それは神の子ではなく「再生」







「あはははは」
リジェネは、壊れたように笑い出した。
そして、蒼い薔薇を踏みしめる。

「ティエリア、ティエリア、ティエリア」
踏まれても、蒼い薔薇はすぐに再生した。

「僕は、ティエリアの双子の兄であれて幸せだったよ。ねぇ、ティエリア。大好きだよ。愛しているよ。君の罪を背負って、僕は生きた。君が罪を背負うことはなかったから、君の分まで僕は人を殺した」
また、蒼い薔薇に口付ける。
淡い蒼の光に満たされるリジェネが痛々しくて、ロックオンは口を閉ざしたままだった。

「僕の中に流れる始祖の血を、全部あげる。奇跡をもたらす蒼い薔薇に。888日だ。ティエリア。君が死んで、今日はちょうど888日目」
リジェネは、どこからか短剣を取り出すと、それで自分の心臓を刺した。
「リジェネ!」
「触るな!」
駆け寄ろうとしたロックオンを、強い台詞で制する。

「さぁ、蒼い薔薇たちよ。愛を誓う者の血を吸い取って狂い咲け」

蒼い薔薇が、リジェネを包み込むように咲き乱れた。
リジェネの血を吸って、花を咲かす。
その光景の異様さに、ロックオンが凝視していられないようだった。

「何、違うとこみてんだよ、人間。これは、お前が見るべきものだ。目を背けるな」
「リジェネ」
「伝承は、蒼い薔薇と真実の愛と888日という日があれば、ヴァンパイアを人間にするというものだ。始祖の血をもてば、そこから更に追加ができる。真実の愛と、蒼い薔薇と、強い魔力と、始祖の血と、そして888日。真実の愛は一つだけじゃだめだ。二つじゃないとダメだ」
リジェネは熱にうなされたように、独り言をしゃべっていた。

「リジェネ、死ぬぞ!」
「ばーか。再生するんだよ」
「再生?」
「見ていれば分かる」

蒼い薔薇が、凝縮し、固まっていく。
それは、人の形をしていた。

「!?」

「さぁ、僕の血を残らず吸い取ってしまえ」

その言葉通りに、蒼い薔薇はリジェネの血を吸い上げた。
やがて、限界がきたリジェネは灰になっていく。

「リジェネ!」

ロックオンの足は動かなかった。
リジェネの血を吸って、凝縮した蒼い薔薇が形作る影を、見てしまったから。

「愛しているよ、ティエリア」
リジェネは、さらさらと灰となって崩れていく。

羽ばたかせる真紅の翼もなく、凝縮された薔薇は人の形となり、ひとりの人間となった。

真実の愛。

なぜ、リジェネがその言葉に拘ったのか分かった気がした。

「兄さぁぁぁぁん!!!!」

涙を零す、裸のティエリアに、ロックオンは枯れていく蒼い薔薇を踏んで、ベッドの毛布を羽織らせる。
声が響いた。

(真実の愛と、蒼い薔薇と、強い魔力と、始祖の血と、そして888日。真実の愛は一つだけじゃだめだ。二つじゃないとダメだ。二人揃って、はじめて愛は形となる。これが、一族に伝わる再生の魔法。再生するためには、最も近しい者の魂を捧げなければならない。最も近しいのは、半身であるこの僕)

「リジェネ兄さん!」

(ティエリア、幸せにおなり。ヴァンパイアではなく人間としてだけれども。限られた生を、精一杯生きるんだ。幸せに、ティエリア・・・愛しているよ・・・僕の半身)

「リジェネ兄さん!」

サラサラと灰となってくずれていく兄の姿に手を伸ばす。
ティエリアは、灰を抱きしめると、泣き叫んだ。
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!」

(愛してるよ、ティエリア。幸せにね)
そのまま、声は灰と一緒にかき消えた。


NEXT