時が過ぎ去るのははやい。 あれから、3年の時が過ぎた。 マリアとティエリアは、静かにアイルランドで暮らしていた。 「マザー!起きてよ、マザー!」 「んー」 「マザー!」 マリアが、朝に弱いティエリアを必死で起す。 料理などは昨日のうちにつくられており、レンジで暖めるだけで、マリアも慣れてしまったので一人で朝食を食べてジュニアスクールに出かける。 「マザー、ファザーの弟って人が来てるの、聞こえてる、マザー?」 がばり。 マリアの言葉で、ティエリアは起き上がる。 そして、寝癖を直してガウンを羽織ると、急いで玄関までいって、ドアを開けた。 「よう、久しぶり」 「ライル!すみません、もっと遅くにくるものだと思って眠っていました」 「いいってことよ」 ライルは変わらずあまり容姿がかわっていない。もう三十台になったはずなのに、二十代半ばくらいに見える。 ライルは手を伸ばして、ティエリアの白い顔を挟み込むと、額にキスをした。 「アニューさんとは、うまくやっていますか?」 「ああ。もうすぐ子供が生まれるんだ」 「それは何よりです!」 「それにしても懐かしいなぁ、この家。ちゃんと人の生活している匂いがする。家事が苦手だったティエリアがねぇ」 「僕だって、やればできますよ」 「はいはい。あがってもいいか?」 「どうぞ」 「ライルー!」 「おー、マリア。変わらず天使みたいにかわいいな」 「ライル、褒めても何も出ないよ。きゃはっ」 「ほれ、マリアにおみやげだ」 「なぁに?」 マリアが顔を輝かせる。 ライルは、後ろ手にもっていたゲージを開けて、マリアに中身を見せる。 「わぁ!」 「ロシアンブルーの子猫だ」 綺麗な灰色の毛並みに、金色の瞳をした子猫を、マリアが嬉しそうに抱き上げる。 「ミャァ、ミャァ」 「ライル、いいのですか?」 「いいってことよ。前から何か動物飼いたいっていってただろ。俺は犬より猫が好きだから、勝手に選んじまったけど、まぁそこは許してくれ」 「ありがとう、ライル!」 「大切に育ててやってくれよ」 「うん!」 マリアは笑顔を太陽のように輝かせた。 「マリア、責任もって飼えるかい?」 「大丈夫!スクールでも、生き物係りなの!責任もって世話をするわ!」 「いい子だね、マリア」 ティエリアも嬉しそうにマリアの頭を撫でた。 ティエリアも動物は好きだ。犬でも猫でもなんでも。 マリアが世話をしなくとも、ティエリアが世話をするつもりであるが、しっかり者のマリアであれば、きちんと子猫の世話をして愛情を注ぐだろう。 聡明で活発で、本当にいい子だ。 きっと、ニールに似たのだろう。 「今日は、泊まっていきますか?」 「いや、アニューがうるさいから遠慮しとくよ」 「はい」 ティエリアはライルを居間に通すと、アッサムの紅茶を入れて自分も同じように紅茶を入れてソファに座った。 「それにしても、はじめて聞いた時はどうなるのかって思ったけど、うまくやっているようで俺も嬉しい」 「マリアはいい子ですよ。紛れもなく、僕とニールの子供です」 マリアは、玄関で子猫を戯れている。 「はじめは、俺も命を冒涜していると思った。いくら兄貴の遺言だからって、勝手に命を作っていいもんじゃないだろうって」 「僕も、はじめはそう思っていました」 「でも、マリアが生れてきて正解だったな。ティエリアの目は未来を見つめている。マリアを愛して、一緒に生きようとしている」 「マリアを守れるのは、僕だけですから」 紅茶を一口飲む。 「今でも、兄さんを愛しているか?」 「はい。ずっと、ニールだけを愛しています。無論マリアも同じくらい愛しています」 「子供には父親が必要っていうけど、お前さんの場合は必要ないかもな」 「マリアのためにも、結婚をしたほうがいいんでしょうけれど。そんな気は起こりません」 「それでいいさ。二人が幸せなら。兄さんの分まで、幸せになれよ」 「言われなくとも、そのつもりです」 ティエリアの容姿は、かわらず17歳のまま時を止めている。 いずれ、子供のマリアにも追い抜かれていくのかもしれない。 それもまた、運命だ。 「じゃあ、俺はこのへんで帰るよ」 「また、いつでも遊びに来てください。ここは、あなたの生家でもあるのですから」 「ああ」 紅茶を飲み終えて、ライルは家を出ると車を運転して去っていった。 「ニール。僕は、幸せですよ」 NEXT |