ロックオンの緊急オペは終わった。 幸いなことに、命に別状はないのだという。 ロックオンは、医療カプセルに入るのを拒んだ。 「ティエリアに心配をかけたくない」 ドクター・モレノから許可をもらい、自室で治療に専念することとなった。右目を失ったが、再生治療は時間がかかるため、それもロックオンは蹴った。 再生治療に身をゆだねると、ティエリアと離れ離れになることになる。 ロックオンは、誓ったのだ。 誰でもない、ティエリアに。絶対に、一人にはしないと。 「全く、お前さんにはついていけないわ。鎮痛剤をちゃんと服用しろよ」 ドクター・モレノから鎮痛剤を受け取って、ロックオンは自分の部屋で大人しくしていた。 右目には、痛々しい包帯が巻かれていた。 「いるんだろう?入って来いよ」 ロックオンの扉の前に立っていたティエリアに、ロックオンがいつもの調子で声をかける。 ティエリアは、中々部屋に入ってこなかった。 「入ってこないなら、俺から迎えに行くぞ?・・・あいてて」 無理に体を動かそうとして、痛みに眉をしかめる。 「動かないで下さい!ダメです!!」 ティエリアがロックオンの部屋に入ってくると、ロックオンが起き上がるのを途中で止めさせる。 「やっと、会いにきてくれたな。ずっと待ってたんだぜ?」 ロックオンの手が伸びる。 優しく、ティエリアの紫紺の髪をすく。 ポタリ、ポタリ。 ティエリアは、石榴の瞳を大きく揺らしたかと思うと、声もたてずに泣き始めた。 「おいおい、泣くなよ」 そのまま泣きながら、ぎゅっとロックオンに抱きついた。 「本当に泣き虫だな」 ティエリアの目は真っ赤だった。 ロックオンが意識を回復しない間、ずっとベッドの傍にいて、泣いていたのだと聞かされた。 「大丈夫だって」 「でも、僕を庇ってあなたは大怪我をした」 「俺が勝手にしたんだ」 ティエリアは首を大きく左右に振った。 「僕を庇わなければ、あなたはこんな怪我を負わずにすんだのに!」 「俺は、ティエリアを守りたかった。だから守った」 「ロックオン!」 ティエリアが、泣きじゃくる。 「愛しています。どうか、死なないで。僕のためなんかに、その身を犠牲にしないで」 「死にはしないさ。ティエリアを残して死んだりしない」 「本当に?」 「ああ、約束する」 「では、永遠の誓いを。僕を一人にはしないという、永遠の近いを僕にください」 「どうやって誓えばいい?」 「キスを・・・」 ロックオンは、手を伸ばしてティエリアの頬に手を当てると、その桜色の唇にキスをした。 「契約は成立しました。どうか、破らないで下さい」 「ああ、破らないさ」 「ロックオン、あなたの右目はもう・・・・」 新しい涙が、ティエリアの頬を伝う。 「なぁに、再生治療を断っただけだ。命があれば、いつかちゃんと再生治療を受けるよ」 その言葉に、ティエリアが顔を上げる。 「本当に?」 「ああ、流石に利き目を失うのは不便だしな」 「良かった」 安堵したティエリアは、ロックオンの包帯の上からそっとキスをする。 「・・・・っ」 ロックオンの秀麗な顔が歪む。 「すまねぇ、テーブルの上にある鎮痛剤とってくれ。切れてきやがった」 「はい、これですね」 ロックオンは、ティエリアの手から鎮痛剤を受け取ると、水と一緒に飲んだ。 一時は泣きやんでいたティエリアであったが、気づけばその石榴色の瞳からまた大粒の涙を幾つも溢れさせていた。 「あなたの痛みを、僕に下さい」 「おいおい、無理いうな」 「あなたの変わりに、僕が右目を失えば良かった」 「無茶いうなって」 鎮痛剤がきいてきたのか、ロックオンが傷みでしかめていた顔を元に戻す。 綺麗なエメラルド色の瞳は、片方だけになってしまった。 いつの日か、また両目で見つめられる日がくることを、心からティエリアは望んだ。 「僕が、あなたの右目になります」 「ティエリア」 「あなたを愛した罰は、僕が受けるべきなのに」 「人を愛するのに、罪も罰もねぇよ」 「だけど、僕はヴェーダの指示に逆らってあなたに恋をしました」 「それでいいんだ。俺に恋をしてくれたから、今のティエリアがいる」 「ロックオン。誰よりも、あなたを愛しています。あなただけしか望みません」 「俺も、ティエリア以外は望まない」 ポロポロポロ。 ティエリアはまた涙を零した。 「おいおい、そんなに泣くなって」 「あなたを愛してしまってごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」 「謝ることじゃないだろ?」 「だって、僕はあなたに取り返しのつかない傷を背負わせてしまった」 「大丈夫だって。ちゃんと、戦いが落ち着いたら再生治療を受けるから。だから、そんなに泣くな」 「あなたの痛みを、僕も感じたい」 「ティエリア」 「あなたの痛みを、僕に下さい」 ロックオンは、ティエリアと唇を重ねた。 ホワイトラヴァーズ。 恋人たちよ、白く白く染まっていけ。 まるで雪に埋葬されるように、真っ白に埋まって。 白く白く、どこまでも白く。 翼が溶けていく。愛が溶けていく。 白く輝きながら。 ホワイトラヴァーズ。 心の底までも、体さえも白く染まって。 白く、白く。 沈んでいく。 NEXT |