月日はあっという間に過ぎ去っていく。 それから二年の月日が過ぎた。 ティエリア、ロックオン、アレルヤ、刹那はそれぞれガンダムマイスターとして世界に武力介入を開始した。 二年が経ち、ロックオンは24歳になっていた。 だが、ティエリアの容姿は一向に変わらない。二年前、初めて会ったときのまま、時間を止めてしまったかのように、成長することは一向になかった。 アレルヤと刹那は見違えるように成長した。アレルヤは少年から青年に、刹那は子供っぽい少年から少し大人びた少年へと成長した。 ティエリアとロックオンは、惹かれあうままに傍に寄り添った。自然と、恋人同士になっていた。 世界に武力介入をした中で、ティエリアは自分が無性の中性体であるということをCBメンバー全員に話し、そしてCBメンバーは皆そんなティエリアを受け入れた。イオリアによって人工的に生み出され存在であるというとこを知っている皆には、ティエリアの性別が男でも女でもないということは不思議なものでもないようだった。むしろ、男といわれるよりは男ではないといわれたほうがしっくりくる。 ティエリアの美貌は、以前曇るということを知らず、孤高に美しく咲き続ける。 その傍には、いつもエメラルドの瞳を優しくさせたロックオンがいた。 「愛しています、ロックオン」 「俺も愛している、ティエリア」 互いに愛を囁きあう。 ヴェーダからは、人に恋をしてはいけないと言われていた。 ヴェーダの言葉を死守するティエリアであったが、ロックオンのことだけに関しては、ヴェーダに逆らった。 ヴェーダとアクセスできるシステムルームに篭り、瞳を金色に輝かせるティエリア。 「ヴェーダ。僕は後悔していません。僕はロックオンを愛しています」 回答は、不幸になるというものだった。 「それでも構いません、ヴェーダ。僕は今、とても幸せです。生きていて良かったと思います。僕は欠陥品でもなんでもない、ただのティエリア・アーデという名の人間です」 ヴェーダが優しく答える。 自分の存在を忘れてはいけないと。遺伝子を操作され、不老不死であるティエリアは人間社会の中で生きても、最後は一人になってしまう。その覚悟を忘れてはいけないと。 「忘れたわけではありません、ヴェーダ。確かに、僕は人間ではないのかもしれない。最後は一人になるのかもしれない。けれど、今という時間を大切にしたいのです。理解してください、ヴェーダ」 ヴェーダはティエリアを優しく包み込む。 まるで聖母マリアのように、それ以上ティエリアに指示を出さず、人間として幸福に生きなさいと綺麗な女性ソプラノの声で語りかけてくる。 脳の中に直接うつるヴェーダの姿は、バーチャル装置のAIマリアと同じような銀色の乙女だった。 ティエリアを優しく腕(かいな)に抱き、相手を大切にし、最後まで幸せに生きなさいと銀色の乙女は涙を流した。ティエリアも泣いていた。ヴェーダが送ってくるデータの姿に優しく包み込まれたまま、ティエリアはとめどなく涙をあふれさせた。 「ありがとう、ヴェーダ。僕の半身」 シルテムルームから出る。まだ、瞳は金色に輝いたままだ。 涙は止まらない。 ティエリアは、そのままロックオンの部屋にやってきた。ロックは解除されたままだ。勝手に中に入ると、ベッドに寝転んで雑誌を読んでいたロックオンが驚いて起き上がった。 「どうした、ティエリア。何かあったのか?」 「いいえ」 「だったら、どうして泣いてるんだ」 「幸せだからです。僕は、ロックオン、あなたに出会って人間になりました。後悔はしていません。人間として、このまま生きていこうと思っています」 「ティエリア」 ロックオンの腕が伸びて、ティエリアの腰に回される。 そのまま、深く口付けしあった。 「愛している、ティエリア」 「僕も愛しています、ロックオン」 「俺がお前さんを守るから。ずっと傍にいる。一人にはしない」 「本当に?」 涙でぬれた石榴の瞳。 エメラルドの瞳は全てを包み込むように、深い愛に満ちていた。 そのまま、ロックオンのベッドの横にもぐりこむ。 二人は、互いの体温を確認しあうように優しく抱きしめあう。吐息が近い。 ティエリアはまた涙を零した。 「ずっと、僕の傍にいてください、ロックオン。あなただけを愛しています」 「ああ、誓う。何万回だって言うさ。俺は、お前を愛している。世界中の誰よりも、一番お前を愛している。お前以外の何もいらない。ティエリアが傍にいてくれれば、それだけでいい」 「僕も、あなた以外のなにもいりません。あなただけが傍にいてくれるのなら、それだけで十分に幸せです。僕は、本当にあなたに会えて良かった」 ティエリアは、石榴の瞳を金色に輝かせると、髪をかきわけた。 そして、白いうなじを見せる。 「これが、僕が生きている証です。NO8。シリアルNO8のティエリア・アーデ」 白いうなじには、かすかに金色に光ってNO8という紋章が浮かび上がっていた。 ロックオンはその部分を撫でると、キスをした。 泣いているティエリアの唇と唇を重ねる。 「愛している、ティエリア」 「愛しています、ロックオン」 無性の天使は、翼を少しづつ溶かして人間になっていく。 深い深い愛によって。 無性の天使は、禁断のままに人間を愛した。 無性の天使の翼が、白く溶けていく。 ホワイトラヴァーズ。 白く白く、雪に埋葬されるように白く溶けてしまえ。 心まで、真っ白になるほどに、ただ白く。 NEXT |