「きゃはははは、フレドリック、変な顔!」 「待ちなさい、マリア」 小さな女の子が、CB研究所の中に設けられた大きな温室ルームで走り回っていた。 フレドリックと呼ばれた研究員が、マリアを捕まえようとしてはこけている。 CB研究員は、皆頭脳明晰の者を集めただけあるが、反面運動が苦手なものがおおい。 4歳とはとても思えない俊敏な速度で駆け回るマリアに、フレドリックは腰を打ってその場に蹲った。 「フレドリック?」 「ああもう、マリア。好きにしなさい」 「つまんない」 可愛らしい女の子の服を着たマリア。 顔はどう見てもティエリアに見える。とても美しい幼子。 髪は茶色で、瞳はロックオンと同じエメラルドだった。 マリアは温室に咲いていた花を次々と勝手に摘み取っていく。 「こら、マリア。またそんなことをして」 「大丈夫。咲かせるから」 腕の中いっぱいになった花をフレドリックに持たせ、マリアは瞳を金色のに輝かせる。 見ていたティエリアでさえも、ぞくりとするように妖艶だった。 そう、その表情も金色に瞳が変わるもの、まるでティエリアそのもの。 マリアが金色に瞳を輝かせると、温室に異変が起きた。 摘み取られたはずの花が、次々と蕾をつけて新しい花を咲かせていくのだ。時期ではない花でさえも、満開になる。 植えられた桜の木に手をあてて、マリアが口を開く。 「ねぇねぇ、咲いて。綺麗な花が見たいの」 ぶわぁぁぁ。 桜が、一面満開になり、ちらちらと桜色の花びらを降らせる。 「成功!」 「成功じゃないよ、マリア。無駄に能力を使ってはいけないよ。無限ではないのだから。また、前のように寝込んで苦い薬を飲むことになるよ」 「それは嫌」 マリアが首を振る。 「マリア」 「ファザー!!」 姿を現した総司令官に、マリアが嬉しそうに抱きつく。 「約束していた通り、お母さんを連れてきたよ」 「マザーを?」 マリアの瞳は、金色からエメラルドに戻っていた。 じっと見上げてくる瞳は、ロックオンに似ていた。 はじめ、マリアが総司令官の背中に隠れて、こそこそとティエリアの様子を見ていた。 「はじめましてマリア。僕はティエリア・アーデ」 ティエリアがしゃがみこむと、マリアがフレドリックのところまで戻ると、その手の中にあった花を腕の中いっぱいに抱えて戻ってきた。 「マザー、はじめまして。私、マリア・アーデ。マザーの子供なの。・・・・マザー、ずっと会いたかった」 ドサリと、腕の中に抱えていた花をティエリアに渡す。 「これ、マザーにあげる!」 嬉しそうに微笑むマリア。 ティエリアは、涙を零した。 「マリア・・・・僕と、ロックオンの子供」 ぎゅっと抱きしめると、マリアの大きすぎる瞳からも涙が溢れた。 「マザー!マザー!ずっと会いたかったの!愛しているわ、マザー!」 総司令官もフレドリックも涙をこぼして、感動の母子の対面を見守る。 「マザー・・・・」 泣き続けるティエリアに、マリアがぎゅっと抱きつく。 イノベーターではない、その体温。 だが、能力はイノベーター以上のものが備わっている。 花を咲かすなんて、どのイノベーターにもできなかった。 まさしく、「奇跡の子」 「マザー、私、マザーに愛されてる?」 「愛しているよ、マリア。僕とロックオンの子供だもの。愛さないはずがない」 「嬉しい、マザー!」 マリアが瞳を金色に光らせて、桜を散らす。 桜に埋葬されていく二人。 桜はすぐに新しい花をつけて、また花びらを散らしていく。 いつまでも、いつまでも、桜色の吹雪が舞い散っていた。 NEXT |