリアをベッドに突き飛ばし、抱きしめた。
「ちくしょう、ちくしょう!!!」
刹那は、涙を零していた。
何度も何度も、ティエリアを強く抱きしめる。
「どうしてだ!」
「刹那、僕はライルにレイプなんてされていない」
「いいから、黙っていろ」
刹那は、ティエリアの言葉を信じなかった。
だって、ティエリアは泣いていたから。それに、酷く傷ついた顔をしている。
様子から見ても、無理やりレイプされたようにしか見えなかった。
「お前を守るから!俺が、お前を守るから!」
「刹那」
唇が重なる。
舌が交差する。
「ん・・・・」
優しい刹那のキス。
刹那は、それ以上はしてこなかった。
ただ、涙を零してティエリアを抱きしめる。

もう、二度と離さない。
傷つけさせない。
ティエリア。

刹那が薬を噛み砕き、ペットボトルの水を含んでティエリアに飲ませた。
ティエリアは、熱を出していた。
微熱ではあるが、以前のように危険ラインまで熱があがる可能性がある。
そのまま、解熱剤と医師から処方されていた睡眠薬を噛み砕き、飲ませる。
睡眠薬に弱いティエリアの体は、すぐに深い眠りに落ちていった。

「刹那」
ティエリアは、熱にうなされながら刹那の名前を口にしていた。
ライルは、独房に2週間閉じ込められることとなった。
原因は、ティエリアと喧嘩をしたということになった。

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