魂の重なる場所「ロックオンの遺言」







パロ注意。2期終了後、ティエリア女の子設定。

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奇跡の子。
ティエリアの子供を、CBのメンバーはそう呼んだ。
ティエリアが産んだわけではない。だが、確実にティエリアの子供であった。
ティエリアの卵子と、凍結されていたロックオンの精子で受精卵を作り、それを代理母の子宮に戻して、産まれてきた子供は、女の子だった。
完全なイノベーターとしての能力をもつその子供を、CBは奇跡の子と呼んだ。
ティエリアはロックオンの子供が欲しいと思ったわけでなかった。
確かに、ロックオンの子供が欲しいかと聞かれれば、愛した人の子であれば欲しい。だが、愛したロックオンはこの世にはもういない。
ティエリアにロックオンの子供を産むという選択肢そのものすらなかった。
実験のためと、ティエリアの卵子は摘出され、ロックオンの凍結されていた精子と受精させて代理母に出産させる。その事実を、ずっと戦いの中に身を置いていたティエリアは知らなかった。
CB研究員は、実験のためと言っていたが、生れてきた子供を本当に実験体のサンプルのように扱うことは全くなく、ティエリアの子供はCB研究員の愛に囲まれて幸せに育っていた。
ティエリアの精神的に不安定な部分を取り除くために、ティエリアの子供は人工的に生まれてきたのだ。
戦争が終われば、未来になんの希望もないティエリアは死んでしまうかもしれない。
事実、ティエリアは戦争が終われば自分の生きている目的もないと、心の何処かで死を求めていた。愛した人の元にいきたい。そんなことを口にするティエリアは、CB研究員が恐れていた通りに、掴んだ未来を噛み締めるわけでもなく、行き場所を失った子供のようであった。
ティエリアの死を、阻止するための一世一代のプロジェクトであった。

「ティエリア、君に紹介したい子供がいる」
戦争も終わり、いくあてもなくCB研究所で研究員にまじって生活するティエリアに、研究員の総司令官が声をかけた。
アレルヤはマリーと、ライルは一人で、そして刹那はティエリアと暮らそうといってくれたが、ティエリアはそれを拒否して一人でCB研究所に留まり、そのIQ180をこえる頭脳をもってして、研究員の一人として目を虚ろにさせながらも生きていた。
「誰ですか?」
「君の子供だ?」
「僕の子供?」
「そう。今から五年前、ティエリアの体から摘出した卵子と、凍結していたロックオン、ニール・ディランディの精子と受精させて、代理母に出産させた。君と、ロックオンの紛れもない子供だよ」
「!」
ティエリアは体をわななかせた。
「あなた方は、命というものを弄ぶというのですか!」
強く拒絶反応が出るだろうということも、予定範囲内だった。
「ティエリア、君は戦いが終わればその精神的な未熟さゆえに、死を選ぶかもしれない。他の研究員と相談してきめて進めてきたプロジェクトなんだよ」
「それでも、僕に勝手に内緒で子供なんて!」
「それは済まないと思っている。だが、これはニール・ディランディの遺言でもあるのだ」
「ロックオンの・・・・」
ティエリアは愕然とした。
「ニール・ディランディは自分の死を悟っていた。だが、戦う君に子供を産ませることなどできない。だからこの方法を選び、我々に託したのだ。今、録音データを解放する」
総司令官が、マザーコンピューターの電源を入れ、重用に管理していた極秘データの中から、紅いラベルのついたデータを選び、セットする。
コンピューターに、動画が映し出された。
ロックオンの姿だった。
「こんな形をとっちまう俺を、卑怯だってなじってくれ。でも、ティエリア、お前さんにはどうしても生きて欲しいんだ。俺は多分死ぬ。だから、CB研究員にお前さんの未来を託した。お前が生きるための希望を」
ロックオンは、隻眼のエメラルドの瞳を優しく輝かせている。
「最初は受け入れられないかもしれない。俺も、できればこんな方法をとらず、お前さんの傍にずっといてやりたいんだが、どうにもできそうにないんだ。ティエリア、愛しているよ。生れてくる子供は、間違いなく俺とティエリアの子供だ。愛の、結晶だ。大事に育ててやってくれ。そして、子供のためにも生きてくれ。お前さんの未来は、どうせお前さんのことだから戦争が終わったら終わりとか思うんだろう?でも、そうじゃない。また、始まるんだ。俺は女の子が欲しかったから、女の子になるように研究員には頼んである。名前ももう決めているんだ。
マリア。聖母マリアのマリアだ。バーチャル装置のAIマリアのマリアでもあるな。いい名前だろ?」
「ロックオン」
ティエリアは、とめどなく涙を溢れさせている。
「マリアと一緒に、生きてくれ。俺の分まで、幸せになってくれ。マリアを、幸せにしてやってくれ。愛しているよ、ティエリア。ずっと、ずっと」
ブツリと、映像が途切れた。
ティエリアはその場にへたりこみ、嗚咽を漏らしていた。
「ロックオン、愛しています、愛しています・・・・」
総司令官が、痛々しいティエリアの姿に胸を痛ませる。
「君は、刹那を選んでおきながら、刹那にマリナという女性がいるから身を引いた」
「僕は、彼を不幸にしたくない」
「本当に、ティエリアは不器用な子だ」
総司令官は、ティエリアの頭をなで、そっと抱きしめた。
総司令官は、ティエリアがイオリアの研究所で目覚め、覚醒し、ガンダムマイスターとなるまでの不定期な間の親代わりとなってくれた優しい男性であった。
「ティエリア、私は君を実の子供のように愛している。どうか、ニール・ディランディの言葉通り、幸せになってくれ。死にたいなどと決して口にするんじゃない」
「ファザー・・・・・」
ティエリアは、総司令官のことを昔からそう呼んでいた。
優しく抱きしめられて、ティエリアは何度も涙を溢れさせた。
ロックオンのことで泣くことはほとんどなくなっていたというのに、こんなの不意打ちすぎる。
「ファザー、僕は幸せになれるでしょうか」
「なれるとも、ティエリア。君は、幸せにならなければならない。他のガンダムマイスターたちは皆、自分で自分の幸福を掴んだ。君だけが、ニール・ディランディを失った時から変わっていない。自分の幸福のために、もっと貪欲になるべきだ」
「ファザー」
17歳のときから、時間を止めてしまった美しい少女。
周りのものがどんどん年齢を重ねていく中で、ティエリアの体は時が止まったままだ。
「さぁ、立ち上がりなさい、ティエリア。マリアは今、4歳になる。会わせてあげよう。しばらくはこの研究所で一緒に暮らすんだ。そして時期がくれば、マリアと一緒に二人で暮らしていくんだ。援助は精一杯する」
「ファザー、僕はあなたの子供でよかったです」
「ティエリア。私を父と認めてくれるのか。嬉しいよ」
総司令官も涙を流した。
ティエリアは涙を拭うこともせず、総司令官の後に静かに続いていくのだった。


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