「僕の名前が」 ニールは、ティエリアの頬にキスをした。 「どうせ付き合うなら、結婚前提でいかないか。お前をアルマークなんかの嫁にしたくない」 「でも、おじい様が」 「それで、一生を棒に振るつもりか?」 「いいえ!いいえ!」 ティエリアは泣きながら首を振った。 「アルマーク家の嫡子は、異常な性癖で有名だ。SM好きらしい」 「そ、そんな・・・・」 ティエリアが青ざめた。 「そんな男の元に、かわいい孫娘を嫁に出すじじいの気がしれないぜ。リボンズの前の婚約者は、リボンズのSM行為のせいで、精神的に壊れて、今もずっと精神病院に入院しているって聞く」 「あ、あ、僕、嫌です。アルマーク家の嫁になんてなりたくない!」 ぎゅっとしがみついてくる華奢な体を抱きしめながら、二人は互いに付き合い、将来を結婚することをその場で誓いあった。 「僕なんかで、いいのですか?」 「それはこっちの台詞だ。俺なんかでいいのかよ?」 二人は、キスをした。 そのまま、午後の授業を一緒に受ける。 帰宅時間になり、高級車がティエリアの迎えにやってきた。 そのまま別れる。 ニールは自分の車を運転し、家に帰った。 「兄貴、アーデ家のご令嬢と大学でいちゃいちゃしてたそうだな。やるな」 帰宅すると、ライルがからかってきた。 「ああ、覚えてないか?ティエリアだ」 「ティエリア、ティエリア・・・・・って、げ、施設にいたあのティエリアか!?」 驚愕に目を見開くライル。 「そうだ。なんでも、母方がアーデ家の人間だったらしい。かけおちして、それでティエリアが生まれたんだってさ」 「マジかよ。あの男女なティエリアが、アーデ家のご令嬢?信じらんねぇ」 「俺も、未だにちょっと信じられない。ついでに、ティエリアと結婚前提で付き合うことになった」 「はぁ?」 ライルが、持っていた雑誌を落とした。 仕方のない反応だろう。 「冗談きついぜ兄貴。アーデ家のご令嬢の婚約者は、あの悪名高きリボンズ・アルマークだろ?」 「あくまで、婚約者はな。今度、正式にアーデ家に挨拶に伺うことになった。父さんも母さんも反対どころか、応援してくれてる」 「そりゃなぁ。アーデ家と結婚できたら、玉の輿の反対だしなぁ」 「そんなつもりはない。純粋に、ティエリアが好きになった」 「はぁ。でも、それじゃあヒリング・ケアはどうなるんだ?あの子、兄貴の婚約者だろう?」 「勿論婚約を放棄する」 「あちゃー。俺しーらねっと」 そのまま、ライルは二階に消えてしまった。 この家は、両親の住む本宅とは違う。ライルとニールのために与えられた家だった。 二人で住むには広すぎる家。 執事もいるし、住み込みのメイドだって何人かいる。 両親は世界中を飛び回っており、本宅には帰らずに、機会があるごとにライルとニールの顔を見にこの家にやってきた。 本当に、愛されていると思う。 とても恵まれた環境だ。 父親と母親に、携帯でアーデ家の令嬢と結婚を約束して付き合うと言い出したら、両親は好きにすればいいといってくれた。婚約者であるケア家のご令嬢、ヒリングとはこちら側で婚約解消をしておくとまで約束してくれた。 本当に、いい両親だ。 そもそも、婚約者といっても、ニールにその気はなく、あくまで政略結婚であった。両親も、もしも本当に好きな女性ができたら、家が貧しくとも嫁に迎えると約束してくれていた。 「ティエリアがアーデ家のご令嬢か」 自分のベッドに寝転がって、今日会ったティエリアのことを思いだす。 目を失明したのだと言っていた。その再生治療を受ける条件で、あの大学に通うことが許されたと。 ティエリアにしてみれば、祖父に決められてしまった人生の、残り少ない時間を学生として楽しく過ごしたいという健気な心からきた純粋なものだろう。 ティエリアはすぐに学校に打ち解け、その日のうちに学年も違う複数の人間と友人になっていた。 男は下心がありそうな連中が多かったが、女性は純粋に友人として接してくれるだろう。ティエリアも笑って会話をしていた。 果たして、アーデ家の、ティエリアの祖父という人物はどんな人なのだろうか。 ティエリアとニールの結婚を前提として付き合いを許してくれるだろうか。 それだけが気がかりだった。 ティエリアの両親のように、かけおちはしたくない。双方納得のいく形で、ちゃんと結婚したい。今の優しい両親のためにも、そして実の娘をかけおちと死という形でなくしてしまったティエリアの祖父のためにも。 あと気になる点といえば、アルマーク家の嫡子のことだろうが。 財政会を騒がすような騒ぎを何度も起している。婚約を一方的に破棄されて、プライドを傷つけられた相手は何かおこしてくるかもしれない。リボンズという人物は、今までにも一方的に婚約を破棄されたことが、その性癖のせいかで何度かあった。そのたびに相手を監禁したり、暴力を振るったりしている。 アーデ家は、もしも婚約破棄となった場合、ティエリアにボディーガードを間違いなくつけるだろうが、その点が心配だった。 自分は、はたしてティエリアをちゃんと守れるのか。 NEXT |