「マザーって子供みたい」 食堂で、ピーマンを残してしまったティエリアの隣で、お子様ランチを食べながらマリアが笑う。 「ピーマン嫌いなの、マザー」 「それは・・・」 子供の前で、好き嫌いをだしてしまうなど、親としては失格だ。だが、嫌いなものは嫌いなのだ。 マリアがフォークを伸ばして、ティエリアが残したピーマンを食べてしまう。 「マザー、好き嫌いはよくないよ。ファザーにいつも言われているの」 「ファザーが・・・」 総司令官は、幼いマリアの父親代わりでもあった。 「私の本当のファザーは、ニール・ディランディっていうすっごいかっこいい人なんだってファザーがいってたよ」 いけない。 わかってはいても、実の子供も口からニールの名前を聞いて、ティエリアは涙を零した。 「マザー、どこか痛いの?」 「ううん、違うんだ。僕は、ニールの名前を聞くとよく泣いてしまうだけなんだ」 「マザー、泣かないで」 マリアの小さな手が、ティエリアの服を掴む。 「ごめんね、マリア」 小さなマリアの体を膝に抱きかかえる。 「マザー、愛しているわ」 マリアは、可憐な表情でティエリアの頬にキスをする。 ティエリアも、マリアのおでこにキスをした。 マリアの服は、ゴシックロリータがはいったものがほとんどで、なんでもロックオンが生れてくる子供のためにと買い集めていたそうだ。 あの人は、何気にゴシックロリータの服が好きだったからな。 ティエリアも何回も着たことがあるので、別に不思議ではなかった。 「マリア、ヘッドフリルがもつれている」 「直して、マザー」 「大人しくしててね」 ティエリアが、もつれてしまったヘッドフリルのリボンを綺麗に結い直す。 マリアは足をぶらぶらさせながら、ティエリアの膝の上でティエリアが飲んでいたメロンソーダをストローから飲みだす。 「ファザーからは、マザーは男の子みたいな人だって聞いてたけど、私もそう思う」 「嫌かい?」 ユニセックスな服を着ているティエリアは美少女にしか見えないが、言動が少年ぽいのを、幼いながらもマリアは感じていた。 「マザーは、どうして自分のことを僕っていうの?」 「それは、僕にも分からない」 ティエリアにとっては、自我を築いたときは男性であったのだ。その性別が女性であったとはいえ、隠すように少年とデータを改竄し、少女であることを隠していた。 しかし、ロックオンに恋したことでそれも終わった。ティエリアは性別を隠すことはしなくなった。だが、長年少年として過ごしてきたせいか、自分を僕と呼ぶ癖は直らなかった。 「自分のことを僕って呼ぶマザーは好きよ。だって、かっこいいもの」 「そうかな」 ティエリアが、照れた笑いを浮かべる。 「マザー、私大きくなったらマザーのお嫁さんになってあげる」 その言葉に、ティエリアは笑い声をあげていた。 「それは無理だよ、マリア。法律で親子は結婚できないんだよ」 「そんなのずるいー。マザーと結婚したい」 「それに、僕はこれでも一応女だよ。女の子であるマリアと結婚は無理だよ」 「マザー、やっと笑ってくれた」 にっこりと、本当に天使のようにかわいく微笑むマリアに、ティエリアは幸福を感じていた。 一時はファザーである総司令官を憎んだが、ロックオンの遺言を忠実に守り、ティエリアのために未来を用意してくれたファザーに感謝していた。 僕は、幸せです、ロックオン。 あなたの子供と一緒に、生きていきます。 僕にも未来が見つかりました。 マリアという、輝かしい未来が。 ティエリアは、そのまま半年間、マリアと一緒にCB研究所で暮らした。 母と子というよりは、まるでとても年齢の離れた仲のよい友人のようであった。 マリアは幼いながらにしっかりしており、そのIQもティエリアと同じで180をこえているらしい。 CB研究員は、最新の教育をマリアに受けさせたが、途中で止めた。 ファザーの命令だった。 マリアは、普通の子供としてこれから暮らしていくのだ。 CB研究員になるべき子供ではない。研究員の中には、マリアという逸材を失うのはどうかという声もあったが、まだ幼い子供を無理やり教育してCBに入れる気はファザーである総司令官にはなかった。 将来、時がくれば自らの判断で、マリアはCBに入るか入らないかを決めるだろう。 CBは、今や世界が認める機関として成長しており、マリアがもしもCBの中で生きると選んだとしても、その頃もCBはちゃんと存続しているだろう。 「長い間お世話になりました、ファザー」 「電話をかけるからな」 「はい、ファザー」 ティエリアは荷物をまとめて、マリアとCB研究所を出て行くこととなった。 ロックオンの故郷であるアイルランドの、ロックオンの生家を買い取った。 そこで、マリアと二人静かに暮らしていくのだ。 「ファザー、マリアにもお手紙ちょうだいね、ファザー!大好きよ!」 総司令官に抱きつくマリア。 ティエリアも、父親代わりであった総司令官に抱きつく。 「ファザー、また会いにきますね」 「ああ、ティエリア。元気で。幸せに、生きなさい」 「はい、ファザー」 「ばいばい、ファザー!」 マリアがティエリアの手を握り締め。ファザーに手を大きく振る。 総司令官は、二人の姿見えなくなっても、ずっとその方角を見ていた。 NEXT |