「ティエリアは連れて行かせない」 リジェネが、開け放たれた窓から身を乗り出すと、室内に滑り込んだ。 ボッと、何もない空間を鬼火のように蒼い炎が乱舞する。 「やめて、兄さん!」 ティエリアが叫ぶ。 蒼い炎は、リジェネの魔力によって生み出されたものだ。 「ティエリア、ティエリア。僕とずっと一緒に、この城にいてくれるね?」 「痛い!」 ギリギリと手首を掴まれて、ティエリアが悲鳴をあげた。 「ティエリアを離せ。たとえ実の兄であろうとも、ティエリアの自由はティエリアの意思によるものだ。誰かが強制していいものじゃない」 「お前なんかに何が分かる!」 威嚇のように、蒼い炎がロックオンに襲い掛かった。 「やめて、やめて!」 ロックオンは、蒼い炎に包まれた。 「いやだぁ、ロックオン!」 「はははは、そのまま燃えちゃえよ」 リジェネが狂ったように笑い声をあげる。 「残念だったな」 「なんだと!」 蒼い炎は、ロックオンを燃やし尽くすことなく、途中で消えてしまった。 「忘れたのか?俺は元々ヴァンパイアハンターだぜ。強い魔力を持つヴァンパイアに対しての免疫がなくちゃ、ヴァンパイアハンターは務まらない」 「くそ」 リジェネは悪態をつくと、真紅の翼を伸ばした。 そして、風がうなる。 真空の刃が、リジェネの手首を裂いた。 そこから溢れ出る血が、真紅の刃をなって、ロックオンに遅いかかる。 ロックオンは、全ての攻撃をかわした。 「薄汚い人間が!死んでしまえ!」 リジェネの瞳は、狂気に歪んでいた。 先刻、血を啜って殺した人間のように、この人間も殺してしまえ。 真空の刃と、真紅の刃が交差する。 ロックオンも、ただ交わすだけでは埒があかないと分かったのか、ブーツの底から剣の柄を取り出した。 光が溢れる。 ヴァンパイアハンターである証の、光の剣。 ロックオンは、光の剣で次々に遅いかかる刃を打ち落とす。 キィン! カキィン! 金属質な音が響いた。 「リジェネだな。お前は、王室から大量殺戮容疑で指名手配が出ている。このまま死んでもらう」 ロックオンの光の剣が、リジェネを襲う。 「止めて二人とも!」 ティエリアは泣き叫んだ。 ティエリアも、真紅の翼を羽ばたかせた。 そして、もちうる最大の魔力をもって、蒼い薔薇を咲かす。 蒼い薔薇が散った。 散った場所から結界となり、ロックオンとリジェネを閉じ込めた。 「ティエリア!」 リジェネが歯軋りする。 「ティエリア!」 ロックオンが、叫ぶ。 魔力が高いといっても、それは双子の半身であるリジェネも同じことだった。 狩りをしてきたばかりのリジェネと、ただ生命力を分け与えられただけのティエリアとでは、差ができる。 血は、魔力の源である。 人の血こそ、魔力の最大の源だ。 それを啜ってきたリジェネと、ティエリアとでは差があった。 リジェネが、自分を閉じ込めた結界を割った。 硝子が弾けるような音がした。 「ティエリア!」 ロックオンが叫ぶ。 同じように、光の剣をもって、結界を破壊した。 ヴァンパイアハンターの光の剣は、ヴァンパイアの魔力を吸い取るようにできていた。 「リジェネ、悪いがお前にはここで死んでもらう」 光の剣が、ティエリアに近づこうとしていたリジェネの腕を切り落とした。 ジュウウウ。 嫌な音をたてて、切り落とされた腕が灰となる。 リジェネは白い牙をのぞかせた。 「たかが人間如きが!調子に乗るな!」 リジェネが放った真空の刃が、ロックオンの髪を削ぐ。 そして、真紅の刃がロックオンの右肩に突き刺さった。 「く・・・」 ポタポタと血を滴らせて、ロックオンがティエリアを背後に庇ったまま後退する。 ニヤリと、リジェネが笑んだ。 「死ねよ!」 真空の刃が遅いかかる。 ロックオンの手から、光の剣が弾きとんだ。 いまだとばかりに、いくつもの真紅の刃がロックオンを遅う。 絶体絶命か。 ロックオンが目を瞑ったその時。 背後にいたティエリアが動いた。 「ロックオン!」 刹那。 舞い散る蒼い花びら。 咲き乱れる蒼い薔薇。 ハラリハラリと散っていく、蒼い花びら。 真紅が、部屋を彩った。 美しい、薔薇よりも美しい真紅。 錆びた鉄の匂いに、リジェネが綺麗な顔を醜く歪ませた。 「ティエリア!!」 叫び、駆け寄る。 流れ落ちる真紅の血は、通常ならばすぐに持ち主に吸い取られるのに、真紅の血はじわりと広がっていく。 リジェネが狙ったのは、ロックオンの心臓。 それを間違いなく、真紅の刃が貫いた。 誰でもない、庇ったティエリアの心臓を。 NEXT |