ホワイトラヴァーズ「幸福の代償」







そのまま、世界に武力介入していくCB。
時は過ぎ去っていく。
幸せな時間。愛を囁く時間。暖かな温もりを共有できる時間。
それが過ぎ去っていく。

「ヴェーダ!ヴェーダ!」
シルテムルームで、ティエリアは悲痛な叫び声をあげた。
いつものようにアクセスすれば、いつでもヴェーダは答えてくれた。この回答がない。
ティエリアは、ヴェーダとアクセスすることができなくなっていた。
ヴェーダを失ったティエリア。
まるで、翼をもがれた天使だ。
泣き叫び、錯乱しそうになるティエリアをロックオンが支えた。
まるで、人間に恋をしてしまった代償のように、ヴェーダが永久的にティエリアから去ってしまった。
捨てられたのだろうか、僕は。
ヴェーダの指示を無視して、ロックオンを愛してしまった代償なのだろうか、これは。
「ロックオン。僕を捨てないで下さい」
「誰が捨てるかよ」
いつにも増して、ティエリアは深くロックオンに依存するようになっていた。
怯えた幼子のように、精神的に未熟な部分を曝け出す。
「もう、僕にはあなたしかいないんです。お願いだから、僕の前から消えたりしないで」
「大丈夫だ、ティエリア。俺はヴェーダじゃない。ちゃんとティエリアの傍にいる」
ティエリアは、ロックオンに抱きしめられたまま、泣きつかれて眠ってしまった。ロックオンは、ゆっくりとティエリアの紫紺の髪をなでる。サラサラと音をたてる髪。
そして、ティエリアが眠ったことを確認して、夕食をとっていなかったために、ロックオンは食堂に向かった。
食堂では、アレルヤと刹那が夕食をとっていた。
「ティエリアは?」
「泣きつかれて眠ってる」
「そうか」
刹那が、目を伏せた。
ティエリアがどれだけヴェーダに依存しているのか知っている刹那は、しかしティエリアにかけるべき言葉が分からなくて、全てをロックオンに任せていた。
「あんたは、ティエリアの恋人だろう。ティエリアを、幸せにしてやってくれ」
コップの水を飲み干す刹那に、ロックオンははにかんだ。
「言われなくても分かってるさ」
「ティエリアはロックオンを選んだから。僕たちじゃどうしようもできないんだ。僕からもお願い。ティエリアを救ってあげて」
アレルヤが、哀しそうに目を伏せる。
アレルヤがいくら言葉をかけても、ティエリアは平気だというだけで、一人にしてくれと逃げる。
そして、ロックオンの前では子供のように泣きじゃくる。
愛した人に完全に心を開いている証だった。
「僕は、ティエリアの恋人がロックオンで良かったと本当に思うよ。ロックオンは、ティエリアをとても大切にしてくれるから」
「俺も、そう思う」
刹那が、空になったコップをテーブルの上に置いた。
しばしの沈黙。
「俺は、ティエリアを誰よりも愛している。ティエリアを幸せにするのは俺の義務だと思う」
「ありがとう、ロックオン。ティエリアのこと、君だけにばかり任せてごめんなさい」
「謝るなよ、アレルヤ」
「ティエリアが望んでいるんだ。ロックオンに任せればいい」

その頃、ティエリアは目覚めていた。
隣にあったはずのロックオンがいなくなって、ティエリアは石榴の瞳を大きく見開かせた。
「ロックオン、どこ、ロックオン?」
親を探す幼子のように、涙をためてふらふらと歩きだす。
衣服はいつもの服ではなく、ロックオンのシャツを一枚羽織っただけの格好で、鎖骨や首筋、それに太ももが露出していた。
そんな格好のまま、ロックオンを求めてティエリアは廊下に彷徨い出る。
そして、ふらふらと夢遊病患者のように、トレミーの長い廊下を歩いた。
「今後はヴェーダのバックアップがないことで、戦況が厳しくなるな」
ロックオンが、刹那とアレルヤと、今後のことについて語っていた。
「確かに、ヴェーダのバックアップがないときついね。でも、僕たちはそれでも戦わなくちゃいけない。今更来た道を引き返すことは不可能だよ」
「当たり前だ。俺たちは、ガンダムマイスターだ」
刹那が、アレルヤの言葉に頷く。
「ティエリアは、大丈夫かな?ヴェーダなしでガンダムで戦えるかな?」
「その点は、俺も心配している」
ロックオンが、食事を続けながら、ティエリアが果たしてヴェーダなしで戦えるのかどうかとても不安な様子だった。
今のティエリアは、親を失った幼子だ。
あんな状態で、果たして敵襲があったときに、まともに戦えるのだろうか。

シュン。
食堂の入り口が開いて、皆が自然とそちらを見る。
そこには、裸足のティエリアが体を小刻みに震わせて立っていた。
「ロックオン、嫌だ、僕を捨てないで!」
その場に蹲って、ティエリアは嗚咽を漏らした。
気丈なティエリアしか知らないアレルヤと刹那は声を失った。
ロックオンが、食事を中断して、ティエリアに駆け寄る。
「勝手に一人にして済まなかった。もう大丈夫だ。ずっと傍にいるから、安心しろ」
「はい・・・・」
ロックオンの首に手を回す。
ロックオンは、そのままティエリアを抱きかかえて、食堂を出た。
「ティエリア・・・・」
「ティエリア」
アレルヤと刹那が、はやくいつもの無愛想なティエリアが戻ってきてくれるように、一心で祈っていた。
「僕はあなたなくしてはもう、生きていけません」
「大丈夫だ。俺はいつでもティエリアの傍にいるから」
そのまま、ロックオンは自分の部屋の前にくると、ティエリアをベッドに横たわらせた。
「ちょっと待ってろよ。お腹すいただろ?俺も食べかけだし。夕食もってくるからな。少しの辛抱だ。待っていられるな?」
「ちゃんと帰ってきてくれますよね?」
「ああ、すぐに帰ってくる」
「はい、待っています」
「いい子だ」
ロックオンはティエリアの頭を撫でると、口付ける。そして、毛布を羽織らせた。
ロックオンは、そのまま急いで食堂に戻ると、ティエリアの分の食事と食べかけだった自分のトレイを両手に、自分の部屋に戻った。
部屋では、ティエリアが大人しく待っていた。
「おかえりなさい」
「只今」
トレイをテーブルの上に乗せると、ぎゅっとティエリアがロックオンのジャケットを掴んだ。
「ティエリア?」
「迷惑ばかりかけてごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい・・・・」
泣き崩れるティエリアに、ロックオンは口付ける。
そのまま、二人でロックオンの部屋で夕食をとった。
就寝時間になる。
ティエリアは、毛布を脱いだ。
「ティエリア?」

「僕に、あなたをください」


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